第43話 自分と同じ顔で
ギシギシと木製ベッドの軋む音がする。
だがそれよりも鼓膜を揺らすのは、人間がぶつかり合う音だろう。
自分とそっくりの顔のオンナが、身長一九〇センチを優に超える巨体の男にベッドの上で組み敷かれている。
しかしそれは決して、暴行の類では無いのが分かる。
女の側であるリザは積極的にヴィンチを迎え入れて心から愉しんでいる、そんな表情だった。
気性が荒く、英雄メンバーの中では暴風の魔法使いとさえ呼ばれていたリザ。
歯向かう者はモンスターだろうと、たとえ人間だろうと魔法で吹き飛ばす怖い魔女であると一部から畏怖されていた。
そんな彼女だって、実際は普通の女の子だった。
物心がつく頃にはすでに父はおらず、この歳まで女性だらけの教会で育った。だから頼れる大人の男性というモノに憧れたのは、必然だったのかもしれない。
初めて会った、本物の男。
それも己を素手で負かし、さらには勇者を育て上げるような、圧倒的な強者だ。
『この男なら頼っても大丈夫』
そう身をもって分からされた彼女が心の底から堕ちてしまったのも――それは致し方が無いことだっただろう。
「お願いっ、私を……リザを見捨てないで……!!」
「……分かってる。分かってるから……」
筋肉も、男臭さも、ヒゲも……。
すべてが、自分には無いモノだ。
必死に自分で自分を守ってきた檻を、この男が全部ぶち壊してくれた。
俺が、護ってやるって言ってくれた。
だから、リザは己の全てを解き放ったのだ。
「ヴィンチ……」
「リザ……!!」
その後も、終わりのない宴は果てしなく続いていた。もともと魔王を討伐するための過酷な修行で化け物染みた体力を持つ英雄たちだ。
おそらく明日の朝まで彼らが止まることはないだろう。
その現場を見てしまったモナは既に扉の前から離れ、廊下に座り込んでしまっていた。
「モナ……」
「な、なんで……リザ……師匠……どうして……」
生まれて初めてみる、双子の妹の顔。
自分と同じ顔で、あそこまで幸せそうな表情をするだなんて。
それも、自分たちを育て上げてくれた親代わりの男と……
ぷつん、と何かの糸が切れたような音が、モナの心の中でした。
その瞬間、彼女は居ても立っても居られず、この酒場兼宿屋から逃げ出すように走り去っていた。
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