第22話 モンスターはどこへ?


 ウルの魔法でブドウ農園を荒らすイノシシモンスターを追うモナたち。二人は騎乗用のモンスターであるアロットに乗りながら、ウルの追跡魔法でイノシシの痕跡を辿っていた。


 だが既に一時間ほど走っているのに、いまだ巣穴に辿りつくことができない。どうやらこのモンスターは走ることにかなり特化した種族なのか、遥か遠くからやって来ているようだ。


「足跡の間隔がかなり空いているな。脚力が凄いし、突進力も相当強いだろう」

「うーん。今回はミケが居ないから防御役が不在。リザの魔法も無いから、遠距離攻撃も出来ない……あ、でも今のウルは魔法が使えるのよね?」

「そりゃあ、もちろん。むしろ剣より魔法の方が得意だね」


 今は勇者の身体に魔王の魔力が入っている状態。

 剣の腕も身体が覚えているのか、ウルでもひと通り使えるそうだ。

 つまり、現在の世界最強はウルだと言えるだろう。


「――うん? やっと目的地に着いたようだ。ホラ、あそこ」

「あっ、本当だわ。かなり大きな穴……というより、まるでこれは巨大な蜂の巣ね」


 二人が苦労して辿り着いたのは、なんと切り立った崖の下だった。

 崖壁には幾つもの大きな穴が穿たれており、そのいずれの入り口にもウルが追跡に使っていた魔法のしるしが残されていた。


 今のところ巣穴の外にモンスターが居る気配はない。奴らは恐らく、太陽が出ている日中はこの巣穴に潜んでいるのだろう。


 とはいえ、下手に刺激して囲まれては敵わない。

 アロットから降りた二人は、おそるおそる巣穴の方へと近付いていく。



「それで、この後はどうするの?」

「根絶やしにする必要があるからね。よし、このまま巣穴に魔法を叩きこんで一網打尽にしよう」

「貴方も相当恨んでるわね……」


 キメ顔で提案しているが、簡単に言ってしまえば魔力のゴリ押しである。

 戦略も何もないが、ウルも魔王として久しぶりに思いっきり魔法を放てるのが嬉しいのかもしれない。


 ニヤリと不敵な笑いを浮かべながら、膨大な魔力をその右手に高めていく。それを中心に、竜巻のような魔力の奔流が巻き起こっていた。


 一方のモナは二次被害が起きては危ないと察知して、防御用の結界を張りはじめた。

 最初はただの一般的な対魔法用だったが……底の見えない彼の魔力の膨張を恐れて、強度を張り上げた。それも、魔王戦でも使っていた時の最高レベルのものだ。


 モナの防御が完成したその瞬間、ウルの魔法も準備が出来たようだ。


「さぁ、焼き尽くせ――」


 右の手のひらに作られた轟々と唸りを上げる巨大な蒼炎の球。結界越しでもその高い温度と異常過ぎる魔力の塊にモナの心臓はバクバクと高鳴っていた。


 ウルは右手を突き出し、その火球を放出させる。

 その球は一番手前の穴に飛び込んでいった。


「……ふぅ」

「え? ええっ?? ど、どうなったの……?」


 モナのその疑問に対する答えは数秒の後、ドーンという轟音とともに帰ってきた。どうやら一つの穴が他の穴にも繋がっていたようで、どの巣穴の入り口からも真っ赤な炎の柱が飛び出してくる。

 あまりにもその爆発音が激しすぎて、モンスターたちの断末魔すら聞こえてこない。



「……これじゃあどんなモンスターだったのかも分からないわね」

「やりすぎたかもしれないな……」



 ――ドンッ!!



 ……と思いきや、モナたちの背後から突然、トラックが衝突したような大きな音がした。

 振り返って見ると、そこには立派な双牙を生やした象並みの大きさのイノシシがモナの張った結界に突撃をしていた。

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