第21話 いざ、モンスターの討伐へ
「では、行って参りますね」
「えぇ、お気を付けて!」
翌日、歓待してくれたメルロー子爵に見送られて、モナとウルの二人はブドウ農園を襲うイノシシ型モンスターを討伐する為に子爵邸を出発した。
外は雲一つない、スッキリとした快晴。絶好のモンスター狩り日和だ。
一方のモナは寝不足気味でふわぁ、とあくびばかりしていた。
メルロー子爵の一人娘であるシャルドネ嬢が昨晩、ウルに言っていたセリフがずっと頭の中でグルグルと回っていて、明け方になっても眠れなかったからだ。
『世界を救った勇者様はもう、世間では貴族の扱いです。そんなレオナルド様が一人の結婚相手だけで、周囲が許すとお思いですですか?』
モナはレオを愛するばかり、ずっと考えないようにしてきた。
勇者とは何か。聖女とは何か。
魔王討伐が終わった後、自分たちがどうなるのか。
世界が平和になったらすべてが丸く収まると思っていた。
悪者が居なくなって、自分はヒーローになって、周りからは認められて。
だから自分は勇者であるレオナルドと幸せになっても良いんだって、そう信じてやって来たのに……。
それが今になって、どうしようもなく非常だった現実と向き合うことになってしまった。
「なんだか世界が変わっても、思い通りにはいかないなぁ……」
「ん? どうした、モナ」
「――ううん、なんでもない」
騎乗用モンスターのアロットのたてがみを撫でながら、ふるふると首を振るモナ。
前世だって、好きだったイラストの仕事を諦めて安定した仕事を選び、その職場で旦那と結婚。
人生のパートナーと幸せな家庭を築こうした矢先に事故で旦那を亡くし、自身も病気で
だからモナは今世では好きなことをやって、愛した人と長生きしようと思っていたのだ。
何の因果かその人は勇者となり、自分は聖女となって魔王なんかと戦う羽目になってしまったが。
その苦難の果てにやっと落ち着いた生活ができると思ったらコレである。
何が悲しくてその魔王と一緒に旅をしなきゃいけないのか。
「なんで俺をそんなジト目で見てくるんだよ……」
「ふふふ。なんでもなーい」
だけど、その魔王も実際はそんなに悪い奴じゃなかったみたいだ。
ちょっと……いや、かなりエッチだけど一緒に旅をする分には良いパートナーかもしれない。
強くて頼りになるし、理知的で話していても楽しい。
底抜けに明るいレオとは違うタイプだが、不思議と気を遣わないし一緒に居て疲れない。
少しだけ、前世の旦那にも似た安心感がある……のかも。
かなりサディスティックで、亭主関白な魔王様だけど。
そんななんてことも無い会話をしている内に、街の外にあるブドウ農園へとやってきた。
ここは子爵が直轄しているものの、彼が雇った専門のブドウ農家が全ての管理を一任されて栽培から収穫、加工まで行われている場所だ。
子爵は下手に口出しせず、専門家に任せることでブドウやワインなどのクオリティを守っているのだ。それは王家にも献上されるほどの品質を誇っている。モナはその点も含めて、彼は貴族としても、領地の経営者としてもやり手だと信じている。
専門外である管理職者が実働者に下手にあーだこーだ言うと逆効果だと、
そのお陰であの美味しいブドウとワインが味わえるのだから、それを荒らすイノシシモンスターを許すことは到底できない。
絶対に一匹残らず駆逐してやる、と決意を新たにするモナなのであった。
「たしかに、農園の周りに巨大なモンスターが徘徊しているような形跡があるな」
「そうね、この足跡は並大抵の動物じゃつけられないわね」
かといって農園職員の方も無策といったわけではなく、様々な対策をしていた。
木の柵を立てておいたり、堀を作って侵入を防ごうとしていたようだが……。
どうやらこのモンスターは穴を掘るのが異様に得意らしく、モグラのように巨大な抜け穴を作って農園へ侵攻していたようだ。
さらにはある程度の知能があるのか、人の少ない夜のうちにこの穴を抜けてブドウを
穴の入り口にブドウの汁がボタボタと落ちている。
まったく、いったいどれだけのブドウが被害に遭ったのか……。
「どうするの? 夜行性なら夜に来た方がよかったんじゃ……」
「いや、大丈夫。俺ならモンスターの魔力を辿って巣穴まで追跡できる」
「ええっ、そんなことが出来るのっ!?」
初めて聞くような方法に驚いた声を上げるモナ。その様子を見たウルは腹が立つほどに得意げな表情をしている。
「いいからさっさと始めなさいよ」と言わんばかりにモナがキッと睨むと、ウルは慌てたように何かの呪文を唱え始めた。
すぐに彼の右人差し指が水色に光り始め、そしてその光がブドウの食べ残しの場所に雫のようにポタリと落ちた。
――すると、モンスターの足跡がブルーにぼんやりと光り始めた。
どうやらこれを辿っていけば間違いなく巣穴まで辿りつけるようだ。
モナは何だか前世で見たブラックライトに当てた実験に似ているな~、とぼんやりとしながらその様子を眺めていた。
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