第9話 手に残る熱
勇者レオと魔王ウルの魂がひとつの身体に入ってしまったが
体内に魔力の暴走が起こり、レオの身体に危機が迫っているという話をされたモナは戸惑っていた。
(触れていて欲しい、ですって……!?)
誰のかも分からない墓標を背にしたまま、自分の想い人の見た目をした男に頓珍漢な要求をされているという光景。
墓の下で眠る者たちにとっては迷惑過ぎる話である。
ましてや隣りは女神を
とはいえ、目の前の男はそんなことを気にしている余裕はない。
先程から聖女であるモナが彼に治療を試みているが、効果はまるで無かった。
「たのむ……駄目なら今から他の町娘に「駄目よ!! ……それだけは、絶対にダメ」ならっ!! ううぅっ! ああっ……」
この性格のひね曲がった魔王がその辺の女に手を出しておいて、そのまま無事に返すとは思えない。
今ここで自分が見逃したせいで他の女性が犠牲になるのは許せない。
それにいくら中身が魔王だからって、レオが自分を差し置いて他の誰かと初めてをするのはもっと許せない。
出来ることと言えば、抱き合うような形で彼の背中を優しく撫でてあげることぐらい。
苦しそうに喘ぐ熱い吐息が耳元に掛かる。彼の熱が自分にも移ったかのように暑い。
もう限界に近いのだろう。
シュウシュウと紫色の煙が彼の身体から立ち上り始めた。
このまま放っておけば身体の細胞が膨れ上がった魔力に耐え切れず、自壊してしまう。
つまり、行き着く先は“死”あるのみ。
もはや一刻の猶予もない。
だがしかしモナは具体的にどうすればいいのか分からず、ひとりアタフタと慌てている。
「ぐうっ……モナっ、助け、て……」
「どうしよう……このままじゃ本当に不味いわ!!」
いったいどうすれば、と半分パニックになってしまう。
そんな調子で手で直接回復魔法を当てながら、ペタペタと彼の身体を触っていると――
「あっ……「んんあっ……!!」ご、ごめんなさい!!」
抱き着かれている状態で良く見えなかったせいで、モナの右手が彼の下腹部に触れてしまった。
ウルも敏感な部分を刺激されたために、切ない声を上げてしまう。
完全にフリーズ状態になってしまっている彼女だが、スイッチを入れられてしまったウルはそれどころではない。
続きを、その先を、と餌を強請る犬のように短く息をしながら、じいっとモナを見つめる。
あの彼が必死になって自分を求めている、という現状にモナの心臓はバクバクと高鳴りを上げていた。
かといって、いつまでも彼を
ウルはともかく、大事なレオの命が懸かっているのだ。
(わ、分かったわよ。やれば良いんでしょう……?)
心配をしなくても、変な行為をするわけではない。
……たぶん。
旅の途中もお互い裸で水浴びすることだってあった。
今更ちょっと触れるぐらい、彼の手を握るのとそう変わらないだろう。
……きっと。
(……よし、やってやるわ)
「ああっ、もう……っ!!」
「え? あっ!?」
訪れる、静寂。
汚された、乙女。
魔王としての、威厳の喪失。
「……ご、ごめん。おさえ、きれなくって……」
「……いいわよ、別に。それよりも……」
「う、うん。たぶん、もう大丈夫。……きっと」
「じゃなくって! ……いい加減、この手を離してくれる?」
「あっ、ごめん……」
未だ彼女のことを抱きしめていたことに気付いたウルはハッとした表情になり、ようやく彼女を解放した。
モナはさっさと立ち上がると衣服についた汚れをパンパンとはたいて落とす。
「よしよし、良くできたわね」
「……なんか、立場が逆転していないかな?」
「そうかしら? でも私は貴方の命の恩人ってことよね? なら感謝してもらわないとだわ」
「ちが……くはないけど……ていうか、その手で頭を撫でるのやめてくれない?」
「……浄化魔法は使ったわよ」
「そういう問題じゃ……あぁ、もう。これじゃあ色々と台無しだよ……」
真っ赤になった顔を両手で隠し、
すでにもう、当初の魔王らしさはとっくに鳴りを潜めてしまっている。
なんなら今のモナでも簡単に魔王の首を取れそうだ。
(なんだかこうして見ると普通の男の子ね……って、何を考えているのよ私は!? 相手はレオの身体を奪った魔王なのよ!? どうにかしてあの契約を遂行することを考えなくっちゃ!)
未だ手に残っている熱に気付かないフリをしながら、残るひと月をどうやってこの魔王を扱うべきなのかで頭を悩ませる聖女モナなのであった。
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