第14話


「先生、私、助かりますよね」

 手術台に仰向けになる美咲が、友樹に尋ねた。

「もちろん。僕が腫瘍を綺麗に切除してあげるから、そうすれば、君は完全に病魔と決別することができる。今後も、もう二度と、病気に苦しめられることはない」

「ありがとうございます、先生」

 友樹が頷きながら言うと、美咲は安心したように笑顔を見せた。

「では、オペを始めます」

 友樹は青い手袋をパチンとはめて言った。手術台のライトが灯り、美咲の全身を照らす。手術着をめくると、真っ白く綺麗なお椀型の胸が露わになった。そこにすっとメスを入れる。切り開いた先には、レバーのように赤黒い、大きな腫瘍の塊が埋まっている。腫瘍を慎重に切除する。関係のない部分は傷つけないように、そっと、慎重に。

 やっと、取り除けた。そう思ったところで、美咲の胸の奥底から、また新しい腫瘍が浮き出た。腫瘍は何度切除しても、次々と新しい塊を生み出し、次第に美咲は苦しみ始めた。

「先生、痛い。痛いよ――」

 手術台の美咲が暴れ始める。

「痛い! 痛い! やめて、もう、やめて! 先生、先生――」

 心電図モニターの波がおかしな形状を描く。

 ピッピッピッ。ピーーーーーーーー。

「心拍が停止しました」

 隣の看護師が無機質な声で、そう告げた。

「いや、まだだ。まだ、まだ、なんとかなる。なんとか――」

 美咲の腫瘍がどんどん膨らみ、溢れ、友樹の手に纏わり付く。

「くそっ、やめろっ! なんで、なんでだ! やめてくれ! うわああああぁぁぁぁあああ――」

 目を覚ますと、友樹は自宅のベッドにいた。まるで水浴びでもしたように、シーツはびっしょりと濡れていた。

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