第2話
友樹はその言葉に耳を疑った。
「そうだよね。君みたいな超絶かわいい一軍女子が、僕みたいな底辺の童貞クソ野郎と付き合うはずないんだから、告白の返事はもちろん、オッケ――え? オッケー?!」
ラグビー部がランニングしている大学構内のコート裏で、友樹は大袈裟に叫ぶ。荒野美咲(こうやみさき)は笑顔で頷いた。
「本当にいいの? だって、僕だよ? こんなクラスに五人くらいいそうな、何の取り柄もない平凡を通り越して地味な男と、君は付き合うって言うの?」
もはや何の説得なのか分からない。友樹は自分でもそう思ったが、その言葉に、美咲はケラケラと笑った。
「そんな地味な君と、お付き合いさせて頂きます」
美咲が右手を差し出した。友樹も真似るように右手を出す。が、美咲がそれを握ろうとした瞬間、引っ込めた。
「手汗、すごいから」
友樹は右手をズボンでゴシゴシと拭くと、再び美咲の前に差し出した。
固い握手を交わすと、美咲は友樹の目をじっと見つめて微笑んだ。初秋の日差しが美咲の顔を照らし、友樹の目にはそれがとても神々しく映った。
友樹が呆けているうちに、美咲はその手を離し、カバンを漁り始めた。カバンから出てきたのは、手帳だった。
美咲は花柄の手帳を眺めながら、一人で何やらぶつぶつと呟く。蚊帳の外となった友樹はたまらず尋ねた。
「それは何の確認? もしかして、僕とのデートの日程でも考えてくれてるの?」
「そうそう。そんな感じ」
美咲は手帳に目を落としたまま言った。しばらくして手帳をパタンと閉じると、友樹に視線を戻し、悪戯に笑った。
「よし。今日から君を、火曜担当に任命しよう!」
友樹は合点がいかず、首を傾げた。
「ちょうどこの間、火曜が空いたばかりだったの。いやぁ、君は本当に運がいいよ。告白が一週間ズレてたら、君は私と付き合えてなかったかも」
美咲は笑顔のまま、友樹の肩を叩いた。友樹は美咲の顔を見つめ、次の言葉を待った。
「私、曜日を決めて交際をする派なの」
「ほほう。僕が童貞を貫いてる間にそんな流派が出来てたのか」
感心している友樹をよそに、美咲は話を進めた。
「水曜から月曜はもういっぱいなんだけど、火曜なら今のところ空いてるの。だから、君は火曜担当でいいよね? むしろ、そこに同意してもらえないと、君とは付き合えないんだ」
美咲は残念そうに眉をひそめた。
「よく分からないけど、それは火曜だけ、僕は君の恋人になれるってこと?」
友樹が尋ねると、美咲は首を縦に振った。
「担当の曜日以外は、一切会ったり、連絡をとったりしないってこと?」
美咲は再び頷き、加えた。
「連絡は、私の気が向けば、他の曜日でもオッケーってことになってるけど」
友樹は少し間を置いて返した。
「多分、まだ大半のことを理解してないけど、それで君と付き合えるのなら、僕は火曜担当ということでよろしくお願いします」
友樹の言葉に、美咲はうれしそうに笑った。
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