第4話 イケメン(ケモ耳尻尾)の湧くカフェ
いやもう出るわ出るわ。
イケメンが出るわ。
何? ここ何? イケメンが湧く泉でもあるわけ? もうさ升コーヒーやめてそっちで金とりなよ。
というわけで、ウキウキと現れたのは、片やゆるふわパーマの金髪君、片やさっぱりツーブロックの黒髪君である。服装は白髪君と同じ。従業員は和装じゃないのね。
そんでもちろん、当然のようにケモ耳尻尾スタイル。色は頭髪に合わせているらしく、金髪君はキラキラ光る金色で、黒髪君は黒というか焦げ茶色。金髪君の耳は垂れ耳タイプのようである。
いやほんと、よくもまぁここまでタイプの違うイケメンを集めましたなぁ。ここの採用条件、絶対これでしょ? イケメンであること、それから、先輩とキャラが被らないこと、そんで、ケモ耳尻尾の装着OKか、以上、みたいな。
ていうか、店長さんは免除なの、コスプレ? それはそれで何かずるくない!? いっそお前もケモ耳尻尾であれよ。いや、もしかして、この人の趣味なんじゃ……。オイオイ、大人しそうな顔してとんでもねぇ性癖をお持ちでやがる。まぁ、彼の趣味かはわからないけど。
「わぁわぁ、いらっしゃいませ~。あれ? コーヒーだけ? 軽食はいかがですか? 軽食じゃなくてもケーキとか、パフェもあるよ? ぼく頑張って作るからさぁ、ねぇねぇ、食べて行ってよぉ」
――ぐぅっ!
ゆるふわ君、ぐいぐい来るじゃん。
確かに少々小腹は空いているけど! ぶっちゃけ少々でも、小腹でもないけど! でもカフェのおしゃれフードを食べるなんて……! あれよ、食べたらアウトなやつなのよ、私にとってカフェのフードってやつは。
……いや、それはそれで願ったり叶ったりだったりするのかな?
そしたら少しは色気とかそういうのが出て来るっていうか、女っぽくなって、先輩もあたしのこと『女として』見てくれるようになったり? いや、まぁ妹も『女』ではあるけどね?
こくりと首を傾げて考えていると、それと全く同じ角度に首を傾けたゆるふわ君が、「どうしたの?」と問い掛けてくる。髪の毛より少し濃い薄茶色の眉を、きゅ、と下げて、丸っこい目で見つめられると、ケモ耳尻尾も相まって、何だか昔飼っていた犬のようにも見えてくる。それで、ついついその柔らかそうなゆるふわの髪を撫でてしまった。
「わぁ、なぁに~? ありがと! うふふ」
「おわぁ! すみません! 何かついつい」
ハッと我に返って手を放すと「もっと撫でてくれても良いのに~」とちょっと残念そうである。何この人、犬なの? 犬系男子なの?! めっちゃ癒し枠なんですけど。
「お前はぐいぐい行き過ぎなんだよ。ちょっと下がれ。そんで、お客さん、どうする。何か頼むか? ていうか、おい慶次郎、メニューくらい出せよなぁ」
「しまった、久しぶりのお客さんだったものだから、ついつい」
「慶次郎はそういうところがありますからね」
すみませんでした、メニューこちらです、と手渡されたけど、え、これもう何か頼まないといけない流れじゃない?
しかし、何ていうか、明らかに店長さん、舐められてるよね? 完全に舐められてるよね? 見たところ全員年も近そうだし、仕方ないのかな。
とりあえず、ぱらり、とメニューを開く。
と、先ほどのゆるふわイケメンがあたしの隣で腰を落とし、カウンターに顎を乗せて「ぼくのお勧めはねぇ~」とにこにこ左右に揺れている。いやマジで君、犬? 前世犬だったんじゃない? ゴールデンレトリバーとかそういう系のやつ。その垂れ耳も相まって断然レトリバーっぽい! くっそぉ、あたし犬は大型推し、且つ最推しはレトリバーなんだよねぇ!
「おパ、お客さんが困ってるではありませんか。あなたは調理担当なんですから、ほら、こっちに来なさい」
と、白髪イケメンがぴしゃりと指摘。ふへぇい、と気の抜けた返事をして『おパ』と呼ばれたゆるふわ君は渋々立ち上がった。しかし、変わった名前だなぁ。あだ名とかそういうのかな? それにあの白髪君も『麦』って呼ばれてたしなぁ。あるよなぁ、居酒屋とかでさ、ネームプレートにあだ名が書かれてるやつ。ああいうノリ、苦手なんだよなぁ。そんで、このコスプレでしょ? 何か大学生のサークルノリみたいで正直厳しい。
で、黒髪君は、というと、ずっとあたしの後ろをうろうろしている。
麦さんがお片付け担当で、
おパさんが調理担当とすると――、
成る程、この黒髪君はホール担当だな?
まぁ、それがわかったところで、という話ではあるんだけど。とりあえず、ゆるふわのおパさんがめちゃくちゃ期待に満ちた目で腕まくりしながらこっちを見ているので、何か頼んでやらないと。
軽食、軽食かぁ。カフェの軽食って、あれだよね、ワンプレートっていうの? あの木のお皿にさ、こじゃれた感じで盛り付けられててさ、ご飯も五穀米だか十穀米だか、まぁ何穀米でも良いけどとにかく白米じゃないのよね。そんでサラダには絶対アボカドが入ってんのよ。全部あたしの偏見だけど。そんでデザートには自家製ヨーグルトとかついてたりして。
あんまりおしゃれなのはなぁ。量も少ないし、何か食べた気がしないんだよなぁ。
とぶつぶつ言いながらメニューを指でなぞる。
でも、女子っていうのは、小食なのだ。
そのワンプレートのお野菜たっぷりなやつをちびちび食う感じっていうかさ。それが可愛いんでしょ。そういうところから変えていかないといけないのかもしれないなぁ。
そう思って、『◆ワンプレート◆』というカテゴリで指をとめる。ほーら、やっぱりあった、五穀米と豆腐ハンバーグの和風プレートだって。まぁ~、ヘ~ルシ~。女子が好~きそう~。うん、じゃあこれで良いんじゃん? これを頼んでさ、そんで、写真撮ってさ、SNSに上げるわけよ。『おしゃれなカフェを発見。なう』とかね、そんなのを添えるんでしょ? 知ってる知ってる。いや、『なう』はもう古いのかな。
五穀米と豆腐ハンバーグの和風プレートを指差し、これを、と言おうとしたところで、後ろから、にゅ、と腕が伸びてきた。それがこちらの断りもなく次のページをぺらりとめくる。
「あんな、フードメニューは裏にもあっから。そんな腹に溜まんねぇやつじゃなくて、もっとがっつり食えよ。おパのヒレカツ定食は絶品だぞ」
「ひ、ヒレカツ定食?! 定食?!」
ここカフェじゃねぇのかよ! いや、珈琲処か。いやこの際もうどっちでも変わらん!
「うふふ、ご飯もお味噌汁もキャベツもおかわり無料だよ」
「なんですと!」
それはもう完全に定食屋さんのサービス! カフェのサービスはせいぜいお冷飲み放題だよ! ただしあれな、輪切りのレモンとか謎の葉っぱ(たぶんハーブ的なやつ)が入ってるやつだからそれも! 水道水じゃねぇんかい、ひと手間加えやがって!
「ちなみに今日のお味噌汁はね、まいたけとえのきとしめじの『三種のきのこスペシャル』だよ。どうする?」
「何それ豪華!」
「あとね、今日の日替わり小鉢はレンコンのきんぴらだよ。どうする?」
「日替わり小鉢って!」
ここカフェじゃねぇのかよ! それはもうあれだよ、『おっ
「どうする? うふふ」
うふふじゃないよ。
もうそんなの決まってるでしょうよ。
「ヒレカツ定食お願いします!」
「ヒレカツ一丁! かしこまりました!」
「ヒレカツ一丁! 喜んでぇ!」
「ヒレカツ一丁! あーりがとうございまぁす!」
そんでそれは居酒屋のやつだろ!
ここカフェじゃねぇのかよ! 威勢良いなぁ、ケモ耳ーズ!
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