第49話 親子だから似る
お母さんと話し合うと決意を決め、お父さんに言う為に深呼吸しで玄関のノブを掴む。
いつもより重く感じる玄関の扉。
そして扉をを開けると、目の前にお父さんが靴を履いていた。
「……あ」
互いに気まづい感じになり、一瞬だけ目を合わせたと思ったら二人して逸らしてしまう。
そんな中、口ごもるわたしの背後でわざとらしく咳払いする美咲。
早くいっちゃいなよって暗に言っているのがわかり、わたしは勇気を出して――。
「お父さん!」
「碧!」
やはり父娘と言うべきか、同時に呼んでしまい再び沈黙。
するとお父さんの方から。
「悪かったな、碧。父さん、ちょっと勝手が過ぎたよ。碧は碧で、東京で上手くやってるのにな」
「ううん。わたしの方こそごめんなさい。ずっとお父さんに押し付けたままで。お父さんはお父さんで大変なのに」
「馬鹿。子供は親に迷惑かけるのが仕事だから気にするな。父さんの願望に無理に付き合う必要はないし、子供には子供の人生があるからな」
そう言ってお父さんは、わたしの隣を歩き、玄関を開ける。
「お父さん、今から博多に帰るの?」
「いや。いまからだと新幹線も飛行機も間に合わないからな。駅の近くにホテルを取ってあるから今日はそこだ。明日新幹線で帰るよ」
明日新幹線で帰る。その言葉の意味に懐かしくなり、ちょっとだけ笑みが浮かぶ。
お父さんは高所恐怖症で、高いところが大の苦手。
だから移動の時は決まって電車かバスを使っている。
「ふふ。相変わらず高所恐怖症は治っていないんだね、お父さん」
「当たり前だ。そんな簡単に治ったら苦労はしない。……じゃあ、碧。今日言った事は忘れてくれ。学校頑張るんだぞ」
「……うん」
玄関の扉がしまった瞬間、わたしは急いで扉を開けて呼び止める。
「お父さん! あの……博多に帰るって約束は出来ないけど……お母さんと話すだけなら、少しの間博多に帰るよ」
その言葉を聞いたお父さんの目元に何か輝くものが浮かび上がった。
「その……無理するなよ、碧。お前は今まで無理してきたんだ。父さんの言うことなんか聞かなくてもいいんだぞ」
「無理なんかしてない。正直お母さんに会うのは怖いよ。だけど話したいと思ったのは、わたしの意思だから。ちゃんとお母さんと向き合いたいっていう、わたしの意思」
「……わかった。知らない間に強くなったな、碧。母さんの若い頃と同じ顔してる」
「それはみんなのお陰だから。それに親子だから似るのは当たり前だし、若い頃って言うと、お母さん怒ると思うよ」
「確かにな。母さんには内緒だぞ、怒ると怖いからな」
お父さんと久しぶりに向き合って話し、そして笑った気がする。
電話口やメッセージアプリの中でのやり取りだと単調になるし、まして画面に映る文字だと相手の感情がわかりにくい。
こうして顔を合わせて話すと相手の声音から少しは感情が読み取れる。
今わたしの目の前にいるお父さんは嬉しい時の声音。
お母さんと話し合うと決めたわたしだったが、このあと自分でも意外な決断を下すとは思いもよらなかった。
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