第25話 美咲の気になる人
私達に話し掛けてきた格好いい男性店員さんから出た「美咲ちゃん」という言葉。
どうやらマスターと同じように、しょっちゅう美咲がカラフルに出入りしてるからと思ったが、直ぐに違うと分かった。
「お、お久しぶりです。
え? 夏樹先輩? っていう事は……。
先輩からして演劇部の卒業生ってことは察したが、美咲の声がいつもと違う。
「久しぶりって、この前も来たでしょ、美咲ちゃん」
「あれ、そうでしたっけ? あはは」
「そうだよ。あ、演劇部の皆は元気にしてる? 特に金丸君は」
「はい、金丸部長は相変わらずヒーヒー言いながら台本を書いてますよ」
美咲か金丸部長の物真似をしながら男性店員さんを笑わせる。
「彼を部長に推したのは僕だからね。彼の台詞センスは目を見張るものがあるし、ただちょっと怠け癖があるけどね」
「いやいや、殆んど怠けてますよ。いつも七菜子ちゃんのイベントが! って言ってますから」
「あはは、相変わらず金丸君は面白いな。所で美咲ちゃん、こっちの可愛らしい子は?」
男性店員さんが美咲から私に視線を向けて目が合う。
何となくだが、立飛くんと同じ優しい瞳の色をしている。
「この子は四季島碧。私の従姉妹で、博多から転校してきたばっかで同じ演劇部なの」
「へぇ~。よろしくね、碧ちゃん。僕は
その瞬間にこの人が……夏樹さんが美咲が以前言っていた気になる人だと分かった。
「は、初めまして、四季島碧です」
「よろしくね。碧ちゃんは演劇部って言っていたけど前の学校でも演劇部だったの?」
「え?! いえ……初めてです。金丸部長に初めてにしては演技に熱が込もっていたからやってみないかって言われて……それで」
最初は成り行きで美咲に言われたが、金丸部長にも言われて自分でもやってみたいと思ったから。
昨日の自分よりも変わりたくて。
「そっか。でも金丸部長がスカウトしたなら間違いないね。彼、人を見る目は僕よりあるから」
夏樹さんが妙に納得したような顔をしながら私に笑いかける。
「もう夏樹先輩、金丸部長を買い被り過ぎですよ」
「あはは、そうかな? 僕は彼の作る台本は好きだけどな。ほら去年の文化祭で初めて彼が手掛けた演目、確か……」
「赤ずきんちゃんミュージカルです……」
赤ずきんちゃんミュージカルと言った瞬間に美咲の顔が暗くなっていくのが分かった。
例の黒歴史文化祭だろう。
「そうそう、それ。お婆ちゃんの家が崩壊するし、美咲ちゃんが掛けた変身魔法がなかなか解けなくて、しばらく僕は狼の姿だったから。あはは」
「あの時はすみませんでした、夏樹先輩……」
「いや、あれはあれで僕は楽しかったからいいよ」
どうやら美咲の変身魔法が解けなくて苦労したらしいが、夏樹さんは笑って受け流している。
見た目のままに優しい先輩らしい。
そんな事を思ってるとマスターから「夏樹ちゃん。悪いけど、こちらのお客様の注文もお願い!」と声がかかる。
「はーい! ……ごめん、注文は決まった?」
「え、えっと……私はアップルパイとアイスティーを。碧は?」
「私もアップルパイで……あとアイスミルクティーでお願いします」
私達の注文を伝票に書き込むと夏樹さんは「ちょっと待っててね」と言ってマスターの元に戻り、美咲は緊張していたのか、テーブルにある冷水が入ったコップを手に取り口にした瞬間に私は美咲に核心を突く。
「美咲、夏樹さんの事が好きでしょ?」
「ぶッ?!」
いきなり核心を突いたのに驚いたのか、美咲は口に含んだ水を噴き出してしまう。
「ケホッ、ケホッ。な、何の事かな~。私が夏樹先輩を好き? 碧さん、それは外れだよ、あはは」
「美咲を見れば分かるよ。夏樹さんを見る目が違うし、いつもと声のトーンが違うから」
「なっ!?」
今まで見た事が無いくらい顔を真っ赤に染める美咲。
「美咲、顔が赤いよ」
「え?! あ、これは夏の太陽が熱いからだよ。あはは」
「ふ~ん。夏の太陽ねぇ……」
態とらしく手で顔を扇ぐ美咲に私はテーブルに置いてあるマリンドームを見る。
するとマリンドームからは輝きが無くなり、海はいつもの姿を私に見せていた。
******
夏の熱い日差しを日除けのパラソルで遮る中、私達はアップルパイの美味しさに魅了されていた。
「これ凄く美味しいよ」
「でしょ! これマスターの手作りだから」
「え!? マスターの手作り……」
美咲に言われてマスターを見てしまう。
あの強面のマスターが、こんな繊細な味を出すアップルパイを作れるものなのかと、失礼なことを考えてしまう。
しかもマスターと視線が合うと手を振ってきて、こっちも釣られて振ってしまった。
逆に笑顔で手を振ると怖い! 強面のままでも怖いけど!
アップルパイの味が何処かに消し飛んでしまったので、ミルクティーで口直しをしていると急に美咲が下の歩道に向かって叫ぶ。
「あ、ハヤトー、暇ならこっちでお茶に付き合いなさいよ!」
「ぶっ?!」
思わず飲んでいたミルクティーを噴き出してしまい、美味しいアップルパイにミルクティーをトッピングしてしまった。
そして恐る恐る下を見ると確かに立飛くんがいるが、知らない女性の姿も隣に――。
しかも仲良さげに話している光景に心がチクっと何とも言えない痛みが走る。
「(誰ね?! そん女性は?!)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます