第15話 演劇部裁判 前編

あれから金丸部長を体育館連れていき、私の目の前にはパイプ椅子が用意されており、金丸部長はそこに座っていた。

 暗幕のカーテンは閉じられては、スポットライトは金丸部長に当てられている。

 しかも金丸部長の手には玩具の手錠が嵌められていた。

 暗闇の中で誰かが咳払いすると更にスポットライトが照らされて裁判官の服を着た沙織先生が現れる。


「被告人。名前、金丸勝俊。職業、立川北高校3年演劇部部長で間違いないか?」

「間違いありません。沙織先生」


 金丸部長が沙織先生と言った瞬間に小槌が叩かれる。


「沙織先生ではありません。沙織裁判長です」

「はい……」

「宜しい。これより被告人、金丸勝俊の裁判を開きます。罪状は文化祭における演目台本未完による罪、並びに逃走罪に完成をしたと言って完成してない罪。あとパンダ体型の罪……衣装担当から採寸が直ぐに変わるから衣装が大変と訴えられています」


 役に成りきっている沙織裁判長に次々と罪状を付けられる金丸部長。


「以上の罪により即決裁判を行います。被告人、間違いはありませんか?」

「こ、これは不当逮捕だ! 俺にだって弁護士を呼ぶ権利がある! 弁護士を呼んで……」


 金丸部長が弁護士を呼んでくれと叫ぶ中、再び沙織裁判長の小槌が叩かれた。


「静粛に被告人。裁判前に被告人にはミランダ法による権利の告知を済ませました。ですが被告人を弁護してくれる者がしかいなかったのです」


 沙織裁判長が小槌を叩くと三人目にライトが当たる。

 立飛くんに掛けてもらったカーディガンに袖を通す中途半端な魔法使いこと私だ。

 すると沙織裁判長がため息混じりに言う。


「他の人に弁護を頼んだんだけど、みんな被告人を訴えるから彼女しかいなかったの」

「くー! みんな裏切り者がー!」


 金丸部長が手錠に嵌められた手をパイプ椅子から床に膝を着けながら叩く。

 沙織裁判長が手招きすると警備員の衣装を着たヒロミが金丸部長をパイプ椅子に座らせた。


「ヒロミ、頼む! 手錠を緩めてくれ! 後は自分でやるから!」

「金丸部長……俳優担当として言います、罪を償って下さい。くくく」

「おい! 薄ら笑いを止めろ!」


 叫ぶ金丸部長に「静粛に被告人!」と小槌を叩く。


「では裁判を始めます。美咲検察官、被告人に質問をどうぞ」

「はい、裁判長」


 私の対にスポットライトが当たりスーツ姿の美咲が出てきた。


「被告人に質問します。文化祭の台本は未完なのは認めますか? また未完なのに被告人は自己中心的な考えでアイドル、七菜子ちゃんの番組を見ようと逃走を図りましたね?」


 金丸部長が「はい」と言いそうになった瞬間、私は沙織裁判長に挙手して「い、異議あり!」と言う。


「これは検察の誘導尋問です。被告人は決して自己中心的な人物ではありません! 家に帰って七菜子ちゃんの番組を観ながら台本を書こうとしていただけです!」


 珍しく私の大声に美咲が嬉がっているのが分かる。

 引っ込み思案の子が頑張ってるなと思っているんだ。

 私の言葉に沙織裁判長が美咲検察官に言う。


「一部異議を認めます。検察は質問に気をつけて下さい」

「分かりました、裁判長。では裁判長、被告人の家での生活が分かる証人を呼びたいと思います」

「許可します、美咲検察官」


 体育館に繋がる外との扉が開かれると金丸部長と似た体型の女性が入って来た。


「母ちゃん!?」


 金丸部長に母ちゃんと呼ばれた女性は飲食を仕事にしているのか割烹着姿で出廷してきた。


「被告人、金丸部長のお母さん。金丸美紀恵さんに来てもらいました。美紀恵さん、いつも演劇部の打ち上げ会場の提供ありがとうございます」

「いえいえ、美咲ちゃん達に贔屓にしてもらって感謝してますよ。こら勝俊! みんなに迷惑を掛けるなって言ったでしょ!!」


 お辞儀をして感謝する美咲検察官に美紀恵は照れながら挨拶しては息子を叱る。


「美紀恵さんに質問します。被告は普段から家で台本を書いておりますか? また台本を書いてる所は見たことはありますか?」

「異議あり! 被告人の生活態度は今回の案件とは関係ありません、裁判長!」

「異議を却下します、弁護人」


 流れを遮ろうとしたが沙織裁判長に弾かれてしまい、美紀恵が美咲検察官の質問に答える。


「いいえ、美咲検察官。息子は家に帰ると好きなアイドルの番組を……確か名前は……」

「七菜子ちゃんですね、美紀恵さん!」

「は、はい」


 美咲検察官の言葉に思わず頷く美紀恵。


 すかさず私は「異議あり、誘導してます」と発言し、沙織裁判長は「異議を認めます。証人は分からない事は分かりませんと答えて下さい」と促す。

 美咲検察官の質問に続けて答えた。


「確かに息子は家に帰ったらアイドル番組やアニメにゲームをやってます。家で台本を書いてる所は見たことはありません」

「聞きましたか! 裁判長に陪審員のみなさん!! 被告の生活態度からして台本が未完なのは明白です! 現に台本のクライマックスは白紙だったんです! これは許しき自体ですよ!?」


 美咲検察官の劇場型裁判に陪審員である部員や沙織裁判長も頷いてしまっている。

 完全に流れが悪いと悟り、私は裁判長に挙手した。


「裁判長、弁護人からも質問宜しいですか?」

「許可します、碧弁護人」

「感謝してます、裁判長。美紀恵さんに質問します。被告……いえ、息子さんは文化祭の演目について何か言ってましたか?」


 私の質問に美紀恵は笑って答えた。


「はい、今年は皆で楽しめる演目にしたいと。皆が出演出来る演目にして誰もがスポットライトが当たる劇にしたいって言ってました。台本を書いてる所は見たことはありませんが、口癖の様に言いながら台本を読み返してます。去年の文化祭は皆に悪い事をしたから今年こそはって」

「ありがとうございます、美紀恵さん。裁判長、弁護人からの質問は以上です」


 質問に対する答えに陪審員席がざわつくと沙織裁判長が小槌を叩く。


「では陪審員による審議を始め、審議が終わり次第、被告に判決を言い渡します。では、これにて一時閉廷します」


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