第13話 みんなと食べると
急に隼さんに呼び捨てでいいよと言われ、気が動転してしまった。
思わず女子トイレに駆け込んでは鏡を見ながら深呼吸しては目を瞑る。
「あ~緊張した……」
気を落ち着かせる為に一人言を呟いた瞬間「そんなに緊張した?」と背後からいきなりの囁き声。
「み、美咲!?」
鏡を見ると美咲が笑いながら立っている。
「いきなり出て行くから心配したよ。隼なんて『俺、何かした?』って言ってたし」
「ほ、本当?」
「うん。ま、恥ずかしがり屋だから許してあげてっとは言っといた。感謝しろよ~碧さん」
美咲が脇腹をいつもの様に肘で小突く。
「うん……ありがとう」
何処かぎこちなく笑う私に美咲は笑顔で肩を優しく掴む。
「いつもの様にいればいいよ。隼は悪い人じゃないから、私が保証する」
「……うん」
「ま、ちょっと碧に似て頑固だけどね~。あはは」
「もう、何よそれ……うちは頑固やなかけん」
美咲に励まされ心が落ち着き、つい博多弁で喋ってしまう。
お昼だからと教室に向かう前に購買部に向かっている途中、美咲から聞かされた意外な事実。
なんと隼さんの家は魔法石を使ったガラス工房を営んでおり、出来上がった作品は綾子さんの店で売っていると。
昔お母さんに貰ったストラップ。
ガラスで出来たイルカのストラップで、確か国立のガラス工房で作って貰ったと聞いたような。
駅で転んだ時に壊れてしまったが……。
購買部から教室に戻ると茜が手を振った。
「こっちこっち! も~遅いよ」
「メンゴ。いや~購買部がアイドルの握手会並みに並んでたからさ」
美咲の冗談に茜は笑いながら「まー例え様によっちゃ数十年前はアイドルかもね」と言っては手に持った紙パックジュースを飲む。
茜の周りにはヒロミさん……それと隼さんが座って食べている。
茜が私達2人分の席を空ける様にヒロミさんと隼さんに促した。
そして美咲は席に座るなり、購買部で買ってきたサンドイッチにお弁当を机に置く。
「さ~お昼お昼♪ は~お腹空いた~」
確かに朝から走ってお腹は空くが美咲の食べる量にヒロミと隼、それに茜まで目が皿になる。
もちろん私もだ。
その光景にヒロミが口を開く。
「美咲は相変わらず食べるな。太るぞ」
「あはは、だな」
相づちを打つ様に隼が笑いながら言うと美咲が拗ねる様にサンドイッチを食べては。
「太りませんー! 乙女に失礼だぞ。それに、こう見えて鍛えてるからね」
「確かに。美咲は昔からストイックだからね。ま~無駄なモノは無いけど、必要なモノまで無いからね」
「ちょっと、茜! どこ見て言ってるの!?」
茜の視線は美咲の胸を見ては、私の胸を見て1人で頷く。
「親戚同士だから顔は似てるけど胸の大きさは違うわね」
「あはは、ま~ね……って、これから成長するの! いい、これからね!」
恥ずかしがる様に美咲は顔を赤くして購買部で買ってきた牛乳パックを飲む。
美咲……気にしてるんだ。
私なんて食べると太りやすいから購買部ではサンドイッチとミルクティーのペットボトルしか買って無いのに……羨ましか!
紅茶を飲みながら碧は周りを見て1人で納得してしまう。
美咲に茜、ヒロミさんや隼さん。みんな演劇部の部員で本当に仲が良いんだと。
博多の学校ではいつも1人で食べては家でも1人で食べる事が多い。
昨日の夕飯じゃないけど誰かと食べるって美味しいんだと噛みしめながらサンドイッチを食べていく。
「碧、なにか良いことあったの?」
「え!? ……良いこと?」
サンドイッチを食べ終えた食いしん坊美咲がお弁当の惣菜、タコさんウィンナーを口に運びながら言う。
「うん。だってニコニコしながら食べてるよ」
「うそ!? ニヤついていた?」
思わず自分の頬っぺたを触ってしまう。
マッサージする様に揉んでると茜がパックジュースを飲みながら頷く。
「してた。何かこう……ポワポワしてる感じ?」
「あはは、何だよソレ。抽象的だし、碧の可愛さと茜の可愛さは違ぇぞ」
茜が身振り手振りで表現するが、ヒロミが横でお腹を抑えて笑っている。
しかも然り気無く茜の可愛さを立てるヒロミ。
「うっさい、ヒロミ。どうせ私は可愛くないよーだ」
茜は頬っぺた膨らませながらそっぽを向いてしまう。
「なんか誤解してるみたいだから一応言っとくけど、碧は碧しか出せない可愛さがあって、茜は茜しか出せない可愛さがあるんだよ。特に演劇部で茜が作る衣装は俺は結構好きだぜ。何かこう、服に情熱が込もっているからな」
「ヒロミ……」
流石はリア充ヒロミ。
甘い言葉に茜の頬がほんのり紅くなる。
「って、アンタも何かこうって言ってる時点で抽象的でしょ! 他の女子は騙せても私は騙されないよ、このエセホスト!!」
「あはは、ひでぇな。ガラスのハートが傷つくわ~今夜の枕は濡れるな」
「ウソつけ!」
態とらしく胸を押えるヒロミに茜のツッコミ姿に笑う美咲に隼。
その姿に思わず碧も笑ってしまう。
それを見た茜やヒロミも笑う。
「1人食べるより皆で食べると美味しいでしょ、碧」
美咲の言葉に私は笑顔で。
「うん! とっても」
みんなそれぞれの色が色濃く出ており、ちょっとづつだが私の人生という名の灰色キャンバスに色を塗る。
そう、少しづつと。
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