第12話 友達

美咲のお陰で教室は水浸しになり、その階下にあるクラスや私達は空き教室を廻ってジャンケン大会を何故かしている。

 学校の空き教室は文化祭に向けて荷物置き場になっており、空き教室は1つしかないのだ。

 勝てばエアコンが効いた空き教室、負ければ通称『青空教室』……つまりはエアコン無しで爽やかな猛烈に熱い日差しを浴びながら屋上で授業する。


「よし! 私の勝ち~美咲様にかかればこんなもんよ、あはは」


 そして今、犯人扱いを受けた美咲は持ち前の勝ち運を持ってクラスの皆に贖罪しているのだ。

 勝っては敗れを繰り返し、私達クラスは美咲を残し私だけ……。

 美咲が負けたら私しかいない……私が負けたら皆に悪いよ、しかも私ジャンケン弱いし……。

 まだ負けてもいないのに1人罪悪感に悩まされる。


「ま、私にジャンケンで勝とうなんて早いのよ。あはは」


 美咲の笑い声に悔しそうに下がっていく男子。

 すると相手クラスから「いけ、西郷! ラグビー部の強さを見せろ! お前が最後の望みだ!」とかけ声。


 ジャンケンにラグビー部は関係ないと思うんだけどな……。と1人脳内呟きをしていると西郷さんが美咲の前に立ちはだかる。

 西郷と言われた男子は名前に劣らず体格が良い。ラグビー部が求めるであろう理想的な肩幅と筋肉が制服の上からでも分かる。

 すると西郷さんが美咲にトンデモ発言した。


「美咲、俺が勝ったら今度こそ俺とデートしよう!」

「ヤダ、タイプじゃない」


 えええ!? 西郷さん美咲に公開デートば申込んでは速攻で美咲にフラれた!?


「フ、照れるなよ。そんなに皆の前で俺とのデートをOKするのが恥ずかいしか」

「イヤイヤ恥ずかしくないから。暑苦しいのよ、あんた。私のタイプとは真逆だから。私は知的なのがタイプなの。分かった?」

「知的だと! ならばそれは俺しかいないだろ! 見ろ、この逞しい筋肉! そして鍛えた脳筋を!」


 ん~確かに暑苦しか!  しかも脳筋ん意味が違うばい!


 最早暖簾に腕押しの西郷に美咲は呆れた顔をした瞬間、西郷さんの目が輝き「ジャンケンポン!」と早口で言っては、焦った美咲が咄嗟に手を出す。


 一瞬、沈黙したと思った瞬間に西郷さんの顔に笑みが見えた。


「悪いな。デートの誘いには敗れたが勝ちは勝ちだ、悪く思うなよ」


 西郷さんはチョキを出し、焦った美咲はパーを出してしまった。

 膝を屈して悔しそうにする美咲にクラスの皆は温かい言葉を……等は一切掛けずに無言で美咲の手足を縛っては、今度は『魔法バカ』と墨字で書いては額に貼る。


「え~みんな酷いよ~! 西郷まで勝ち進んだんだよ~! あいつはズルしたんだよ!?」


 泣き叫ぶ美咲に私以外は誰として慈愛の目で見ない。

『青空教室』は流石に死んでも嫌らしい。

 そして遂に最終決戦が開かれる。

 筋肉を自慢する西郷さんに1人オドオドする私。


「あ、あの……よろしくお願いします」

「む? 何処かマイスイートハニーと同じ面影が……」


 美咲が「誰が、マイスイートハニーだ! 私の可愛い従姉妹だから!」と床に暴れながら叫ぶ。


「ほぅ、それで似てる訳か。だがな勝負は勝負、悪いが負けるわけには……」


 次第に西郷さんの言葉が途切れていく。

 突如と西郷さんが着ていた上着を私の肩にかける。

 それもその筈。美咲や他の皆は濡れたシャツの代わりに上着だけジャージを着ており、急な登校だった為に私は濡れたシャツのままなのだ。


「濡れたままだと風邪をひくぞ、マイスイートハニーの従姉妹さん」

「あ、ありがとうございます。西郷さん……優しかやなあ」


 つい博多弁が出てしまうが、取りあえずお礼を言う事を優先してしまった。


「い、いや。男なら当然だからな。気にするな……」


 ん? 気持ち西郷さんの頬が赤い様な気がするけど……ま、いっか。


 そんな事を思っていると西郷さんが手を差し出そうとした瞬間。私は勝負が始まったと思い、柄にもなく「ジャンケンポン!」と言ってしまった。


 沈黙が支配する。


 西郷さんはパーを出し、私はチョキを出していた。

 その瞬間に私のクラスから歓声が上がる。

 呆気に取られている西郷さん。

 しかも手をパーのままで固まっている。

 相手のクラスからは、西郷は握手を求めていただけたがら再戦だ! と声が出ているが、西郷さんが手を上げて静止した。


「勝負は勝負だから俺の負けでいい。彼女の勝ちだ」


 その一言で相手クラスからの声が止まる。

 かくして壮大なジャンケン大会は幕を閉じた。

 そんな西郷さんに私は近寄っては手を握る。


「西郷さん、ありがとうございました。楽しかったです」

「あ、ああ……」


 顔を赤くする西郷さんと別れては、私は美咲達の所に駆け寄った。

 そして西郷は握られた手をジッと見ながら呟く。


「フッ……可憐だ……」


 敗者がクラスの輪に戻り、皆が温かく迎えると思いきや……美咲と同じ様に手足を縛りあげては額に『筋肉バカ』と墨字で書いた奴を貼る。


 ******


「いや~碧のお陰で快適快適。まだ夏本番前だけど流石に暑いからね」


 席に座っては、シャツの胸元を手で摘まみながらパタパタと扇ぐ美咲。

 すると美咲の横に座って来た女子が呆れて言う。

 駅で助けてくれた人で赤いフレームの眼鏡を掛けた女の子。

 たぶん美咲が言っていた茜さんって人だ。


「もともと美咲が教室で花火を打ち上げなければこうはならなかったでしょ。反省しなさい」

「はーい、反省しまーす」


 手を上げなから気持ちが込もってない言葉で返事する美咲。

 教頭先生が言っていた意味が分かる。

 きっと今まで魔法でやらかしていたに違いないと。


「でも四季島さんのお陰で助かったよ。美咲の勝ち運を当てにしたのが間違いだったからね。危うく青空教室で授業する嵌めになりそうだったし」

「い、いえ……役に立てて良かったです。半分私の所為でもありましたから」

「あはは、大丈夫だよ。ぜんぶ美咲の所為だから気にしないで。この前なんて1年の入学式で記念撮影やったんだけど、魔法で桜吹雪やろうとしたら突風出して桜ぜんぶ散らしたからさ」

「あはは……」


 1年生が可哀想と思っている私に美咲は「いや~中々の突風だったね。あはは」と笑って誤魔化していると急に美咲は何が思い出したように声をあげながら手招きする。


「お、はやとー、こっちこっち」


 美咲に呼ばれた男子はちょうど教室に入って来た所だった。

 ちょっと癖っ毛ぽい黒髪に何処か優しい色を出している顔つき。

 私を駅で助けてくれたもう1人の恩人、隼さんだ。


 あれ……なんで隼さんを見たら心が嬉しいと思ったんだろう……ま、いっか。


 隼さんが私の隣席に座る。

 どうやら私の隣席が座席らしい。

 ちょっと心が高鳴った時、美咲が2人の事を紹介してくれた。


「昨日、碧を助けてくた人だよ。こっちの眼鏡女子が演劇部副部長で名前は藤堂茜とうどうあかね。で、こっちが立飛隼たちひはやと

「あ、あの時はありがとうございました! お礼は必ずします!!」


 私が立ち上がっては頭を下げてお礼を言うと茜さんが笑いながら。


「大丈夫だよ。てか、私は何もしてないから。それにタメなんだから敬語は無し無し。美咲と同じ気軽に茜って呼んで、私も碧って呼ぶからさ」

「はい……うん、茜」


 美咲に言われたからでは無いが、自然と笑顔で笑いかけた。

 その笑顔に茜の鼻息が荒くなる。


「やだ、美咲。碧の笑顔ちょー可愛いんだけど」

「でしょ~。笑顔が可愛いんだからって言ってるんだけど本人が目立つのを嫌がってるのよ」

「え~何ソレ、勿体無いんだけど。てか、美咲は悪目立ちし過ぎ」

「だよね~、……てっ、オイ! 悪目立ちって何!?」

「お、今のは見事な突っ込み!」


 圧倒的速さで話す女子トークに付いていけない私。

 東京の女子高生は凄いなと感動してまう。

 対する隼さんは静かに眺めていると美咲が話を振る。


「ほら、碧も隼に何か言ったら?」

「えええ!?」


 いきなりのキラーパスに困ってしまう。

 咄嗟に出た言葉は。


「あの、あの時はありがとうございました! コレお返しします!」


 ポケットから隼さんに借りたハンカチを返したのだが、返し方がまずいのか、突き出す様に出してしまった。

 だけど隼さんは笑って受け取ってくれた。


「どういたしまして。俺も茜と同じで立飛か隼って呼んでいいよ。四季島」

「え!?」


 恩人を呼び捨てにするのは流石に気が引ける!

 しかも隼って呼ぶのは気持ちが何故かムズムズする!

 心臓の鼓動が速くなり。


「む、無理ばいー!」


 気持ちが動転してしまい、私は博多弁を言いながら走って教室から出てしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る