第4話 ようこそ四季島家へ!!
あれから綾子さんの案内により、遂に家に辿り着けた私。
美咲の家は爆発した野球グラウンドの近くにあり、国営公園北通り沿いに建っている。
なんとなくだが、私の知っている色があった。
目の前にある北通りの向こうは陸上自衛隊の基地に給食センター。その近くには小さな電気屋さんにコンビニがある。
どれも私の知っている色。
「碧、姉さんはまだ博多でガラス工芸を売ってるの?」
「……あ、はい。小さい時お母さんが言ってました。うちの魔法石を卸しているガラス工房がある限り、お店は続けるって。今は事情が事情なんで店はお婆ちゃんが、お母さんが作った会社はお父さんがやってます……」
その言葉に綾子さんはちょっと意外そうな表情を見せ、少し恥ずかしそうに笑った。
「そう、姉さんがそんな事を……。あんまり姉さんは自分の事を喋らないからね。しかし凄いなぁ姉さんは。会社まで作っちゃうんだから」
私のお母さんは博多にある魔法石を使ったガラス工芸店を継ぎ、それを輸出するために会社まで作った。
しかも私が産まれた年に設立し、会社名は『アオイ』。魔法石を使ったガラス工芸は珍しく、今じゃちょっとした貿易会社にまで成長した。
ちょっと事情があり、今はお父さんが会社を経営しているが……。
「あの……お母さんはお店を継ぐのを嫌がってたんですか?」
「え?!」
「ご、ごめんなさい! つい立ち入ってしまって……」
綾子さんの驚き顔に、つい反射的に謝ってしまう。
「まぁ、隠していてもしょうがないからね。お母さんは昔から魔法の勉強で家を空ける事が多かったから、よく姉さんと喧嘩してたのよ」
魔法使いなら見聞ば広げんしゃい! 見えん色が見え、今まで見とった色が変わるけん!!
お婆ちゃんがよく言っていた口癖。
実際、お婆ちゃんは海外を旅して人々に魔法を見せてらしく、部屋には当時の写真がある。
もっとも知り合いから知り合いを伝い、もっぱら外に出れない孤児院や小児病棟の入院患者に魔法見せて慰問していたらしい。
それこそ花火魔法で花を夜空に咲かせたり、天の川を見せたりと。
これが小児病棟では人気があり、世界中からオファーが今も絶えない。
夏の眩しい日差しに照らされながら綾子さんが私の瞳を見る。
琥珀色の瞳が私の瞳を見つめ――。
「それに碧、あなたも遠慮しなくていいのよ、あなたは家族なんだから。私の事は美咲と同じように、東京のお母さんと思って」
「……はい」
小さく返事してしまった私。
本当だったら美咲みたく元気よく返事をしたい。
実際に綾子さんから言われて胸の奥が温かくなった。
だけど綾子さんは私のお母さんを……今のお姉さんがどんな人か知らない。
そう……私のお母さんは魔法使いなのに魔法が嫌いなのだ。
******
私のお母さんも魔法使いとして優れていたと綾子さんから聞かされていた。
お父さんからは、私が小さい頃までは魔法を勉強をしていたが次第に勉強をしなくてなっていったと。
幼いながら私はお父さんに理由を聞くと、お母さんはちょっと疲れただけだよと言われた。
そんな私はお母さんに元気になってもらおうと幼いながらお母さんの前で魔法を披露し……そして頬を叩かれ言われた。
『中途半端な魔法使いは嫌いなのよ』と。
その言葉の真意は分からないが、嫌いという事だけは幼い私でも嫌でも分かる。
思わず泣いてしまう私をほっといてお母さんは魔法とは関係ない仕事に……私とは関係ない事に夢中になっていき、私を遠ざけては入院してしまった。
「あ……あお……あおい、碧!」
「は、はい!」
昔を思い出していると現実世界に呼び戻された。
目の前にいるのは私を嫌いと言ったお母さん……ではなく綾子さん。
「大丈夫? 顔色が良くないけど」
「大丈夫です……ちょっと疲れただけですから……」
「そう……」
綾子さんが私の表情を伺っている。
恐らく私の嘘なんて簡単に見抜いているだろう。
だけど――。
「なら直ぐに部屋を用意するから休みなさい。ちょうど美咲の隣が空いてるから」
「はい……ありがとございます」
気の無い返事に綾子さんは怒らず黙って指を指した。
きっと私のお母さんだったら怒られている。
食事の時に飲み物を溢した時は『そんなんじゃ1人で生きていけないわよ!』って言われては手を叩かれたくらいだから。
「あれが美咲と私、碧の帰る家よ」
「私の……帰る家?」
目の前にある家は2階建ての一軒家。1階部分はガラス張りになっており、中には小さいながらも色とりどりのガラス工芸品が陳列されている。
「1階部分はガラス工芸品を売ってる店舗で、2階部分が住居だから。ちなみに美咲の部屋は南側で夏になるとバルコニーから花火がよく見えるわよ。もっとも美咲は近くで見た方が花火が豪快だよ、お母さん! って言ってるけどね」
「ぷっ……なんか美咲らしいです」
綾子さんの言葉に思わず笑ってしまう。
すると綾子さんが笑いながら言う。
「やっと笑ってくれたわね、碧。碧は可愛い顔してるんだから、笑った方がいいわよ」
「そ、そうですか?」
「そうよ。ちょっとタレ目なところが姉さんに似てる……でも自分の色がちょっと薄いかな。他人の顔色を察するのは長けているけど、それが碧の色を薄めている。もっと周りに甘えなさい、ここは碧の家なんだから」
他人の顔色を察するのは長けている……その言葉は当たらずとも遠からずだろう。
「お婆ちゃんは大丈夫かな……」
その時、私の口から出た名前は自分の事ではない。
まして自分の嫌いなお母さんの名前でもなく、遠くて近いお婆ちゃんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます