第13話 8 小さな夢



 そして弟が暮らす下宿では、何度目かの誕生日を祝うようになっていた。その時は、美咲もケーキを買って行くのではない。洋菓子店の女主人の旦那、ケーキ職人が特別に、二人で食べ切れるような小さなバースデイケーキを作って、美咲に手渡すようになっていた。

「ねーちゃん、いつも済まないな」

「いいのよ、これは店長の奢りなんだから」

「誕生日、おめでとう。さ、食べようよ」

「うん」

「ねぇ、涼太は中学卒業して、お料理屋さんに修行に行って、どれくらいになるのかなぁ」

「わかんね、そういうの数えた事ないし」

「そっか、お料理の腕の方はどうなの?」

「ねーちゃん、俺さ、アメリカ行くよ」

「えっ、急にどうしたのよ」

「そんな笑いながら聞かなくてもいいだろ。俺、結構、器用なんだぜ」

そう言えば、以前に店長から見込まれていると聞いたことがある。

「店長がさ、若いんだから、いっぱい世界を見て来い、って言うんだよ」

美咲は少し不安になる。弟が日本にいなくなるということは、ある意味で天涯孤独と変わらなくなる。

「別にすぐって訳じゃないんだけど、まだ覚えたい事が残ってるしさ。でも、俺、アメリカに行く。いつか、きっと、アメリカで小料理屋やるよ」

「そうか、涼太がアメリカで成功するの楽しみだな。お姉ーちゃん応援するよ」

「うん、成功したらアメリカに呼ぶからさ」

「うん、待ってるね」

事実、杉浦涼太は数年後にアメリカに行く事になる。

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