第14話 足湯移動

「なあカナタ、オレの家もここと同じようにしてくれないか? 夜とか寒いんだよ」

「だからお金がかかるんだって。銀貨出せるならしてもいいけど……ルイスは一人暮らしなのか?」

「今は男三人で住んでる。隙間風が入って寒いんだよ。男同士で身を寄せ合って寝るのって虚しいもんがあるだろ? 三人で金を出し合えば買えそうな、安いやつとかないのか?」


 ルイスの言葉に少し考える。男三人が震えながら身を寄せ合っている姿は哀れで何とかしてやりたいとも思うが、そうすると残り二人にも浴槽設置のことがバレてしまう。バラしてしまっていいものだろうか。また村長に怒られるだろうか。いやでも、ルイスを貸し出したの村長だし。


 残りの二人が信頼できそうな人物ならこちら側に取り込んでしまってもいいかもしれない。ルイスの知識量は少なそうだし、同じ村の人なんだから情報収集の面からも少しくらい良いだろう。残りの二人と話してみて信用できそうだと感じたら、仲間になってもらうとか。


「そういえば湯浅邸の裏側に設置した足湯があったよな。あれを移動させてくるとか出来たりして? そしたら無料でできるかもしれん」

「あしゆ? 何だそれ?」

「ああ、外観はガゼボみたいな壁のない、足だけ湯に入れる施設なんだが……」


 ルイスはきょとんとしている。ガゼボと言っても通じていないようだった。タブレットを手元に引き寄せて、マップ画面を見つめる。ティモが足の間に割り込んできて、ルイスが体を寄せて覗き込んできた。人口密度が高い。


「タブレットさん、足湯の移動ってできますか?」


【小型足湯・屋根有(保護付き)を削除しますか? ※返金不可】


 俺の呼びかけに応えるように、画面の中央に文字が表示される。削除じゃなくて移動させたいのだが、言い方が悪いのだろうか。あと、画面上で削除が出来て返金不可なんだな。


「いや、削除じゃなくて。その足湯をこの村に移動させて設置しなおすとかできませんか?」


【小型足湯・屋根有(保護付き)を削除しますか? ※返金不可】


 言い方を変えてみたが、結果は同じだった。施設の移動はできないらしい。建物を取り壊して、そのお金が返って来るとは考えてもなかったが、もしも返金されるなら色々使い道もあるしそれこそチートだったな。温泉まんじゅうも食べ放題だったかもしれない。でも良いことを知れた。何かあった時に足湯もこの建物も削除できるだろうし、証拠隠滅には便利かも。


「さっきから何してるんだ? その文字はなんて書いてある?」

「ああ、ルイスは文字が読めないんだったか。簡単に説明すると、俺たちが前に住んでた場所に足湯っていう小さくて狭いけど、ここと同じような暖かい空間を設置してたんだ。それを動かしてこの村に持って来れば、ルイスたちはそこで過ごせば暖かいかなと思ったんだよ。でも出来なかった」

「なんだよ、出来ないんかよ。役に立たないやつめ」


 役立たずのルイスに役に立たないと言われてしまった。ちょっとイラつく。


「ルイスはいくらまでなら出せるんだ? 三人で住むなら、三人合わせての金額でもいいぞ」

「うううううん、オレは次に村長から貰う銀貨二枚を出すとして、あいつら金持ってるかな? ペーターはしっかりしてるから銀貨三枚くらいはすぐ出せそうだけど……クラウスはどうだろ?」

「合計銀貨五枚って事は50,000リブルか。そのクラウスってのがどれほどかは知らんが、大したものは買えそうにないな」


◆手湯・足湯    30,000リブル~

◆サウナ室     80,000リブル~

◆ユニットバス   200,000リブル~

◆家族風呂     400,000リブル~


 画面が切り替わって浴槽購入画面になる。ギリギリ寝泊まりできそうな広さなのはユニットバスに付いているはずの脱衣所だろうが、値段が高すぎるし三人だとギュウギュウ詰めになりそうだ。俺は貯金を持ってて本当によかった。この家族風呂で使い切ってしまったけど。


「うーん、サウナ室で寝られるかな? 電源オフとか出来れば、座席と床を合わせれば寝られそうなんだが……」

「さうなしつ? どんなだ?」


 画面が分割されてサウナ室のプレビュー画像が大量に表示される。二~三人用の小さなものから、商売が出来そうな程広いものもあった。例のごとく広さや内装によって値段は上がる。スチームサウナ、ミストサウナ、ロウリュ、スモークサウナ、遠赤外線サウナと種類も様々だが、俺はあまり詳しくなくて違いが分からない。


「うわ、サウナカーとか存在するんだ! これが買えれば移動楽々じゃないか? でも足湯は動かせなかったし、移動できない可能性もあるな」


 サウナカーは1,000,000リブルと値段がついていた。もしも見た目は車なのに設置型だから移動できないとかなら、大変な無駄遣いになる。サウナの金額は80,000リブルがスタート価格なのに、こんな高額なんて詐欺じゃないのだろうか。


「なあカナタこれ……真ん中に置かれてる白いの何だ? 雪か?」

 

 ルイスが指さす先を見てみると、塩サウナの画像があった。六畳ほどの広さの板張りで出来たサウナの中央に、塩がてんこ盛りに設置されている。


「これは塩サウナって言って、真ん中の白いのは塩だよ。この部屋の中は物凄く熱いんだが、この塩を体に塗り込んでおくと汗と一緒に体の汚れが出てくるんだったかな? ダイエット効果があるとかも聞いたけどよく分からん」

「えええええっ?! 塩がこんなに?! これ売ったら大儲けじゃないか! この塩さうなってのは銀貨何枚で買えるんだ?! このさうなの中にある塩を売ろうぜ!」


 ルイスが大声で叫んだ。家族風呂の防音設備はどうなっているのだろうか。熊が家に突進してきた時はドンドンと音が中にまで聞こえたから、家族風呂のなかで叫んだりしたら外に筒抜けかもしれない。


「そういえば塩が高く売れるんだったなぁ。でもこの塩は、体に塗り込む用だから食べられるかは分からんぞ?」

「食べられない塩とかあるのか? そんなの売ってしまえばバレないって!」

「いやでもさ、これとは別に持ってた塩を村長に売りつけたんだが、量が多すぎて文句を言われたんだ」

「心配ないって! 村では無理でも、町に行けば大量に買ってくれる店もあるだろうし! このさうな買おうぜ!」


 塩サウナの詳細を見たいとタブレットに話しかければ、塩サウナの内部画像が大写しになってプレビュー表示された。家族風呂を買う時は気づかなかった機能だ。あの時は時間もなかったから半ば賭けのように勢いで温泉まんじゅうっぽいものが映っているものを衝動買いしたが、落ち着いてタブレットに内部画像を表示してもらえば良かったのだ。


「塩サウナは100,000リブルか。狭いのに高いのは塩があるからか? この塩は消耗品扱いになるだろうから、たぶん持ち出しは出来るだろうが……目視では10キロ分くらいか?」


 塩サウナを100,000リブルで購入し、中にある10kgの塩を売るとする。1kgの塩が66,000リブルで売れたから、同じ金額で10回売るとして、660,000リブルか。設置して塩だけ回収して削除する事を繰り返すとしても、560,000の儲けか。


「……ぼろ儲けじゃないか!!」

「ぼろもうけなのか?!」

「ぼろもうけ!」


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