不仲の理由

 勇人は教室に戻ってくると美雨は他の生徒と楽しく話していた。その元に早足で駆け寄る。


「みう……じゃなくて凪。ちょっといいか?」

「はい、大丈夫ですけど……」


 美雨は首を傾げたが勇人のあとについていく、その一部始終を見ていた一人の生徒は二人のあとについて行った。

 そして人目がつかない校舎裏まで移動した時には午後の授業の始まりのチャイムが鳴る。


「美雨。先に謝る、さっき俺はトイレに行ってた訳じゃないんだ」

「どこ行っていたんですか?」

「天音に会いに行っていた」

「えっ!?」

「決して美雨を裏切るなんてことはしてない。ただ気になったんだ。美雨と奈々がそこまでして仲が悪いのか気になったんだ。けど途中でブレイブファンタジーソードの敵もとい俺達が狙っていた敵が現れたんだ」

「そんな、すみません。私全然気付かなくて」

「幻影魔法を使っていたからおそらく気付かなかったんだろう、それに天音がいたから大丈夫だった。それよりも奈々と不仲の理由聞いていいか?嫌なら言わなくてもいいけど、ただ場合によっては悪いけど天音とかに聞くかもしれないからそこは先に謝る」


 内心ビクビクしながら聞く勇人、あれだけ怒りを露わにするのはあまり聞かれたくない事情だろうと思って逆ギレでもされたらいくら好意が向いているとはいえ怖いものは怖かった勇人だが思い切って聞いた。

 美雨は一瞬だけ驚いた表情をしたが目を閉じて深呼吸したのち目を開くと少し困った表情をする。


「すみません。ちゃんとこういうのは言わないとダメですよね」

「ああいや話すのが嫌なら大丈夫だよ」

「いえ、正直に話します。実は……奈々はプロメモで奈々ルートで主人公を私から奪うルートなんです」

「え?本当に?」


 聞き間違いかもしれない、ギャルゲーで主人公を取り合うならまだしも奪う。なんてド直球過ぎて何か聴き逃したのかもしれないと思う勇人は聞き直す。


「えっとその〜、私と主人公が付き合ってると分かって奪うんですよ」

「…………本気で言ってるの?」

「はい。それで一応それなりに仲は戻るのですが完全には戻らないです。そしてその怨念がちょっと……」


 ネタバレを聞いてむしろそのルートこそどこをどう間違えたらそうなるのかやってみたいと思った勇人だが今はそれどころじゃないと我に返る。


「怨念って、これ以上聞くのはやめとこ、じゃあ今のままで二人の仲は?」

「戻りません。私は正直嫌です。勇人君が盗られるので」

「ですよね。うん、ごめん」

「勇人君は悪くないですよ、あ、でも主人公が奈々に好意が向いたのは悪いのかな?あれ?でも主人公と言っても今は勇人が主人公で、それで……うーーん?」

「そこで考えるのは止めようか、俺も少し混乱する。とりあえず美雨としては奈々と仲良くする気はないということでいい?」

「まあ正直そこは頷きたいですけど今の状況的に協力しないといけないのですがまあ勇人君が言うなら仲良くはします。表面上」


 色々とツッコミたい勇人だったが今はまだ美雨と奈々をくっつけるべきではないと分かった勇人はに思っていたことを聞こうとした時に目の前から桐谷が現れる。


「桐谷っ!お前いつの間に!?」

「――お前ら……」

「あ、いやこれは相談ごとで……」


 会話を聞かれバレたと思った勇人と美雨だが桐谷の反応は違った。


「――プロメモをそこまでプレイしてくれてるのか!?」

「……はい?」

「いやほら美雨や奈々の名前が出てたし、この前に勇人に勧めたゲームだったからもしかしたらと思ったんだよ、しかし凪ちゃんもやってるとは意外だよ」

「あーーうん、そうなんだ」


 何とかバレずに済みホッとする勇人と美雨しかしちょうどいいと考えた勇人は美雨に耳打ちする。


「前に話したけど桐谷にはこの状況話しちゃうか?」

「私もそう考えていましたが何度か軽く思念魔法を使い桐谷さんの頭に直接語りかけた事をしましたが無反応でした。奏美さんは私達を認識出来る時点で勇人君と同じで大丈夫ですが桐谷さんは今は私を凪と認識してる時点でちょっとあまり……」

「ああそうだよな、でも情報に関しては俺や奏美より深いから大丈夫な気はするけど」

「あんまり一般人を関与させてはいけないと思います、奏美さんは特殊な場合でしたが勇人君の友人であるならあまり危険なこと付き合わすのは難しいかと、あとは私達がカバー出来るとは限らないのですみませんがここは情報だけお願いします」


 美雨の言う通りだと思い勇人は今は情報だけでも桐谷から聞き出すことにした。


「分かった、なぁ桐谷」

「うん?どうした」

「プロメモの事で聞きたいんだがいいか?」

「いいけどその前に勇人はクリアしたのか?」

「あーいやまだかな、あと半分?」

「じゃあ無理だな、あれはネタバレ無しの方が楽しめるぞ」

「それは分かってるけど少しだけでもいい」

「いや少しでも無理だ、ちなみに誰のルートなら終わってる?」

「美雨……だけ……」

「あと半分ってよく言えたな、まだ全然じゃないか、ちなみに凪ちゃんは?」

「凪でいいですよ。私は全てクリアしてますよ」

「マジで?え?天音ルートも?」

「ええもちろん」

「すごっ、おい勇人。プロメモを語るならここまでクリアしとけよ」

「いやまあはい……そうですね……」


 クリアというより攻略するべきヒロインの一人で本物だからこそ全て知ってる美雨はニコニコした表情を作る。


「まあプロメモはいいや、そしたらブレイブファンタジーソードのことは教えてくれるか?」

「んまあ、それなら別にいいけどちなみに凪ちゃんは大丈夫?」

「はい。私も気になっていましたから」

「もしかしてそっちもプレイしてるの?」

「はい。面白いですよね」

「マジかよ、もしかしてゲーム好き?」

「どちらかといえばそうですかね」

「これは楽しくなりそうだな、なぁ勇人」

「あーはい、そうッスね」


 変にあれこれ言うより美雨が話の主導権さえ握れば十分だと思った勇人は桐谷の事は美雨に任せることにする。

 そして午後の授業に遅刻しながらも授業を終えて放課後になる。

 するとクラスメイトが教室から出ていく中で牧亜が誰一人気付かれることなく堂々と教室に入って勇人の前に立つ。


「そのままでいい。認識阻害を使ってる。今日天音と会ったがやけに疲労と拳に殴った跡と皮が向けて血が出てた。誰と戦った?予想はつくが一応聞く」

「疲労?そんな素振りは……」

「そんな事は後でいい。今は誰かって聞いてんだ」

「ごめん。実は例の敵かもしれないが顔は幻影魔法で美雨を装っていた。ただ槍を使わずに剣だった」

「チッ、やっぱな」

「やっぱ?なにか他にあるの?」

「ブレイブファンタジーソードのラスボスで間違いはない。もうこの際だからハッキリ伝えておく、ラスボスの名前はグリオス・ラヘン。人間から悪魔に魂を売った半人間の半悪魔、七つの神器を持つ敵だ」

「グリオス……ラヘン……本当にグリオスなのか」


 グリオス・ラヘンはそれなりにやり込んでいる勇人でも聞いたことはあった。ラスボスであることは頭に入れていたがまだ挑むことはしてなかったため情報不足に等しかった。そしてその名前を聞いてあの時の戦いを思い出す勇人、たった一瞬の出来事だったが躊躇なく天音に斬り掛かる姿は間違いなく人ではない者を意味していた。

 そこに勇人に話しかけるようにして近づいてきた美雨。


「何の用ですか、牧亜さん」

「敵の、ラスボスの情報だ。決まりだ、ラスボスはグリオス・ラヘン。顔は変化自在の悪魔。今後はアタシ達、家族、友人全て疑え」

「顔が無いんだよな、グリオスは」

「ああそうだ。設定では『魂を売ると同時に顔も名前も悪魔に捧げ名無しとして蘇った』とある」

「天音さんは大丈夫ですの?」

「お前が心配とは意外だな」

「一応これでもこの世界では協力しませんと、それに勇人君の身が第一ですので」

「ま、そうだな。ただ天音は少し休むそうだ」

「疲労と聞いたけど本当に大丈夫なのか?」

「天音はアタシ達とは違いたしかに最強ステータスの保持者だ。ただ最強にも必ず欠点はある。それが魔法などのMPの変わりとなる疲労は倍加する。そして虚弱にもなる。だから悪いが今は天音を休ませてほしい」

「俺は全然構わない。というか休んでほしい。美雨もそう思うよな」

「はい。最強なのは少し気に触りますが構いません。今のところグリオスと直接交えたのは天音さんしかいませんから下手に動くよりいいかと思います」

「決まりだ。こちらから他の人達にも伝えておく。それと来週辺りには萌香と美波が合流する。じゃあな」


 牧亜は情報を伝えると教室から出て行った。


「本当にグリオスなんだな」

「顔のない悪魔。恐ろしい敵とは情報にありますが対峙してみたいと分かりません」

「あんまり役には立たないけどかなりスピードは早いよ、天音でもギリギリだった」

「十分です。私の場合は平均ステータスなので少し怖いですが考えます」

「とりあえずかえ……」

「勇人ー!凪ー!一緒に帰ろうぜ」


 凪もとい美雨がゲーム好きだと知った桐谷は新しい仲間が出来たと思い強く接し始めてきた。


「桐谷もあー言ってるから帰るか」

「そうですね」


 そして勇人と美雨は桐谷にプロメモに限らずブレイブファンタジーソードについて話して家に帰った。

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