最強の生徒会長

 勇人は次の日、一人で昼休みに学校の屋上に向かう。美雨にはトイレという名目で一人で行く。

 屋上に行くとそこには天音が一人で日傘をさしながら空を眺めていたが勇人が来たと分かったのかゆっくりと振り返る。


「――あら、勇人くん。こんにちは」

「昨日、奈々が家に来た」

「それで?」

「美雨と奈々が凄い仲が悪かったんだ、ゲームではそうじゃなかったから驚いた」


 天音にそう聞くと天音は微笑む。


「…………勇人くんはネタバレは大丈夫ですか」

「ネタバレか、やっぱ知っといた方がいいのか?」

「そうですねぇ……Problem Memoriesというゲームはネタバレを聞いたらおそらく面白みが欠けると思いますよ。まあゲームのキャラがそんな事いうのはおかしいと思いますがね。ふふっ」

「そう言うってことはやっぱ色々複雑なんだな」

「あら、これもひとつのネタバレに含まれちゃいますね。ごめんなさい」

「いやいいよ、緊急事態というよりも今後知っとかないと色々と大変だろうから」

「そうですか、じゃあ教えましょう」


 傘をクルクルと回しながら天音は話を始めた。


「まず私達ヒロインの数はご存知?」

「外れてたら悪い、多分七人だったけ?」

「正解です」

「でもたしか俺が会ったのは五人しかいない、美雨に天音、牧亜と奈々に沙羅のこの五人だけ、あと二人はたしかえっとー……」

神村かみむら 萌香。神鷹しんたか 美波ですね」

「そうその二人」

「この二人の所在は分かっています。しかし彼女達の方はまだこちらと会う準備が整ってないそうです」

「準備?」

「ええ、こちらはもう少し秘密とさせてください」

「まあ天音がそう言うなら、それで他には」

「神凪 美雨。神海 奈々。この二人はたしかにとあるルートで仲が悪くなります」

「やっぱりか、でも二人はかなり仲が良かったのにそこまでして忌み嫌うほど悪くなるのか?」

「なりますよ。私達、女の子は意外とこじれると中々に面倒くさくなるので、しかし問題はここではありません」

「仲が良いのに仲が悪いのが問題じゃないってなんか複雑だな」

「いえ実際そこの喧嘩の原因も問題なのですがそれ以上に厄介な問題は私達全員はそれぞれがゲームのヒロインと知ってのここにいるはずでしかもそれぞれの攻略ルートも熟知してるんですよ」

「うん?その攻略ルート知ってるんだったら俺が牧亜から聞いたハーレムルート取るにしても全員が俺に好意を向いている設定でも事前に知ってるのなら嫌うことだって可能じゃないか?」

「はい。可能ですよ」


 笑顔ではい。と答える天音にヒロイン達側から嫌いになるという選択肢が出たことに少し残念と同時に何とも言えない表情になる勇人は分かりやすく肩を落とす。


「攻略ルートのこと聞いて思ったことはありますか?」

「思ったこと?……いや特に」

「神凪 美雨のルートに神海 奈々と喧嘩の理由を知りたいとは?」

「それは気になるな、そもそも仲直りしたのか?」

「サラッと重要なこと言わないでくださいよ。そうです、仲直りの件です」

「悪い。んでどうなったんだ?」

「それは彼女に直接聞きますか?」

「直接?」


 彼女と言う天音の目線の先は勇人の背後、屋上のドアの方を見ていた。するとドアを開けて出てきたのは美雨だった。


「美雨っ!?」


 美雨は怒った顔をしてその手には剣を持っていた。


「あらあら、秘密を言う前に……」

「――少し黙ってください」


 声音が完全にキレてる雰囲気に勇人はちょっと怖く感じ身を引くと天音が後ろから両肩を掴み勇人の耳元で囁く。


「あれは嫉妬心ではない。それにではない」

「彼女では、ない?」

「簡単な話だよ。見ておくといいですよ」


 両肩から手を離して天音が勇人の前に出ると天音は一息ついてから口を開く。


「神凪 美雨――いえどなた?と言った方が正しいですわよね」

「どういうことだ?そこにいるのは美雨だぞ」


 突然天音が何を言い出すのか疑問に思う勇人、すると美雨は不気味に笑い出す。


「あははははは、さすがに同じモノ同士、バレちゃいますよね」

「幻影魔法。魔術師の最上位魔法にそうとうするスキル。本来は回避スキルですがあくまでゲームのスキル、この世界ではかなり強力になりますね」

「幻影……天音まさかアレは本当に美雨じゃないのか」

「……そう……いや違うな。バレたのならキャラ作る必要はないな」


 美雨と思わしき人物は声音が美雨から男性の声に変わる。


「なるほど、まさかとは思いますが貴方は私達が探している人物で合ってますか?」

「別に隠す必要もないしな、正解だ」

「じゃあ貴方を倒せば私達はどうなりますの?」

「そうだな〜それは俺様を倒せたら教えてやる」

「倒してしまったら教えてもらうこと出来ませんよ」

「それもそうだ――なっ!」

「――ッッ!!」


 美雨ではない美雨の顔を模した人物はたった一瞬にして間合いを詰めて天音の首を狙いすまして斬りつけてきたが天音はギリギリの所で伏せそしてそのまま勇人を引っ張り引き下がる。


「……中々にやりますね、しかし女の子が命の次に大切な髪の毛を問答無用で切るなんて酷い人ですね」


 天音の髪の毛がほんの少し切れ落ちる。


「天音。大丈夫か?」

「ええ大丈夫ですわ、私達の使命に勇人さんを守ることがありますので当然のことですわ」

「逃げよう天音。牧亜か美雨が居ない今は危険過ぎる」

「逃げる?生徒会長である私がチャンスを目の前にして逃げるなんて到底考えられませんわ」

「無理だよ」

「あまり舐めてもらっては困りますわよ、私は生徒会長。そしてプロメモの最強にして最大の難攻不落攻略ルートを持ったキャラですのよ」

「今は関係ないだろ、ルートとかの話じゃない」

「ああそういえばひとつだけ伝え忘れたことがありましたわ」

「それどころじゃないだろ」

「まあ見ておくといいですわ」


 逃げようと言う勇人に対して天音はゆっくりと美雨ではない人物に近づいて天音が踏み込んだ瞬間に天音がその場から消えた。


「――なっ!?どこ……」

「下ですわ」


 踏み込んだ一瞬で天音は懐まで入り込んでいた。そして間髪入れずに顎目掛けて拳を叩き込むと空高く打ち上がる。


「勇人さん。私達ヒロインは攻略ルートの難易度によってブレイブファンタジーソードのステータスにバラつきがありますの、そして最強の難攻不落攻略ルートを持った私のステータスは最高値。オールMAXですのよ」


 唖然とする勇人。桐谷から軽く聞いていたがプロメモ内で伝説と言われる神童 天音。それは攻略ルートが不規則がゆえに難攻不落にギャルゲーではまず付けるのが不必要な『最強』という称号が名付けられた『最強の生徒会長』 神童 天音。それが彼女だと改めて知らしめられた勇人。

 しかし、打ち上がられた美雨ではない人物は地面に着く瞬間受身をとる。


「くっ……まさかこの俺様が不覚をとるとはな、すこしばかり侮ったようだな」

「あら?クリーンヒットしたはずですが?」

「調子に乗るなよ、貴様如きに死ぬ俺様ではない。そして貴様には用はない、用があるのはそこの男の方だ」

「ですわよね、だから勇人さんを守ることが私達に与えられてますわよね。それでまだ戦いますか?別に私は本気ではないですわよ」

「チッ……まだ力を蓄える必要があるな、次は必ず殺してやる」


 美雨ではない人物はそう言い残すと消えた。天音は安堵の息を吐いたのち勇人の前に来る。


「勇人さん。私達は貴方『芹沢 勇人』という人物に惹かれてる存在です。しかしそれはプロメモ側の設定ですが同時に『守る』というプログラムが組み込まれています。明らかにプロメモ側とブレイブファンタジーソード側のプログラムが両立してるんです。捻れた設定ではありますが私達はこれからも貴方の攻略を見出すこととゲーム側の攻略を目指しています。先程の敵は言葉的に私達が探しているラスボスだと思われます。どうしますか?」

「どうするって……」

「私達はそのプログラムの解析と解決に向けて動いています。前に勇人さんと美雨さんにはブレイブファンタジーソードの敵を倒すことに変わりありませんがプロメモとしての攻略を諦めてもらうことになります」

「えっ?それってどういうこと意味?」

「正直、今の状況二つのゲームを同時に攻略するのは勇人さんにとってあまりにも荷が重くまた私達が守りきれる保証はありません。ですのでプロメモとしての攻略は諦めて全力でブレイブファンタジーソードを攻略しようと思ってますわ」

「待てよ、じゃあもし仮にさっきのラスボスみたいな強いモンスターが出てきて天音達がし、死んだら?どうすんだ」

「構いませんわ。私達はあくまでの存在、そして勇人さんのゲームのキャラ、他のプロメモというゲームに影響しませんわ、たとえ全員が死んだとしても必ずブレイブファンタジーソードの敵を倒してこの世界を、勇人さんを守りますので」

「そうじゃない!おかしいだろ!!」

「おかしい?何がですか?」

「その……天音達は…………」


 上手く言葉出ない勇人、前にも同じ事を美雨から言われた。『ゲームのキャラ』ということに引っかかり苦悶する表情を浮かべる勇人すると天音は微笑む。


「ふふ、勇人さんは優しい人かもしれませんね。でもこれは私と牧亜で決めたことですので、それでは……あっ、美雨さんと奈々さんの件は直接本人に聞くといいですよ。それでは」


 天音は去っていく、その場に残された勇人は俯くと先程天音が立っていた場所には数滴血が零れ落ちていた。


「血……天音はゲームの存在と言っていた。いやあるわけない。だって彼女達は……」


 その血は天音のだと分かった勇人。先程まで頭の中にあった言葉がハッキリと分かった。勇人はすぐに立ち上がって走り美雨の元にむかった。

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