二人のヒロインと兄妹

 芹沢 奏美は神海 奈々という現代ではほぼ見ることの無い和服姿でさらに本物なのか偽物なのか分からない二本の刀を脇に携えた女の子と出会い、話をしようと提案した奈々はある場所に奏美を連れていく。


「――って、ここ私の家じゃん!なんで私の家知ってるの!?」


 連れていかれた場所はまさかの奏美の自宅だった。もちろん奈々とは初対面で自宅の場所なんて教えた覚えも公開したこともない。


「ええ、ここに話がわかる人が居ますので」

「どういうこと?ちょっ、勝手に入らないでよ」


 奈々は堂々と何食わぬ顔で奏美の家に入ると自分の家のように場所を把握してるかのごとく向かった先は勇人の部屋だった。


「――こんにちは。芹沢 勇人さん」

「えっ!?お、お兄!?」

「んなっ!お前はっ!というか奏美!なんでここに?」


 部屋の中には勇人と美雨が何か話していた様子で勇人は突然部屋に入ってきた奈々と奏美に驚いた。


「ちょっとどういうことお兄?この人達は?」

「こっちが聞きたいよ!なんで奏美がここに?てか君はもしかして奈々、ちゃんか?」

「ちゃん付けなんていいですよー、美雨さんとは同級生ですから」

「そうか……じゃなくて色々とまた問題がやってきたな、美雨どうする?」


 あれこれと一気に聞きたいことが舞い込んできた勇人は美雨に助けを求めると美雨は剣を持ち剣先を奈々に向けて睨みつけていた。


「――どうしてここに?神海 奈々」

「やだなー、私は芹沢 奏美さんに説明をするためにここに来ただけだよ」


 剣先を向けられて普段の美雨の姿から考えられないほど敵意が剥き出しで今にも斬りかかりそうな美雨に対して奈々は笑顔を崩さずにいたがその手は刀の柄に手をかけて奈々も敵意を向けていた。勇人はそれをひとまず止めるために間に入る。


「ちょっとストップ!美雨と奈々の関係も聞きたいところだけど奏美に先に説明してもいい?」


 もはや目の前で起きていることについていけずに目を回して魂が抜けた様子の奏美を見る美雨と奈々はひとまず両者ともに武器をしまい、勇人と美雨、奏美と奈々と向き合って座る。


「えっとそれで君は神海 奈々であってるよね?」

「はい。神海 奈々です。ちなみに勇人さんはさっさと美雨さんから離れた方がいいですよ」

「何言ってんの?勇人君には私が必要で私も勇人君が必要なのよ、馬鹿じゃないの?」

「だって〜美雨さんは……」

「ストップ!ストップ!さっきと同じ流れになる」


 明らかにこの二人の関係性は最悪だと思った勇人。ゲーム内では仲良かったはずなのに今は仲が悪い。もしかしたら奈々のルートで何かあったのだろうと思う勇人だがここはゲームではないため最優先的に穏便に済ますことが最適だと考える。


「とりあえず奈々はなんで奏美と?」

「あっ!そうお兄聞いて、さっきブレイブファンタジーソードの敵がね出てきたのそれでこの人が助けてくれたの」

「あーなるほど、その〜なんだ驚くけど今起きてるのはブレイブファンタジーソードの敵キャラがこの世界に湧いて出てくるんだ。原因はまだ分からないが」


 曖昧な答え、実際そう言うしかない勇人。普通の人ならもっと説明が欲しいところだったが奏美は違った。


「何それ!面白そー!!」

「――――は???」


 凄く目を輝かせる奏美。


「凄い面白そうだね」

「いや全く面白くない」

「どうして?」

「ゲームでも現実世界にいるんだ。実際に人が死んだ所は見た。だから面白くない」

「そ、そうなの……」

「奏美さん。あなたは私があのまま助けなければ死んでいましたのよ」

「ご、ごめんなさい」


 萎縮する奏美に勇人は優しく頭を撫でる。


「でも奏美が無事で良かった」

「お兄……」

「あ、そういえば奏美さん、お兄さんのことをお兄ちゃんと呼びましたよね?あれってやっぱ昔から呼んでた感じですか?」

「はっ、はぁ!?そそそんなわけないじゃん」


 急に水を差してくる奈々、過去を掘り返されたことに顔を赤める奏美にそれを聞いて微笑ましく笑う勇人。だがその光景に気に食わない者がいる。


「奏美は昔はお兄ちゃん呼びだったんだけどなぁ今は……って美雨なんか怒ってる?」

「……怒ってません」


 明らかに怒った様子の美雨に何度も聞いたが怒ってないと言う、それを見た奈々が美雨に向かって言う。


「美雨さんは嫉妬深いですから――」


 瞬間、風を斬る音が聞こえる。それは美雨が奈々に向かって剣を振った音だった。

 間一髪、奈々は下がって回避していた。


「逃げないでよ、斬れないじゃない」

「別に逃げてませんわ、とりあえず美雨さんの逆鱗に触れてしまったので今日はこれまでにしましょうか、奏美さんの部屋に戻りましょう」

「奈々は牧亜や天音みたいに別行動はしないのか?」

「はい。私は奏美さんが可愛いと思ったので傍にいます。そしてなにより勇人さんに近いのでいつでも会えますよ」

「……勇人君には近づけさせない」

「怖い怖い。それでは奏美さん。戻りましょう」

「えっ!ちょっとまだ話は終わってないよ」

「私がじっくりと説明させていただきますのでご安心ください」

「そういう問題じゃないよ」

「そういう問題です」


 奈々は奏美を無理やり連れて奏美の部屋に行ってしまった。美雨は最後まで奈々に対して敵意がむき出しで見えなくなったあと深呼吸して落ち着く。


「な、なぁ美雨。なんでそこまで奈々に対して敵対心剥き出しなんだ?」

「いえ……これには色々とワケがありまして敵視することはいけないことなんですが奈々の言葉はあまり心地よくはないんです。すみません」

「そうか……」


 美雨の性格からしてそこまでして人を嫌うというのはゲームでは見たことがない、さらに奈々とは同級生で仲良く話すぐらい仲が良く美雨のルートでも喧嘩をした事はない。やはり奈々のルートで何かあったのだろうと予想する勇人だが少し引っかかるものもあり明日、天音に聞いてみようかと思った勇人だった。

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