妹のヒロイン
芹沢 奏美。彼女は芹沢 勇人の妹である。
神凪 美雨が現れる数時間前。
「――ちょっとお兄!!」
「うわっ!奏美なんだよ、部屋に入ってくるならノックしろよ」
「したよ!何度も、ヘッドフォンしてるから聞こえなかったんでしょ」
隣の部屋から急に怒鳴り込んで入ってくる奏美にさすがの勇人もヘッドフォンの上からドアを勢いよく開ける音にビビってヘッドフォンを外す。
「それは悪かった」
「全く……」
「それで何の用だ?」
「教科書貸してって言ったのにいつまでも渡しに来ないから直接来たの」
「あっ、悪い。ゲームに夢中になっていたから忘れてた」
その日の夜、奏美は勉強のために兄である勇人から教科書を借りる約束していたがいつまで経っても来る気配がなく直接隣の部屋にいる勇人を呼びに来たのだ。勇人は慌ててゲームをしていたモニターの前から立ち上がって棚から教科書を探す。待っている最中に奏美は勇人が先程までやっていたゲームの画面が目に入る。
「お兄、またギャルゲーやってたの」
「いやこれは桐谷から勧められたゲームで……」
「勧められてやってる時点で言い訳はないでしょ」
「いや〜まぁ〜はい、そうですね……」
奏美に言い返す言葉もなく突き刺さる言葉を背に勇人は何とか教科書を見つけて渡そうと振り返る。
「はい教科しょ……って勝手に部屋に踏み入るな」
いつの間にか奏美は部屋の中まで入ってきて勇人が先程までやっていたゲームのモニター前に置いてあったパッケージを見ていた。
「『Problem Memories』。ふーん、問題児である女の子を攻略するね〜……かなり攻めてる内容だね」
「桐谷は物好きだからな、色んなジャンルに幅広くやってるがその中でも勧めてきたゲームだからかなり珍しいとは思う」
「ふーん、それで勇人の好きな子はこの神凪 美雨て子?」
画面には神凪 美雨の姿が映っており勇人は美雨を攻略途中だった。
「好きか嫌いかで言ったら好きだね。とりあえず一目惚れしたキャラ。それに会話する中でも普通だからとりあえず先に攻略することにしてる」
「他には誰がいるの?」
「まだそこまで理解してないけど生徒会長の神童 天音に神条 牧亜。神桐 沙羅など美雨含めると合計七人が攻略対象かな」
「七人ね〜、多いね。でも私はギャルゲーよりこっちが面白いとは思うんだけどなぁ」
プロメモのパッケージの隣に置いてあったブレイブファンタジーソードのパッケージを手に取る奏美。
「本当に奏美はそっち系好きだよな」
奏美は他の女の子よりゲームをやるがジャンルが特殊で男の子がやるような格闘やFPSをやっておりブレイブファンタジーソードもプレイ済みだった。
「そりゃ好き放題出来るからいいんじゃん、特にこのブレイブファンタジーソードは近年発売された中でもかなり人気が高くて精巧に作られてるんだって、多彩な職業に豊富なスキル。そしてレベリングによるステータス割り振りが細かく設定可能と他の人とは被らない自分だけのキャラクリエイト出来るの凄くない?」
「めちゃくちゃ詳しいな」
「当たり前でしょ、お兄はこのゲームどこまで進んだ?」
「全然やってない」
「えーーーー、勿体ない。ちゃんとやらないと損するよ。じゃあ教科書借りていくね」
勇人の手から教科書を奪ってそのまま部屋に戻っていく奏美。
「全くお兄はあのゲームの良さが分からないのかな?」
奏美は部屋に戻り勇人から借りた教科書を机の上に置いた瞬間、突然窓からそよ風が吹き教科書のページがめくれる。
「あれ?窓開けたつもりはないんだけど……」
窓を開けた記憶はない奏美だがうっかり開けたと勝手に思い窓を閉めて再び机の元に戻る。
「……ん?何コレ?」
めくれた教科書のページの間に挟まっていた硬貨それは模様もなく金色に輝くだけだった。奏美はその硬貨を持った瞬間、バチンっと弾けるような音と共に硬貨を持ち上げた手に静電気以上の痛みが走り奏美はその硬貨を落とす。
「いっっった〜、静電気にしちゃ痛すぎでしょ」
あまりの痛さに指が取れたんじゃないかと錯覚するが奏美の指はちゃんとあったが痛みが走った指先は赤くなっていただけだった。
「こんな物捨てて……ん?」
痛みの恨みとして捨てようと硬貨を再び触ろうとしたら最初見た時には何も模様も無かった硬貨の面に不気味に何か模様が浮かび上がってきた。
「どんな仕掛けよ、てかこれブレイブファンタジーソードで見る硬貨じゃない。なんでこれが?」
奏美はその硬貨の模様に見覚えがあった。それはブレイブファンタジーソードで使用する硬貨の模様だった。それを見た奏美は驚きその硬貨を素早く持ち上げじっくりと観察する。
「凄い……本物そっくりじゃん、予約特典や店舗特典にも無いのになんでお兄の教科書から?もしかしてお兄これわざわざ作ったのかな?うーんでもこんな精巧に作れるのかな?…………ま、いっかさっきの痛みの仕返しで貰っちゃお」
奏美はその硬貨をネコババし自分の机の中にしまい勉強を始めた。
数時間後、奏美は勉強が終わりベッドの中でスヤスヤと寝ていた。隣の部屋では勇人がプロメモの神凪 美雨の攻略が終わろうとしていた。
「……普通だな……」
意外にもProblemと付いていたからそれなりには警戒していた勇人だったがあっさりと美雨と普通の恋愛をして終わりに向かっていく画面を眺める勇人。
そしてとうとう終わりを迎えエンディングに入る。
「んー、まあとりあえずひとキャラ終わったから終わりにするか。しかし腹減ったな、コンビニにでも行こうかな」
エンディングが終わり勇人はパソコンの電源を切り部屋を出て行きコンビニに向かう、ちょうど家を出た勇人にむくりと起き上がる奏美。
「う〜ん……トイレ行こ」
寝る前にトイレ行くのを忘れていた奏美はまぶたが重いながらもトイレに行く、そして戻ってくる途中に勇人の部屋の前を通ると部屋のドアが開いていることに気づいたが特に気にもせず通り過ぎようとした時、部屋の電気は消えていたがモニターだけ点いておりその前に誰か立っていることに気づいた。奏美はその誰かは勇人だと思い声をかける。
「んーお兄まだ起きていたの?もう寝れば、私はもう寝るけどねー……ふぁ〜」
奏美はそれだけ言うと自分の部屋のドアを開けようと思ったらある事に気づいた。
「……あれ?お兄が電気消してまでゲームやるっけ?それにドアも開けっ放し……まあいいか」
勇人は必ずゲームをする時は当然明るくしてゲームをプレイする、さらに部屋を出入りする時は必ずドアは閉めて開けっ放しにはしない。たまたま忘れただけだと思った奏美はそのまま部屋に入り眠りつく。だが数十分後、隣で何か騒ぐ勇人の声に目が覚める。
「……うるさいなぁ」
奏美は起き上がり勇人の部屋に行き怒りに行く、部屋に入ると何故か慌てた姿の勇人だったが眠すぎた奏美はそのまま部屋に戻って再び眠った。
そして次の日、学校の昼休み衝撃を目撃する。
「あれ?お兄……とどなた?」
食堂にて奏美は勇人の姿が見えて近づくと隣に誰かがいた。勇人の友達だと思い聞くと勇人は驚いた様子で奏美を見る。
「え?……奏美お前見えるのか?」
「見える?お兄、今私の目の前にいるじゃん。馬鹿なの?」
「いや違う、俺はともかくとして美雨も見えるのか?」
「そこにいるじゃん、てか美雨?んーー……あっ!この人、お兄がやってるゲームに出てくる女の人じゃん。えっ!?まさかお兄、とうとうゲームだけじゃ飽き足らず女の人に無理やりコスプレさせて楽しむ事に走ったの!?キモ!」
「馬鹿っ!ちげぇよ、てかマジで見えてるのか?というより美雨!」
何やら慌てた様子の勇人に連れて行かれるが美雨と呼ぶ女の子と話し続けられて蚊帳の外になった美雨はもうどうでもよくなり教室に戻った。
「はぁ……お兄とうとう頭がぶっ壊れたのかな、う〜最悪絶対にバカにされる」
彼女にコスプレさせてまで学校で恋愛してるなんてありえないことだと思った奏美、そしてそんな妹だと知ったら周りから変な目で見られると思い大きく呆れたため息を吐いた。しかし数日後、変な噂を覚悟していた奏美だったが意外にも噂は立っておらずクラスメイトに聞いても不思議に勇人の隣にいる女の子は最近転校してきた子で至って普通の子だと全員が口を揃えて言う。
「おかしい、別に噂が流れてなければいいんだけど明らかにおかしい。あのゲームのキャラを見せても知らないと言うのはおかしい、絶対におかしい」
一応プロメモのキャラだと説明をしてそのキャラわざわざ調べて見せても見た事がない、そんな姿はしてないと言われていた。
「やっぱ直接お兄から聞くしかないのかな……」
ブツブツと独り言を言いながら帰り道を歩いていた。
「……ん?あれ?」
考え事をしながら歩いていたら目の前に壁があって行き止まりとなっていた。
「んー?おかしいな、この帰り道に壁なんてなかったはず……なの……に……?」
来た道を戻ろうと振り返るとその先には体長は2メートルはあるしっぽの生えた鱗が全身に生えた生物、この世界では見た事がない二足歩行の生物がそこに居た。
「うそ、あれってまさかリザードマン?」
奏美はその生物を見た事があった、それはゲーム内、ブレイブファンタジーソードのゲーム。
「な、なんでここに?」
ゲームの敵キャラなのに現実世界にいることに驚き引き下がる、しかし背には壁があって逃げれなかった。
リザードマンはゆっくりと奏美に近づいてくる、手には巨大な斧を持ち構えて一振されれば首なんて軽く吹き飛ぶ、そんな恐怖が目に見えた奏美。
「やだ、こないで……」
逃げることが出来ない。そして迫り来る恐怖に震える奏美、だが無慈悲にもリザードマンは斧を振りかぶった。
「助けて!!お兄ちゃんッッ!!」
「――――はーーい。切り落としまーす」
斧が振り下ろされる瞬間、リザードマンの腕が切り落とされ斧ごと地面に落ちる。
奏美の前に突然現れたのは和服姿の女の子その腰には和服姿にはそぐわない二本の刀を携えていた。
「……だれ?」
奏美のその言葉に目の前の女の子は笑って振り返る。
「わたしの名前は
「えっ?どうして、私の名前を……」
「そんなの決まってるじゃない。それは……」
最後まで言う前にリザードマンが残った片方の腕で再び斧を持ち上げて振り下ろそうとした。
「――危ないっ!」
「大丈夫よ、こんな雑魚。既に斬り殺してあるわ」
そう言うとリザードマンの動きがピタリと止まる。そしてリザードマンの身体全体から何百と張り巡らされた線が浮かび上がると同時にその線を境にゆっくりと引き裂かれ始めバラバラになっていきそのまま塵となって消えていった。
「…………」
「うふふ、ビックリしすぎて声を失っちゃった?」
開いた口が塞がらない奏美は頷くことしか出来なかった。
「とりあえずお話をしましょうか、芹沢 奏美さん」
ニッコリと笑う神海 奈々と名乗る和服姿の女の子だった。
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