ルート攻略とゲーム攻略
約一週間経ったが特に大きな出来事もなく時々現れる敵を倒すし普通の生活を続けていた。
昼休み、勇人と美雨は空き教室に居た。
「牧亜と会ってから何もないな」
「そうですね」
「敵を倒してもアイテムとかドロップするわけでもないからなぁ」
「最初に被害あった方は殺人事件で処理されてますが未解決となりますね、犯人はこの世界に居ない者の仕業ですから、その後も被害にあった方は何人か居ましたけどニュースなどではユーマ?未確認性扱いなどされてましたね」
「笑い話やホラ吹き程度で済んでいるけど実際に最初の時点で被害が殺人まで及んでる。まだ嘘かと思うが現実なんだよな」
「はい。それにまだこの敵が現れる原因が分かってませんからね。それと神条 牧亜さん、あの人には色々と聞きたいことがありますから」
「――――アタシが何だって?」
「えっ!?牧亜さん?」
「なんでここに?」
なんの前触れもなく教室に入ってきたのは牧亜だった。
「別に不思議な事ではないだろ、認識阻害の魔法をちょっとやればいい。とまあそんな事よりアタシに聞きたいことがあるようだがその前に芹沢、お前に会いたい人がいるぜ」
「俺に?」
勇人に会いたい人、おおよそ分かっていたが牧亜の背後から現れた予想外の人物に驚いた。
「初めましてで合ってるかしら芹沢さん」
「し、神童 天音!?」
その人物とは神童 天音だった。天音はニコニコしながら勇人に近づく。
「美味しそうな匂い……食べちゃいたいですわね……」
勇人の匂いを嗅ぐ天音に勇人は背筋が凍るほど緊張と恐怖を感じ天音は勇人の顔に触れようとした時、美雨が勇人を引っ張り離して間に割って入る。
「生徒会長。どうしてアナタがここに?」
「あら?生徒会長なんてこの世界では関係ないでしょ、天音でいいわよ」
「それでは天音さん。どうしてここに?」
「説明の必要ないんじゃないかしら?だって敵を倒すために私達はここにいる、違くて?」
「……そうですね。質問を変えます、勇人君に何の用ですか?」
「強いて言うならば勇人くんが欲しいからですわ」
「――なっ!?」
「独り占めはいけませんよ、私も勇人くんが大好きですから」
優しく微笑む天音の目は好意を抱いているのか分からないがそれ以上に何か危険な香りがした勇人は身を引く。天音の言葉に引くことがない美雨は対抗する。
「ダメです!勇人君は私のモノです」
「別にいいじゃない、ちょっとぐらい」
「ちょっとでもダメです!たとえ生徒会長でも」
「生徒会長は関係ないですよ、ねぇ牧亜さん」
「チッ、んなことはどうだっていいわ。そんな事を話すために来たわけじゃねぇだろ」
「もう牧亜さんたら、いいわ今日はこれくらいにしておいて、本題を話しましょう、実はとある敵を見つけたの」
勇人の取り合いに呆れていたのか牧亜が水を差すと天音はニコニコとした表情から一変して真面目な顔になる。
「敵?まさか普通の人間とか?」
「知ってるのなら話は早いわ、私達もかなり敵は倒しているつもりだけど何も情報も進展もないのはたしかで、さらに敵は増えていく一方で見つけたの、ただあまりにも遠くから投擲してきた槍と素早い逃げ足、遠くからでも分かったけど相手は男性よ」
「やっぱり、武器は槍ですか」
「姿はあまり認識出来なくてスキルを使ってもあまりにも遠すぎて効果範囲外だったわ」
「現状的に一番厄介な敵ですね」
ブレイブファンタジーソードの話になると真面目になる二人に勇人は入る隙がなく牧亜と目が合うと牧亜は顎で別の場所に行こうと示す、勇人は二人が夢中に話している間に教室から出て牧亜と二人で廊下を歩く。
「悪いな、天音が突然押しかけて」
「いや全然、というか出てきてよかったの?」
「ああ作戦の内でもあるからな」
「作戦?」
「実は人間の敵を見たのは本当だ、だけどアタシ達の目的は芹沢、お前にある」
「どういうこと?」
「おそらくだが芹沢達はブレイブファンタジーソードのボスを倒せば元に戻ると考えているだろ」
「まぁそりゃあ一応今の目的としてはそうかな」
「でもアタシ達は違う、アタシ達はお前を攻略することが目的だ」
「攻略とはどういうこと?なんで?」
「確証はないが今の話だとブレイブファンタジーソードのボスを倒したところでブレイブファンタジーソードの世界は戻るだけなんじゃないかとアタシ達含め天音は考えた」
「じゃあプロメモはプロメモで終わらさないと戻れないってこと?」
「そうかもしれない。ただ問題がある」
「問題?」
「そう、誰を選ぶか。だ」
「うーん、美雨じゃダメなのか?」
勇人がそう言うと突然牧亜が勇人を廊下の壁に詰め寄り壁ドンする。
「芹沢、お前本気で美雨がいいと思ってるのか?」
「へっ?あっ、ごめん牧亜の事も好きだよ」
「違うそういう事を聞いてるんじゃない。あのな一応アタシ達はギャルゲーのヒロインだぜ、そしてお前は主人公という扱いだ。下手したらプロメモになかったハーレムルートがあるんだぜ」
「そんな事が可能なのか?」
「いいか、ゲームは定められた設定でしか生きられない。だがここは現実だ。それにアタシ達は芹沢に好意が向くように設定されてる。当然アタシもだ」
「…………は?」
ゲーム内では不良という設定でさらに男に負けないほどの力があり一部ではゴリラ女と称されていたが牧亜は普通にしていれば美少女、だがひとたび口を開けばドスの効いた声に常に喧嘩腰という問題児そのものだった。
しかし、突然告白とも受け取れるような言葉に勇人は固まる。
牧亜のルートは存在するが最初の印象といい、最初の出会いといい、そこまで気にするほどでもない以前に牧亜は勇人は知り合い程度か今起きている現象を知っている人程度だと勇人はそう思っていた。そんな勇人は軽い冗談のつもりだと思い牧亜の顔を見ると牧亜は顔を赤めて勇人とは逆の方を向いていた。
「……牧亜、ちょっと確認したいんだけど正直俺とプロメモの主人公の設定は全く当てはまる所はないよね?」
そう勇人とプロメモの主人公はあくまでプレイヤー自身、だが当然必ずしもプレイヤーとプロメモの主人公の性格などが一致するものではない。ましてやプロメモの主人公はキャラクターのイラストは無く影絵として設定されている。そのため勇人が現状的に神凪 美雨のルートしかクリアしてない状況で他のヒロインが惚れるなんて考えてもいなかった。
「そのだな、正直これについてもよく分からない。何故か『芹沢 勇人』という人間に不思議と惹かれるものがあってだな、生徒会長じゃない神童 天音も不思議とお前に惹かれているらしい……」
「そうか……というそれ本気で言ってるの?」
「本気だ。それ故にアタシはあんまりお前の顔が直視出来ないんだ」
「なるほど、えっ!?じゃ、じゃあもしかして顔が赤いのはそういうこと?」
「違っ、わないが……嫌いにはなれないんだ。何故か、そう何故か」
嫌いなのか好きなのか分からない牧亜に勇人は質問しづらくなる。気まずい空気になる二人の所に美雨と天音がやって来る。
「あーーいたーー!」
「美雨……」
「もー勝手に消えるなんて酷いよ勇人君」
「ごめん、ちょっと色々と話していてな」
「何話していたの?」
「それは言えない」
「えー教えてー」
「気が向いたらな」
「酷い!」
勝手に消えたことに腹を立てる美雨、その間に牧亜は天音の所に戻る。
「それでは私達は用事が済みましたので私達は帰ります。最後に勇人くん、牧亜さんのお話からより良い選択することに期待しています。それでは失礼します」
天音はニッコリと笑顔を向け丁寧にお辞儀すると勇人も軽く会釈する。そして天音と牧亜はそのまま廊下を歩いてどこかへ行ってしまった。
「勇人君。天音さんの最後の言葉どういう意味?」
「ごめんそれについては今日帰ってからでもいいか?」
「分かった。勇人君がそう言うなら帰るまで待つよ」
「ありがとう、美雨」
その日の夜、勇人と美雨は部屋で今日話していたことを話す。
「天音さんからの提案はまだ不明確なブレイブファンタジーソードの敵の調査と討伐を担当してもらうことになりました」
「そうか、やっぱりあの人間と思わしき敵の正体は分からないか」
「はい。今わかるのは相手は人間で男、武器は槍と素早さが私達の職業を上回る素早さ、敵として断定していいかと私と天音さんで決断しました」
「うーん、敵かぁ……俺もそこまでやり込んでないから全部が全部分かるわけじゃないけど……あっ!桐谷に聞けばいいんだ」
「桐谷?とは誰ですか?」
「俺と同じクラスの奴、ブレイブファンタジーソードやプロメモ、他にも色々とゲームを勧めてくれた奴でアイツならそれなりの知識はあるから聞けばいいんじゃないかな」
「いいかと思います。しかし……」
「しかし?」
「信用に足る人間なのか少しばかり心配です」
「そうなるよな、ちなみに奏美の件はどうする?」
「それについては天音さんと話した結果では奏美さんはもしかしたら他のプロメモのヒロインと知り合ってる可能性が高いかもしれないです」
「ん?じゃあもう既に天音や牧亜以外にも?」
「はい。私達が確認してないだけで普通に存在してるようです」
「マジか、天音だけでもヤバいのにもう他にもいるのか」
プロメモのヒロインの数は美雨合わせて七人、全員が問題児。その中でも一番の問題児は神童 天音だったが今は大丈夫だったがいつ問題が起きるか分からない、そんな心配していると美雨が言う。
「大丈夫ですよ、私がいますから」
「そういう問題なのか?」
「そういう問題です」
「あ、そう……」
本当にそういう問題なのか疑わしいが一応美雨が居るならと勇人はそう言い聞かせる。
「そういえば勇人君の方は何の話を?」
「ああ、こっちは本当にブレイブファンタジーソードのボスを倒せば戻るのかという話だったよ」
プロメモの件は黙っておくようにする勇人はそのまま続ける。
「実際に牧亜達はあまりにも謎が多すぎると考えてるらしいよ」
「たしかに一理ありますね、それで他には?」
「ほか?いやこれだけだよ」
「ほ・か・に・は?」
「ナイナイ、本当にこれだけ」
情報が少ないことに疑いを持って他にも聞いたのではないかと睨む美雨だったがそれでも隠そうとする勇人。
「分かった。それじゃあ私はこれからも敵を倒しますから勇人君はそのキリヤ?という人間から情報を色々聞き出してください」
「そうだな。そうしよう、あとは少しづつ奏美の事も気にかけないとな」
「大変だと思いますがそちらもお願いします」
「分かった。それじゃあ寝るか……ってなんで俺のベッドに入るんだ?」
「だってまだ私と寝てないじゃないですか」
「そういう事を言ってるんじゃない、まあいいや。俺は床で寝る」
「ダメですよ、ちゃんとベッドで寝ないと」
「いや色々とマズイから俺は椅子で寝る」
「えーそしたら魔法で強制的に眠らせますよ」
「怖っ!!そんな事に魔法使うな!」
「じゃあ打撃武器?」
「どんだけ寝たいんだよ、というかそれ永眠しそうだわ」
「じゃあ寝ましょう!」
「あーはいはい、分かったよ」
今の美雨なら無理やりにでも眠らせてきそうで怖くなった勇人はとりあえず美雨と一緒にベッドで寝るが意外にも早く美雨は眠る、その間に勇人はベッドから出ていつもながら椅子に座って寝ることにした。
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