問題児ヒロイン登場
屋上に現れた敵、それを確かめにいく美雨だったが敵はあまりの速さにどこかに行って見失ってしまった。
先に教室に戻っていた勇人、帰ってきた美雨に話し掛ける。
「どうだった?」
「ダメでした。少し追いかけましたが向こうの方が素早さは高かったです」
「一番素早さが高い職業はシーフ、レンジャー辺りだがそれを上回る素早さということか?」
「はい。それと最悪な事態でもありますね」
「奏美の事か?」
「それもありますが最も恐れていたのは敵が『人間』だという可能性です」
「敵でもモンスターだけでなく人間、賊も含まれていたな」
「はい、さらに厄介なのは敵は槍を投擲してきたとなると武器を所有した人間。ただの賊ではない相手でもあります」
「意思を持っているということか」
美雨は少し険しい顔をして考えたあと口を開く。
「私達同様にかなり危険かと、それに私としてもまだ謎が多い部分もありますのでなんともいえません」
「確かに美雨達がこの世界に現れたのもまだ分かってないし何かしらの原因があると思うが……ボスとか倒せば戻るのか?」
「展開的に言えばそうかもしれませんね、ただ私は戻りたくないですね」
「なんで?」
「なんでってそれは勇人君と離れたくないですから、もしかして嫌ですか?」
「嫌じゃないよ!美雨達は全然嫌じゃない、むしろ居て構わない。それよりもブレイブファンタジーソードの敵がいるのは色々とさマズイとは思うからそっちは戻って欲しいな〜って」
「良かった〜、もし勇人君に嫌われたら私もうダメかと思ったよ〜」
「あはは……」
美雨達が残ることは全然アリだと思う勇人だが苦笑いする勇人それにはワケがあった。
美雨が戻ってくる数分前。
「よお、勇人」
「桐谷か、どうした?」
美雨が無事に戻ってくることを願い待っている勇人の所にやってきたのは勇人の親友である宍戸 桐谷だった。
「どうしたじゃねぇよ、お前あの女の子と何処で知り合ったんだよ」
「女の子……ああ、みう、ら……凪のことか?」
食堂の奏美の事もあってか少し警戒する勇人だが反応からして桐谷には美雨の魔法が効いていたことは明らかだった。
「そうだ!あんな可愛い子とお前が恋人?なんかのドッキリか?」
「いやあれは〜ちょっと色んな事情があってな」
「なんだ事情って」
「言えない事情」
「言えないだと、お前と俺の仲でもか?」
「ん〜〜そう言われると困る」
勇人と桐谷は昔からの馴染みであり超が付くほど仲良しだった。またゲーム仲間でもありプロメモやブレイブファンタジーソードの事だけでなくそれ以外のゲーム知っている仲であったが美雨の事を説明しようにも勇人自身完全に理解してる訳でもなかったので美雨のことはまだ黙ることにした。
「そのまだ話せない事情だからさ、もう少し整理したら必ず話すからその件はまたあとで」
「うーん俺としては話してほしいが勇人が珍しくそう言うってことは本当に複雑な事情なんだろうな。分かった、あとで必ず話してくれよ。でも恋人なんていいな〜〜あっ!恋人で思い出した。勇人はプロメモはどこまで進んだ?」
プロメモは桐谷が勧めてきたゲームで勇人はつい最近買ったばかりで先に全てのヒロインを調べて後に始めていた、そんな矢先に今の状況になっていた。
「プロメモか、ああまだ美雨だけかな」
「神凪 美雨ね〜、あの子は至って普通だから誰もが通るルートだな」
「ちなみにだが美雨は大丈夫なのか?」
「大丈夫?なにがだ?」
「いやほらプロメモのヒロインのほとんど問題児だろ、美雨は大丈夫なのかな〜って、一応攻略情報とかには大丈夫と書いてあったけど」
「…………」
突然、黙る桐谷。その表情は何か触れてはいけない物に触れてしまったかのような気まずい表情だった。
「え、ヤバい?」
「ヤバいというより言うとネタバレになるんだけど」
「もうそれ言った時点でネタバレがあるってことで既にネタバレでは?」
「あ、うん……そうだな……言わない方がいいけどな」
「一応教えてくれ」
「教えたら勇人お前かなりキツイぞ」
「うわ〜〜マジ?」
「マジ」
「うわ〜〜〜〜うわ〜〜マジで?」
「おおう、なんか勇人がそこまで心底困った顔になるの初めて見るな」
聞かなければ良かった事実、プロメモにはたしかに問題児はいる。だがその中でも安定で分かりやすいのが神凪 美雨だがそれ以外の情報が何も無くむしろ怪しさが満点で勇人はその事に関して桐谷に聞いたが予想は的中していた。
「まあこれだけ言っておく、プロメモの中でもルートの選択肢によれば美雨はかなり変化する」
「そんなシステムあるの?」
「一部その変なシステムがあることからプレイ人口が少ない理由。ヒロインが問題児というのもあんまり不評な理由だがそれ以上にギャルゲー特有のルート選択肢が複雑化されていてバグだけじゃなく途中でルートが飛ぶバグとかあったりするんだよ」
「それゲームとしてどうなんだよ」
「まあでもある意味ヒロインが強烈だから一部からコアなファンがいることはたしかだし、俺もそれなりのファン。美雨ちゃんもいいけど俺はやっぱ野性的な性格の神条 牧亜ちゃんがいいな」
「神条 牧亜はたしか不良の中の不良と言われたあの牧亜だったけ?」
「そう。ただ途中でね色々とあるんだけどそのストーリーがめちゃくちゃ感動するしスリルもあるからもう心が踊るというか楽しさがある」
プロメモの事なら桐谷に聞けば大体分かる、美雨の事も聞きたかったが怖いのでそれ以上は聞かないことにした。
「なるほどな、まあ色々と分かったわ。ありがとう」
「おう、それと凪ちゃんの事情も必ずあとで話してくれよ」
「分かった、必ず話す」
それが数分前の出来事だった。美雨の事を聞いてから少し美雨の事を気にかけ少し慎重に接しようと思った勇人だった。授業も終わり帰り道。
「奏美の事どうするか」
「私の事を認識した。というのはたしかなことですから早めに話つけた方がいいかと思います」
「だよな。でも話聞かなそう」
「どうしましょうか」
「親に話される前になんとかしたいところ」
「私としては別に構いませんよ!」
満更でもない表情する美雨、勇人は反応に困る。すると美雨は何かを察知して辺りを見渡す。
「どうした美雨」
「敵です」
「どこ?」
「……この先です!」
美雨は走り出してその後を勇人は追いかける、美雨は走りながら制服から鎧とマントを羽織った戦士の姿に変わるとさらに加速して勇人よりも先に敵がいる方に向かって行く、そして勇人が着くとそこにはすでに敵を倒し終えた美雨が居た。
「はぁ〜〜、疲れた。美雨置いてくなよ、美雨?」
やっと追いついた勇人は息を整える、美雨に話しかけるが美雨から返事はない。美雨はただ倒した敵を見つめていた。勇人は美雨の近くに行き倒した敵を見た瞬間凍りついた。
「美雨……これは?」
そこには緑色の体色した醜い見た目をしたゴブリンと言われるモンスターの他にリザードマンと呼ばれるトカゲの見た目をした生物など多数のモンスターが倒れていたがそれら全て内臓から抉り殺されていた。
「勇人君。これは私じゃありません」
「じゃあ誰が?」
美雨は目を細める、その様子からして勇人は昼間に見たあの人影の仕業かと思ったその時。
「――おや?美雨じゃねぇか?」
「……誰?」
無惨に殺されたモンスターの奥から一人の女性が現れる。その姿は野性的な姿で胸と局部だけ隠した大胆な姿につり上がった目付き、そして大きな斧を軽々と持ち顔は血だらけの女性。
一瞬身構えた美雨だったがその女性を見た瞬間、身構えるのを止めた。
「まさか牧亜さん?」
「大正解!」
「まきあ……えっ?神条 牧亜?」
最初はその大胆な姿に視線を奪われていたが顔をよく見ると特徴的な鋭い目付きに包み隠すことない屈託のない笑顔、それは紛れもないプロメモのヒロインの一人でもある神条 牧亜だった。
そんな牧亜に勇人は唖然としていると牧亜が勇人に近づき顔をまじまじと見つめる。
「お前が噂の芹沢だな」
「は、はぁ……そうだけど君はあの神条 牧亜、さん?」
「あっはははは、さん付けはいいよ。それより美雨。この世界面白ぇな」
高らかに笑う牧亜。女の子らしさが感じられない雰囲気はたしかに牧亜だった。
「あの牧亜さん、このモンスターはアナタが倒したのですか?」
「おうよ、事情は知ってる。美雨も知ってるだろ」
「はい。理解しているのなら話は早いです。協力しませんか?」
協力の証に握手をしようと手を出す美雨だがその行動を見た牧亜はため息を吐いた。
「はぁ……悪いが無理だ」
「どうしてですか?」
「プロメモだっけかアタシ達がヒロインとなってるゲームは」
「そうですがそれがどうかしましたか?」
「たしかにアタシ達は問題児だ。けどなお前の方が問題児なんじゃねぇか?見たところ芹沢は知らないようだが」
牧亜の言葉に勇人は桐谷と話していた事を思い出す。
「まあそのなんだ。敵は倒すがお前とは協力しない。理由はさっきも言った通りだがそれ以上にお前とアタシじゃソリが合わない」
「……分かりました。それでは気をつけてください牧亜さん」
「ああ、言われなくても」
牧亜は私服へと姿を変えて行ってしまう、モンスターは塵となり跡形もなく消えた。
少しの沈黙、美雨に秘密があることが確かでそれを聞こうか迷う勇人。美雨も聞かれるのを待ってるのか勇人の顔を見ようとはしなかった。
「帰るか」
「えっ?」
「牧亜が倒したんだ。俺達は帰ろう」
勇人は何も聞かなかった素振りをして帰ろうと促す。しかし美雨は聞かれると思っていたにも関わらず聞かれなかったことに驚き勇人を止める。
「あ、あの……」
「どうした美雨」
「その……牧亜さんが言った、私が問題児だってこ……」
「あーそれはまあ正直知りたいと言えば知りたい。だけど俺は美雨のその秘密はまだ知らない。知ればネタバレになる。だから俺は聞かないむしろ知らなかったことにする。別に美雨自身が教えてくれてもいいけどそれはつまらないじゃん、だから美雨は今のままでいいよ。だって俺が最初に攻略したヒロインで今も好きだから」
あくまで美雨はゲームのヒロイン。勇人はその秘密が何なのか知りたいがそれを探るためには親睦を深める、それこそがギャルゲーの醍醐味のひとつであると勇人の中で割り切る。だからこそ今は美雨の事だけでなく今起きている現象の謎を知るためにも美雨の力は必要不可欠だった。
「と、とりあえず帰ろう。今の言葉よくよく考えたら恥ずかしいな」
「ありがとうございます。私も大好きですよ勇人君!」
「ちょっ!抱きつくな」
「えー恋人同士なんだからいいじゃないですかー」
「そうだけどそうじゃない」
「なんですかその矛盾」
ラブラブな雰囲気でじゃれ合い帰っていく二人の背中を遠くから眺めていた牧亜。
「――まさかの神凪ルートかよ」
呆れた様子で牧亜が二人を見つめているとその隣に勇人や美雨と同じ制服を着た女の子がやって来る。
「最大の問題児ルートとは中々ね」
コンビニのレジ袋片手にもう一方でおにぎりを美味しく頬張る女の子。
「お前も一応最大に匹敵するじゃねぇかよ生徒会長さんよ、いやこの世界では生徒会長じゃないか、神童 天音」
牧亜が神童
天音はおにぎりを食べ終わらして買ってきたお茶を飲む。
「まぁまぁそれより牧亜さん。この世界のおにぎり美味しいですわね」
「マイペースだな……米粒付いてんぞ」
「あら、失礼」
勇人達のことを気にしてるのか気にしてないのか分からない天音に牧亜は呆れる、マイペースな性格はプロメモ内でもおなじみでさらにドジというべきなのか口元に米粒が付いていることに気づかないほどまだ買っていたおにぎりを食べ続ける天音に牧亜は項垂れるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます