第3話 観察者《葵》 ~ ②進路

 9月に入り、首都圏の公立中学校では、多くの学生の高校への推薦合格が決まっていった。制度的に早期の推薦合格が認められるようになって以来、いわゆる名門校とされる公立高では、中高一貫校に対抗する意味合いで、成績優秀な中学生への推薦試験を9月に終え、10月からは通信プログラムで高校のカリキュラムを予習してきてもらうという入試形態が主流となっている。手のかからない生徒たちに早々に合格してもらうことで、少数の頑張らなければいけない生徒たちへの指導に集中できることは、中学校側にとってもありがたいことたった。


 あおいと共にさいたま市の中学校に通う佐倉未来さくらみくは、9月の半ばに市内の公立進学校に推薦合格を決めた一人だった。翌週明け、教室に入った未来みくは、黒板脇の大型タブレットの前に同級生たちが、何やら騒がしいことに気がついた


 「ケンブリッジ...大学...?」 「まぁ、あおいだし...」

 「附属...フィリオクェってことは、附属高校なんじゃないの?」

 「数理革新って、いうのは、理数科ってこと?」


 何やら、不穏なものを感じタブレットを囲む一群に加わった未来みく。彼女が一番探していた名前、牧野葵まきのあおいが目に入る。

 

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§さいたま市立高砂小中学校 合格実績 2068年9月25日分

中等部3年2組 牧野葵まきのあおい 

合格 英国ケンブリッジ大学 トリニティカレッジ附属「フィリオクェ数理革新プログラム」

(Passed: the "Filioque Program for mathematical innovations" assigned in the Trinity College, University of Cambridge, UK.)

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 他の生徒と同様に、ケンブリッジ大学という文言に、未来みくは、刹那せつなおどろき固まったが、数理革新という文言に目にして、微笑みが浮かぶ。(そうだね、あおい、あなたはそういう子だものね。どこまでもいっちゃっいな!)

 

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