エコテロリストNo.2「参上!リサイクル鉄仮面」

EP.1「第1次新宿内戦抗争」




「緑化魔法、バンブーロケット!」




 ぼく目掛けてバンブーのロケットが飛んでくる。竹は白・赤・緑と新宿の光を高速で色変えていた。ロケット花火のようなスピードだが太さも長さも倍はある。


(しかも尖ってるし!)


「エコエゴ・アサマシク、鉄魔法! 鉄壁!!」


 僕は竹槍の突撃を鉄の壁で防いだ。カンカンと恐ろしい音がする。


 10m先には緑色の制服の少女が立っていた。長い髪が爆風でたなびいている。しかし、眼鏡の奥の瞳に揺らぎはなく、敵意しかなかった。


「リサイクル鉄仮面、わたしはあなたを許さないっ!」

「やめろ! みどりの魔女! 私はお前と争う気はない!!」

「なら大人しく捕まりなさい!」


 魔女は周囲の空気をかき集めるかのように両手の平を空へかざした。



「誇り高く散れ! ホコリダケっ!」



 手から十円玉ぐらいのきのこたちが飛び立った。ぽぽぽぽん、と手品みたい跳ねる。ホコリダケは、担子菌門真正担子菌綱ハラタケ目ハラタケ科のきのこだ。ホコリダケは成熟すると中央部に穴が開いてそこから胞子を飛ばす。それが爆発しているようにも見える。


 ただし今の場合は、本当の爆発を伴っていた。もちろん爆発は天然ではなく魔法なのでひと1人吹き飛ばすには十分だった。


「お鉄台てつだい


 種子の爆発から僕は咄嗟に抜け出す。1m四方の鉄柱がニョキニョキと生えて僕の逃走を文字通り手伝ってくれた。


 タンタンタン、とリズミカルにジャンプしてから地面へ着地する。



 僕はみさお、とクラスメイトに胸のスマホで呼びかけた。


「監視カメラの位置を教えてくれ!」


「右10mから等間隔に5m、左も同様」


「鉄塔!」


 感謝の代わりに僕は地面に手を着き唱える。直径1mの鉄の円柱が付近のカメラを下から貫いた。


バリン、ガシャーン


と、ガラスレンズとみどり色の回路のプラスティックがひしゃげた音が聞こえた。



 僕の魔法は〝鉄を増殖させること〟だった。だから増殖させるためには媒介に身体の一部を触れさせなければならない。ただ、地中にはふんだんに鉄が含まれている。




(都会の、こんな真ん中で見られちゃやばい!)




「鉄魔法! 鉄城!!」



 周囲にはビル、混雑した道路、大勢の歩行者がいた。すでにこちらへ向けられているカメラを高さ30mの鉄の壁が遮った。それはシャッターを下ろすように、周囲50mを鉄の壁で囲った。


ドン! ドン、ゴンゴンゴンゴン!


 目の前に急に現れた鉄の壁に車が次々と衝突して耳を塞ぎたくなる金属音が大きく、新宿に轟いた。


 いちおう、壁面は下へ行くほど硬度を低くしてある。僕はドライバーの無事を祈るほかない。


「ハハハハ、そんなんじゃ私は倒せないぞ。みどりの魔女よ」


 の下で僕は言った。声がマスク内を反響して耳が痛い。

 なんでこんな仮面をかぶってるんだっけ? 



 そしてなんでハナちゃんと戦ってるんだっけ?



 10m先には僕の好きな人が立っていた。

 

「それだけのエコポイントを持ってるなんて! あなた何者なの!? 正体を見せなさい! リサイクル鉄仮面!!」

「それはできん!」

「なんでよ!」

「正体がバレたくないからだ!」

「顔をかくして悪事を働くなんて卑怯者!」

「んぐっ」


 その言葉は僕をすんごく傷つけた。


(好きな人に言われたくないよ、ほんと)



「鉄柵!」



 彼女と戦いたくない僕はせめて足止めしようと試みる。


 シュトトトトとアスファルトを貫いて鉄の棒が立ち上がった。さらに増殖された彼らは互いに手を取り合うように連結された。鉄の柵が標的を囲む。


 しかし、僕の姉はそれをいとも簡単にぶっ飛ばしてしまった。ドゴン、と生えた野太い木々が鉄柵を根本からアスファルトごと空中へ吹っ飛してしまった。


「緑化魔法、ネズミサシ!」

「邪魔をするな! みどりの魔女!」


 ほんと帰ってほしい。好きな人を傷つけたくないんだって!


「だまれこの卑怯者!」


 2回も言われるとほんと泣きたくなる。

 エコポイントでは僕のほうが遥かに勝っている。彼女の攻撃は効かない。


 けど攻撃は心をエグってくる。

 だからたまらず僕は逃げ出さずにはいられなかった。


「お鉄台てつだい長!」


 1m四方の鉄の台が僕を空中へ避難させてくれる。

 

 さらに「鉄魔法、蘇鉄!」


 トゲトゲしい植物を模した鉄が彼女の四方を囲む。


「スプリング・エフェメラル!」


 しかし、彼女はそれをものともしなかった。その和名はカタクリ。僕らがよく口にする竜田揚げの素だ。トゲトゲしい葉は細かな蔦に巻き取られる。カタクリによってソテツの刃は衣ででおいしく包み込まれてしまった。


 彼女は、どうあっても僕を逃がさないつもりみたいだった。


「逃がさない!」


 続けて放たれた魔法は、どうあっても僕を倒す用途だ。大きなユリが生えて恐竜のアギトみたいに花弁を開いた。


「ユリテッポウ!」



「うわっ、おい! 殺す気かっ」

「最初から言ってるじゃない!」

「鉄皮!」


 キン、と魔法で硬化された皮膚が種を弾いてくれた。背後を見ると鉄の壁が凹んでいた。樹木の種だって音速で当たったら死んでしまう。

 


(ほんとにやるつもりなのかよ!)



でも、死んだら人を愛せない。死んだら元も子もない。



「えーい、くそぅ! 鉄拳!!」



 僕の必殺技である。機動戦士ぐらいの大きな拳を彼女へ放つが、彼女はそれもあっさり防いでみせた。


蒲公英ダンデライオン


 当たらないように、と心配したのはまったくの杞憂だった。

 教室ぐらいバカでかいタンポポが、ふさっと鉄の塊をあっさりと受け止める。



「うっそー!?」



 驚いてる僕の隙を〝みどりの魔女〟が見逃すはずなかった。


「草よ、イラつけ!」

「しまっ」


 地面から急成長した蔦が、僕の足にからみつく。それは一息の間に僕の体全体を覆ってしまった。


「イライラクサグサ!」

「あっ」

「さあ、捕まえたわよ。観念なさい! リサイクル鉄仮面!!」


 身体が動かなかった。蔦は全身に巻き付いて、唯一動かせるのは鉄仮面の下の口ぐらいだった。


「ふははは。やるなぁ、さすがみどりの魔女と呼ばれるだけはある」


 ほんとに言いたかったのは「勘弁してください、ハナお姉ちゃん」だった。


 好きな人となんか戦いたくないのに。しかし、事情がそれを許してくれない。



 僕はみどりの魔女を


 

 でも彼女は僕の好きな人だった。


 ぼくは好きな人と戦っている。



 なぜ?



 どうしてこうなってしまったんだろう……?

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