EP.3「エコじゃないお嬢様」
こういう時、クラスには自然とリーダーシップをとってくれる子がいる。ただ、E組のその子はちょっと変わっていて、
「先生!」
甲子園で宣誓するように彼女はシュっと立ち上がった。弾みで髪がバネのように上下した。
大徳寺
「失礼、小先生!」
言葉に大か小かを付けたがる変な癖があった。無駄な労力。反エコだが、彼女の性格はそんなことなどお構いなしである。
「つかぬ事お伺い致しますが、そ、その雑巾は洗濯してから、つくったものでございましょうか?」
「当たり前だ」
「大消毒もしてますの?」
「そこに大をつけるのは失礼だぞ」
平助先生も呆れながらツッコむ。2年になって半年が過ぎ、先生もこのお嬢様の扱いがわかってきたみたいだ。早々に話を切り上げた。
「うしろに置いておくからな! 使うように!」
扉を開けて平助先生が去ると、教室は恐怖で包まれた。
「終わりですわ!大・終焉!終わりですわァァアア!」
さすが、きららお嬢様はリーダーらしく率先してリアクションをとってくれた。
「ああ! お嬢様!」
「きらら様、しっかり!」
「大・いやですわァアアア!」
お嬢様お付きの二人が加わって劇団のようになってる。
「大金色の髪! 陶器のような大白い肌! あぁ、わたくしがこぉんな美しく生まれてしまったばかりに! 小おとこ共を狂わせてしまうのですわ!」
「そうです! きらら様のせいです!」
「そうですそうです! なにもかもきらら様が悪いのです!」
「
「
右白も黒左もバカにしてるようにしか見えないけど、さすがお嬢様は強かった。というか下民の話をまったく聞いていない気がする。
「ああ! なにもかもわたくしのせい……わたくしの大・美貌のせいですわ」
ちなみに右白も黒左も二人はきららお嬢に雇われている召使いではない。どっちかというとおもしろがってコントしてるようにしか僕には見えなかった。
「ねえねえ、ご主人様」
そしてこっちも本物のメイドではなかった。
「ソウご主人様!」
制服をがん無視して彼女はメイド服を着ていた。
ガチガチガチと歯を鳴らしながらナリコが言った。
「ご主人様、リユースした雑巾ってエコポイントどれぐらいなのでしょうか」
「枚数によるけどなぁ」
斜め前の席の手板とおるが答えた。
「けっこうあるぞ……」
僕は後ろをチラっと見る。そこには山積みになった雑巾があった。3列も。おそらくクラスの人数分はある。
「一枚につき3EPだとしたら90EPはあるなよな…」
「90も! ソウご主人様!」
急に大声で呼ばれて僕は椅子ごとひっくり返りそうになった。
ナリコは僕の机を前かがみになって叩いた。自然と、大きな胸とそれを包む下着のレース模様が網膜にインプットされる。
(この胸はちっともエコじゃない)
「なんとかしてください、ご主人様ぁ」
青のうるんだ瞳(もちろんカラコン)で懇願されると断りづらい。いや、そもそもナリコが頼んでるのは正確にはボクじゃないんだ。
「あねさんかぁ・・・」
とおるがボソっと言った。
「姉じゃねえから」
「姉的存在」
「口うるさい近所の先輩だから」
「とにかくソウなら頼める」
「ソウご主人様! お願いします! お姉さまご主人様に頼んでくださいまし」
僕は顔をしかめた。露骨に。
彼女は僕らの1つ上だ。高校入学してすぐ緑化委員長になった。つまり、エコ魔法なんて関係なく彼女は自主的に緑化委員になったんだ。そのころは緑化委員なんてみんなやりたがらなかったから、自然と彼女が1年だけど委員長になった。いわば天然のエコロジストだった。
そして今や総勢100人の緑化委員をたばねる校内いちのエコポイント持ちだ。
その異名もメイドが知ってるぐらいに轟いている。
「頼んでくださいまし、みどりの魔女さまに!」
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