エコテロリストNo.1「みどりの魔女」

EP.1「エコな社会」


 『魔法』



という奇跡が僕らの前にやって来たのは僕が高校に入学した1年前のことだった。



 はじめはもちろん誰も気付かなかった。



 だって黒マントを羽織った怪しげな老人が空から降ってきたわけでもないし、名前を書けば人が殺せるノート(説明書付き)が道に落ちてたわけでもなかったから。


 発覚したのは偶然だった。


 たぶん、どこかの中2病の男子が毎日の魔法の鍛錬(架空の)を欠かさなかったら、ある日突然指先から雷が出てきたのかもしれない。


 また、とある女子大生が浮気相手に呪術を試してたら、たまたまできてしまったのかもしれない。


 もしかしたら売れない漫画家が作品に没頭するあまり、呪文を口走ったら原稿が火を吹いたのかもしれない。



 きっかけはそんなもんだったんだと思う。


で、それがSNS上で拡散された。動画付きで。拡散されるスピードは速く、あっという間に日本中に、世界中に届けられた。



 なぜなら情報の出どころが1つじゃなかったし、試せば真偽が一目瞭然だったからだ。


 ただ、魔法は使える人と使えない人がいた。


1つ、社会人の男性はほとんど出来ない。

1つ、専業主婦の方々は出来る割合が高い。

1つ、幼稚園児はできないが小学生では出来る子がけっこういる。



 無責任な分析はSNSですすみ、あることが判明した。魔法使用には条件がある。



 それが「エコをすること」だったんだ。



 地球にやさしい活動を行うことによって、僕らはエコポイントを受け取る。ただ、ポイントってのはスマホにチャージされるようなものじゃなくってもっと経験的なものだった。


 

 例えば空き缶1つ拾えば1エコポイント(EP)というようなもので、どのエコ行為がどのぐらいのポイントになるかは、某巨大掲示板で表になっている。


 僕らはそれを使用して魔法という奇跡を現実に顕現させることができるようになっていた。


 いつの間にか。そう、ズボンのポケットをさぐればいつでもそこにあるスマホみたいに。


 スマホだって最初は魔法のように僕には感じられた。中学に入って初めて買ってもらえて、ケースを買ってフィルムを張って毎日しっかり充電してたが、やっぱり慣れてくるとそこにあるのが当たり前になる。どうとも思わなくなってくる。


 社会だって思ってたほど混乱は起きなかった。エコ魔法が犯罪に使用されるのでは、と危惧するニュースが多かったが、警察だってバカじゃない。




 そもそも明日銀行強盗や殺人を犯すような人間が「よし!アイツ殺したいからごみ拾いするぞ!」とはならない。もしなったとしても、〇〇さんが事件前に大量のごみを拾っていたとバレたら(すぐバレるだろうけど)簡単に疑われてしまう。それならスーパーで野菜と一緒に包丁を買うほうがまだバレない。世の中思ったほど馬鹿は少ないみたいだ。



 それで僕自身はというと馬鹿でもなく賢くもなかった。エコをするわけでもなく、反エコをするわけでもなく普通。そりゃたまに缶を拾ったりはするけど、火糸先輩みたいに朝の4時からゴミ拾いなんてのはしない。平凡に朝7時に起きて、平凡な学校に行く。前よりは少しキレイになった学校に。

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