エコポイントの魔法使い
ミニ王
エコテロリストNo.0「エコの魔法」
EP.0「エコポイント」
「カーン・カーン・カーン」
セミたちの大合唱の隙間を縫って、予鈴が校舎をささやかに震わせた。
私立
なんでそんな面倒なことをしてるかっていうと――節電のため。
いわゆるエコってやつ。
学校をあげて地球環境保護に努めてます、といえば聞こえはいいけど、実際は真逆なんだ。
すべてはエコポイントのため。それは強さのため。
とはいえ、確かに節電にはなってるわけで。
「カーン」
音色は衝いてる先生によって個性が出る。この澄んだ響きは
校舎の2階の窓際で、僕は耳を傾ける。
ビニールのこすれる音がしないか。
「カーン・カーン…ゴン!」
すごい暑いのにエアコンも点けずに開け放たれた窓から、風を伴って入ってきたのは大きな物体同士が衝突する重い音だった。
「「「ゴン?」」」
僕の前の席のやつらが一斉に下をのぞき込む。ぼくも釣られてのぞき込んだ。眼下には運動場が広がっている。今はどこのクラスも体育をしていない。きっとプールだろう。
その無人のはずの校庭に2人の生徒が立っているのが見えた。
ひとりは自分で破いたのか、はたまた持続可能な社会でも目指して着続けているのか、ボロボロのTシャツを着ている。髪はツンツン立てて、首には昔のパンクロッカーを真似て南京錠をぶら下げてた。
もう一人は赤い前髪をクルクルと巻いて、戦艦の主砲のように突き出した髪型。服装はこの猛暑の中なぜか冬服を着ている。新手のエコだろうか。上着の裾が長く地面に届きそうだ。いや、実際引きずってる。掃除をするためかもしんない。
「おいぃ!
ツンツン頭が赤髪リーゼントを呼んだ。
笑っちゃう名前である。きっと両親が古来伝統のヤンキーなのだろう。いや、笑ったらだめだった。いちおう三年生で先輩なので。遠いけど念のため、僕は口元を拳で隠したが。
「なんじゃあい!
パンク好きな枝根先輩は両親の影響は受けていないみたいだ。僕、江古田
校庭の二人はお互いをにらみつける。
「今日こそ決着つけてやらァ」
「上等じゃいぃ!」
僕らはどきどきして見てたが、続いて聞こえてきたのは奇妙な言葉だった。いや、珍妙かな。
「くらえ!」
枝根先輩が握った拳を振り上げて、力強く空にかざした。
「トイレの水を1日流さず貯めた水流――」
ツンツン頭の上に、大きな水の塊がパっと現れた。
僕は瞬きしていなかった。連続して流れる時間をしっかり見ていた。
なのに水の塊がいつの間にかそこにあった。しかも浮いている。
学校の水道水じゃない。二人は校庭の真ん中にいたから、蛇口もホースもない。そもそも普通の水はあんな風に空中でしゃぼん玉のように留まったりしない。
枝根先輩がかざした手を振り下ろした。
「
水のかたまりが赤リーゼントめがけて襲いかかる。
意外とデカい。
トイレは1回あたり4~6リットルの水を流す。それが1日5回として30リットル。なるほど。それぐらいにはなる。
(水を流さずに、じゃあ、彼の家のトイレは今どうなってるのかは想像したくない)
30リットルの水塊の襲来に、赤髪リーゼントは平然と応じた。
「朝4時から拾い集めた空き缶の盾!」
かすれた声が校庭に響く。
「黒化甲羅!」
赤リーゼントの前に黒光りする缶が出現する。朝4時から拾い集めたにしてはデカい。冷蔵庫ぐらいはある。それが30リットルの水塊を受け止めた。
どゴンっ、と轟音が校舎に響いた。
実はアルミ缶ってのは1つ15グラムしかない。どんだけ頑張って拾ってたんだ、ってツッコみたくなる。
「さすが枝根じゃ、やりおるのぅ」
「お前もなぁ、火糸」
お互いが相手の実力を認める。へへ、と二人とも不敵な笑みを浮かべた。
漫画なら熱いバトル展開かもしんない。
が、僕らの視線はもう教室に戻っていた。すでに興味を無くしてしまっていた。
二人の不良たちのケンカは日常茶飯事で僕らはすでに飽きてしまっていたんだ。
(毎日のエコ、ご苦労様です)
というか、毎日エコ活動している不良は不良なのか?
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