第四話 無自覚な本音
背凭れよりも完全に
いつもの様に頭を撫で始めたところで、静かな室内にインターホンが鳴り響いた。
「誰だよ、こんな朝っぱらからぁ……って。あー、
「ちょっ、ダメだよ
心配で直ぐに後を追えば、追い付くより先に玄関ドアを開ける音。
迎えられ入って来たのは、向かいの家の次男で
「お、今日は随分調子良さそうだなぁ。朝飯も食ったのか?めっちゃ良い匂いする♪」
上がり
いつに無く健康的な朝を迎えた様子に、
「ん。ハムエッグトースト?食った。てか、それ…」
「んあぁ、
両手を差し出して急かし、その袋を受け取った。
「
「了解。つぅか、暇ならウチ来いよな。兄貴は忙しくてあんま様子見に来れないだろ?しばらく会えてなくて寂しがってたぞ。」
「んー、そうだなー」
「めっちゃ空返事だな。ったく…」
袋の中身を覗き、嬉しそうに笑う顔が眩しい。こんなもの、きっと誰もが見惚れてしまう。
が、
とは言えあくまで愛想の良い顔は崩さずに、
「ぅわっ!ちょっ、もぉ…何すんだよ!はなせ変態っ。」
腕から逃れようと身を捩る
そんな様子を
「えっと、
―――こいつ、呼び捨てで…っ。
身近に居て過ごした年数に差がある分、互いの呼び方一つにしても距離感が違って当然なのだが。未だ、さん付けでも呼んでもらえない
スキンシップを見せ付けては、大人気無く張り合う。
「あぁ、昨夜は泊まらせてもらってね。うまく寝付けないようだったから、添い寝してあげたんだよ。ね?
「いやまぁ、…そうだけどさ。てか邪魔だから。とりあえず離れてコレ持ってろよ。」
ズシリと重い袋を受け取れば完全に蚊帳の外。
楽しそうな
さて
黒髪で純和風な顔立ち、しっかりと男性の体格でありながら、いつもフリル付きのエプロンを着け可愛らしい雰囲気を纏っていて、同性婚を隠すことも無く当たり前に地域行事に参加する。
そんな堂々とした性質故、ゲイである
元来世話焼きの
しかしそこに至るまで、
何でも正直に話してしまう
あの人が居なくなってからの数週間、飲まず食わず眠らずで倒れることの多かった
大半は
二人が話しを終えるまでひたすらモヤモヤを抱えて待ち、
「…?どうしたんだよ。具合でも悪いのか?」
「いや、いたって元気だよ。ただちょっとだけ、寂しくて…」
「なんだそれ。変なヤツ。…なぁ、それよりプリン食わね?めちゃくちゃ美味いんだ、
「ないよ。
腕の中で身体を反転させ、いつもとは立場逆転で頭を撫でる。
―――あれ?逃げられると思ったんだけど…。許してくれるんだ。
「プリン、どうしても食べるのなら三つまでね。」
「えぇ〜。せっかくこんなにあんのに…。いいだろ十個くらい。ケチ。」
勝手に食べてしまえばいいものを、
しかしそんなことより、寂しいと言ったのを受け甘やかしてくれているらしい状況に、
プリンを袋から出しつつ二段重ねで冷蔵庫に並べてみれば、その数計三十個。
やたらと甘味を欲する
スプーン片手にテーブルで待ち構える
「食べたら出掛けようか。良く晴れてるみたいだし、時間もたっぷりある。デートしなきゃ勿体無いでしょ?」
「デートじゃねぇし。てか良いのかよ、風邪つって休んでんのに。出掛けた先で知ってる奴に会ったらマズいんじゃねぇの?」
早速一つ目のプリンを食べつつ
「んー、確かに。なら車を借りて、少し遠くまでドライブなんてどう?で…そうだな、ずっと車の中じゃつまんないから、科学館あたりでのんびりしようか。」
「科学館?まぁ、嫌いじゃ無いけど。なんでまた…」
「プラネタリウムがあるらしいよ?」
相変わらず長い前髪で表情はよく見えないものの、身体があからさまに反応した。
中一の頃、
六、七年も前のことだから、今は
二個目までを食べ終え、三個目のプリンは冷蔵庫に戻し振り返ると、
「おっ!…っと。びっくりした。そんな急に飛びついたら危ないでしょ?」
危ないのは寧ろ
「すぐ出掛ける支度してくる!」
バタバタと足音を立て自室目指し階段を駆け上がって行けば、
「一発抜いたくらいじゃもたないな…。はぁぁ〜…」
「ずっと山道だけど大丈夫?酔ってない?」
一時間程車を走らせたところで、休憩に寄った道の駅。
「ぜんぜん。それより、まだ遠いの?あとどれくらい?」
「んー。だいたい一時間くらいかな。」
「そか。」
始終上機嫌な姿は癒し効果も絶大ながら、運転中も
キスを受け入れてもらえたのは、あくまでタイミングが良かっただけで。調子に乗って余計な真似をし拒絶されれば、現状の関係を取り戻すのすら困難になる。
四六時中見ていたい
「なぁ。あんたしょっちゅうおっ勃ててるけど、大丈夫か?」
「…え?……えっ?」
聞き間違いを疑い、脳内でその問い掛けを繰り返して二度見する。
動揺する
「なんかいつも隠してるし、別にいいかなって思ってたけど。外に居る時までそれだとさぁ…。欲求不満なら抜いてやろうか?」
正直な
しかし
「あ…ご、ゴミ、捨ててくるよ。」
「ん。ありがと。」
これまで
―――そもそも
高校は男子校へ通っていただけに、その考えが最も有力ではある。ちょっとした遊びの延長。
「いつまでゴミ箱見てんだよ。んな精神統一しなきゃ鎮まんないんなら、抜いてやるつってんだろ。運転ミスって事故られても困るし。」
「いや…うん。こう人が多いと、トイレでってわけにもいかないでしょ。せっかくのチャンスを不意にするのは惜しいけど…」
「あっちの端に駐め直して、車でやりゃいいだろ。」
建物から遠く離れた側、駐車場の空いたスペースを指差す。
「てか、それ。恥ずかしくねぇの?普通に通報されんぞ。」
少し怒ったように言うと、
「あの…
「やだよ。いつまで待てば鎮まんのかわかんないし、どうせまた勃たすんだろ?」
「そりゃあ僕は
「俺の何に興奮してんのか知らねぇけど。一発で足んなきゃ二発でも三発でも、さっさと抜いて出発しようつってんの!」
早く目的地へと向かいたい気持ちが勝り、もはや
余計なことをしたら二度と口を聞かないからと強く言われ、うっかり手出ししないよう後ろに回した両手首を左右でしっかりと掴んだ。
「はー、でっか。いけっかな…」
反り勃つ巨根に動じるでも無く間近で確かめれば、心做しか嬉しそうに呟く息が先端に掛かる。背筋を軽い快感が走り、吐息を漏らす
「え⁉︎ちょっ、と…
手で扱かれるとばかり思っていたのに、まさかのフェラ。しかもまだ三分の一程しか含んではいないのに、絶妙な唇と舌の動きに加えての吸引で一気に追い上げられ喉を鳴らす。
「っん、く…ん、っちゅ……ぢゅっ、ふ…」
徐々に深く、喉に届くまで咥え込み呻きながらも
―――は?上手すぎないか⁉︎
口に含みきれない部分は添えた手で刺激され、いやらしく濡れた音と声に耳からも責め立てられ…
開始僅か三分、
「んっく、ん…ごくっ。ぢゅ……ごくん。…ふぅ。もう一発ってとこかな。」
平然と飲み込み、幾分興奮しているのか息を乱しながら、恍惚とした表情で口の端を舐める。まだ萎え切れない目の前のそれを指先で撫で上げ、今度は横から啄むように唇を這わせ始めた。
「ねぇ、ちょっと、聞きたいこと…が、あるんだ…けど。…んっ」
「は、ぁむ…ん?後でな…」
決して早漏などでは無く、寧ろ耐久力には自信の有った
「ふぅ…っはぁ、我慢…してないで、さっさとイけよ…」
いつまでも見ていたい光景ながら、あまり粘っては
―――このくらいにしとかないと、逆に自制が効かなくなりそうだな。
「
「ん。どぉぞ……んむ…っ」
激しく吸い上げ音を立てれば、喉を熱いものが満たした。
「んっく、ごくっ…ん。………ちゅっ…っはぁ〜」
咥えたままで飲み下し、吸いながらゆっくりと唇を離せば、息を吐きつつ快感に身を震わす。
今触れるのも、きっと余計なことに当たるのだろう。
しかし、どうにも理解できない。
キス一つ強請るのも躊躇い赤面していた
暫くして
「随分と慣れてるみたいだけど、
「あー……。まぁ、あんたのもしゃぶっちゃったし。今更か。一応ホントのことは話すけど、
「わかった。誰にも言わないよ。」
信号待ちでハンドルに凭れ、微笑みを向ける。
「高二の頃、イジメられてたっていうか。クラスの陽キャにいきなり屋上連れてかれて、無理矢理しゃぶらされてさ。最初は力づくだったから怖かったし、恥ずかしいってのもあったんだけど。なんか…それ自体には全然抵抗無くて。言う通りにしてれば特にそれ以上要求されることも無いし、とりあえず黙って続けてたんだ。したら、いつの間にかクチコミ?裏で広まってたみたいで……。三年に上がってからは、ほぼ毎日誰かしらの咥えてた気がする。」
―――本当にイジメかどうか、事実関係は怪しいところだけど。
「イジメられてるんだって、誰かに相談はしなかったの?」
「咥えたのが喉に当たんのも、まっずいので口の中いっぱいにされんのもゾクゾクするってか。正直…気持ち良くて。相手がどんな奴かなんて下半身だけ見てりゃ気にならないから、別にいいかなって思ってたんだよな…。そんなんで被害者ぶんのもおかしくね?」
なんだかんだ、ギブアンドテイクが成立してしまっている告白に
そして強まっていく、嫌な予感。杞憂であればいいと願いながら、恐る恐る尋ねる。
「ねぇ、
「俺の連絡先知ってる奴なんて殆どいないから、卒業してからはあんま無いかなぁ。」
「その言い方だと、今も…?」
途端に曇る
「ん、あぁ。たまに。こないだはコンビニでバイトしてた後輩が声掛けてきて―――」
続く山道の途中、開けたスペースに停車しハンドルに顔を伏せた。
―――こないだ?僕が家に行くようになってからも、誰かのを咥えてた日があった……と。
「っ⁉︎ぅぐ…ぅ。な、に……」
左腕を首に強く押し付けられ、
「そんなにしゃぶりたいなら、好きなだけ僕のをくれてやるから。…キスも、フェラも、他の奴とはしないって…約束してくれないかな。」
「…ぇう、っ…」
静かな口調に反し、拒むことは決して許さないと言わんばかりの圧を感じる。更に強く首を押されては声も出せず、抵抗する指にも力が入らない。
「絶対だよ?約束を破ったら、僕もう…キミに優しくはできないからね……」
「…ヒュッ……げはっ、ごほっ!ごほっ、こほっ!……っは…はぁ、はぁ…」
解放した途端、咳き込み荒く呼吸する
一瞬怯え肩を竦ませるも直ぐに緊張は解け、撫でる指に擦り付いた。
「
己の衝動的な行動にしまったと後悔しかけた
被虐性欲のけがあるのは早々に承知していて、真逆の性癖を自覚する
「ごめんね。苦しかったろう?」
「…へーき。びっくりはしたけど、なんだろ……すげぇ落ち着く。」
落ち着くなどと、たった今酷い事をした相手に持てる感情では無い。
が、傷付けないよう、嫌われないようにと優しく尽くし、好意をわかりやすく言葉で告げても殆ど報われぬ日々を思い返して、
―――逆…か。
「はぁ~……我慢する必要なんて無かったのに。すごく遠回りさせられた気分だよ。」
「何の話…?てか、ほんとに俺の好きな時にあんたのしゃぶっていいの?」
ケロッとした顔で聞かれ頭を抱える。
「あぁ、そうだね。約束したからね。それより
「ん?難しいことじゃないなら。きく。」
「僕のこと、あんたじゃなくて、名前で呼んではもらえないかな?……って。あぁ、つい、いつもの癖で…」
これまで
仕切り直して軽いキスをし下唇を甘噛みすると、前髪を避けて額を押さえ付け、動揺で揺らぐ瞳を見つめた。
「
「わか…った、から。離して…」
間近からの視線に耐え切れず、瞼を強く閉じたまま答える。
「ほら、試しに一度呼んでみてよ。」
「や……離したら、呼ぶから。も、見んなって…」
「だめ。ちゃんと僕の目を見て呼んで。言う通りにするまでは、ずっとこのままだからね。」
涙を滲ませ小さく震える姿があまりに可愛く、
力では絶対に敵わない相手に暫し無駄な抵抗を続け、ようやく諦めた
少しずつ視線を上げ、意を決して見つめ合う。
「ひくっ……あ、あま…と。もっ、もういいだろ!呼んだ!ちゃんと目ぇ見て呼んだ!」
直ぐに目を閉じ、ジタバタと藻掻く。
「はいはい。よくできました♪」
両手を広げ解放をアピールすると、満足気に笑って缶コーヒーを飲み、再び車を発進させた。
名前で呼ぶように求められ、ただそれに応えただけ。そんな些細なやり取りでも、必要とされた感覚に
一切無自覚で、自分自身が何に対し嬉しいと感じているのかすらわからないながら、
「なんか、あん…。
「それは良かった。僕も
「んー?ん〜…ちょっと痛いけど。なんてか…」
首に触れ、ついさっきのことを思い出しては、ほんのりと頬を赤らめる。
その様子を一瞬横目で確認し、一際大きな溜め息を吐いた。
「まさか。フェラで喉まで咥えた時みたいに、苦しくて気持ちよかったなぁ…とか、考えてる?」
沈黙が肯定を意味している。
本音を言えば、
「今日帰ったら、そのあたりも含め色々と確認させてもらうから。」
感情に対する鈍感さや、性的な部分での認識のズレを放置すれば、
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