第二話 二度目の告白

『誕生日プレゼントに首輪を選ぶなんて…犬でも飼うのかい?』


 ラッピングされたそれを受け取るのは、まだ高校生だった頃の春来はるき

 嬉しそうに笑い礼を言うと、早速包みを解き自分の首に当てて見せた。


『俺があなたのものだってあかしです。ずっと…、ずっとそばに置いてください。』


 向かい合う相手にすがる手が小さく震える。

 返される言葉は無くとも優しく抱き寄せられれば、肩に頬をり寄せ微笑ほほえんだ。



 それは、まだ新しい過去の記憶。

 春来はるきにとって最も幸せだった時間。


 中学生の頃から、両親は仕事で国内外を飛び回り留守がちだったし、ずっと一緒に暮らしていた兄は大学を卒業すると同時に恋人の元へと行ってしまった。

 家に帰れば一人きり。目的も無く人通りの多い場所を彷徨さまよい歩いていたところを、できる男代表のようなスーツ姿の紳士に拾われた。


 初めは食事を共にする程度の、年の離れた友達だった。

 次第に会う回数は増えていき、相手が仕事で滞在しているというホテルへと通うようになる。

 出会いから二月ふたつき程経った頃には、恋人のような関係になっていた。


 けれど、想いを伝えるのはいつも春来はるきから。相手はただそれに優しく微笑むばかりで…。

 プラトニックな関係とでも言うのだろうか。

 一緒に居るだけで幸せだったから、この関係がいつまでも続けばいいと春来はるきは強く願っていた。


 出会ってから、三ヶ月を迎えた頃。

 誕生日プレゼントに何が欲しいかと聞かれ、選んだのは首輪だった。

 本当は指輪でもネックレスでも、身に付けられる物なら何でもよかったのだけれど。

 一緒に過ごしたいというだけだったはずの気持ちは、いつしか一方的な忠誠心へと変化し。無意識に、相手にもそんな自分を受け入れて欲しいといるようになってしまっていた。


 きっとその頃にはもう、終わっていたのかもしれない。


 冬の終わり、いつものように仕事に出る後ろ姿を見送った。

 そしてそれきりあの人は戻らず、連絡も途絶えた。


 以来春来はるきは、日々あの人の帰りを待った公園に佇み、雑踏ざっとうへと視線を送る―――



「そんなにうつむいていては、見つかるものも見つからないんじゃないかな?」


 頭の中で繰り返す思い出と後悔に今日も浮かない顔をしていると、春色の布が視界を覆う。


「またそんな薄着で。風邪をひくよ。」


「風邪とかそんなのより、あんたに毎回新しい上着を買わせるわけにいかないしな。次からは気を付ける。」


 ほぼ毎日連絡を取り合いすっかり友達となった二人だが、相変わらず天人あまとは『あんた』と呼ばれ。

 今日も待ち合わせの約束をするには至らず、デートの誘いに自らおもむく。

 そしていつも通り、挨拶代わりに頭を撫でた。


「てかあんた、なんで俺が人を探してるの知ってんだよ。」


 情報元は天人あまとの従兄弟で、春来はるきの自宅近所に住む医師の和真かずま和真かずまもまた、友人からの話しで知ったことなのだが。

 とはいえ情報はかなり細かなところまで伝わっていて、ひたすらあるじの帰りを待ち続ける忠犬ぶりは、天人あまとにとって自身の欲求を満たす逸材に思えて仕方なかった。


「人探しじゃなければ、どんな理由があってここに通うの?…っ!まさか…春来はるきくんに限って、身体を売るような真似はしないと思っていたのに…」


 ショックを隠せないといった表情をわざと作って見せ、わなわなと口元を右手で覆う。


「売るか!客だって相手を選ぶわっ。」


 毎度のからかう台詞でも、春来はるきは相変わらずの不機嫌顔。

 天人あまとの手首を唐突に掴むなり、勢いよく立ち上がり歩き始めた。


「今日はゲーセン連れてけ!ゲーセン!」


「フフッ、どこへでも。春来はるきくんの行きたいところへどうぞ。」


 天人あまとが了承するなり、掴んでいた手は離れていってしまう。

 せっかくのデートならばと天人あまとは密着して歩こうとしたが、付いては離れ、また付いては離れの繰り返し。並んで歩くことを春来はるきは拒む。


「やっぱり男同士でイチャつくとなると、世間体が気になる?だったら、外では友達らしくを心掛けるけど。」


「別に。ゲイなの隠してるわけじゃないし、そういうのは気にしない。ただ…」


 春来はるきが自分を卑下ひげしたがるのは、ネガティブな性質を自覚しているが故と天人あまとは思っていた。だが、どうやらそれは容姿も含めてのことらしく。

 並んで歩くことで天人あまとのセンスが疑われることを危惧きぐしているのは、周囲の視線をやたら気にする様子からも見てとれた。


「友達でも恋人でも、一緒に居る相手を見てさ、外見の不釣り合いを笑う奴っているだろ。」


「そうだね。」


「俺みたいの連れてたら、あんたもきっと笑われて……。そういうの嫌だから。」


 他人と仲良くなるほどに、くだらないことを気にして距離を置いてしまうのもまた春来はるきの悪い癖。他人を容易に惹きつける容姿である自覚が微塵も無いのだって困りものだ。

 問答無用で春来はるきの腰を引き寄せると、腕を回してガッチリ確保した。更には顎を指で押し上げ、髪で隠した顔もあらわとなる。


「人がどう捉えるかなんて、いちいち気にしていたらハゲてしまうよ?むしろ気にした方がいいのは僕の視線なんじゃないかな。よからぬことを企んで、隙をうかがっているのかもしれない。」


 最も気にせねばならぬのは、こんなたわむれを公衆の面前で晒すこととは、残念ながら双方とも意識に無く。


「僕は春来はるきくんの顔も身体も大好きだよ?性的な興奮を覚える程度にはね。」


 耳に触れる程唇を寄せ、囁いた。


「んっ!……っう…」


「おやぁ?どうしたのかな?」


「あっ、あんたがハゲちまえ!」


 腰を抱かれたままで可愛らしい悪態あくたいをつきまくり、軽く流されなだめられ。

 天人あまとの徐々にエスカレートしていく行動に翻弄ほんろうされつつも、構われること自体には不思議と安心感を覚える。


 ―――もっと苛めたら、どんな反応を見せてくれるんだろうね。


 そんな天人あまとの欲望に対する危機感は、この期に及んでも皆無である。

 たまたま触れた天人あまとのポケットに飴を見付けると、呑気のんきに頬へと詰め込んだ。




 何軒かの室内遊戯施設を巡り、天人あまとのお金でひとしきり遊んだ二人。


「はぁぁ…。疲れた、腹減った、眠い。」


 街灯の柱に寄り掛かり、大きなウサギのぬいぐるみの耳をパタパタと動かす。

 可愛いものが大好きな春来はるきはそれがいたく気に入ったようで、顔をうずめ擦り付いた。


「見ていただけなのに疲れたの?」


「だって、俺ゲーム苦手だし。見てるのだって疲れるんだよ!」


 景品の菓子を口に入れてやると、手にしたウサギの耳で天人あまとの腕を叩きながら反論する。


「そうだねぇ、あれだけ騒げば確かに。」


 思い返せば、春来はるきが笑ったり悔しがったりといった無邪気な姿を晒すのは初めてのことで、今日の出費も全く気にならない程に天人あまとは満足していた。

 それにしても、いくら喜ぶからといって張り切り過ぎたのも否めない。獲得した景品は大きな袋二つ分にもなり、天秤のようにそれらをぶら下げた姿がイケメンには不似合いで。

 春来はるきは思わず吹き出してしまった。


「なんかすっげぇ楽しくて何も考えて無かったけど、やり過ぎたな。ごめん。」


「その分報酬は貰ったから問題無いよ。…どうしようか。僕が春来はるきくんのいえまで運んでも構わない?できれば食事も準備してあげたいし。」


ウチに来るのはいいんだけど。飯まで作ってくれんの?」


 報酬とは何のことだろうと思いつつも、軽く返す。

 その上、自宅に招き入れたからどうなるとの考えにも及ばずに、遠慮なく厚意を受け入れた。


「家に食材はある?野菜とか肉とか…」


 聞かれて冷蔵庫の中身を思い出す素振り。しかし、不器用な春来はるきが自炊することなど滅多に無く、当然新鮮な食材があるはずも無い。


「パスタと、素麺と。あとレトルトとかカップ麺、缶詰なら結構あるかも。」


「はぁ…、だと思った。まずは君を送り届けてから、買い物に行ってくるよ。」


 予想を裏切らない返答に苦笑し手にした袋をいったん足元に置くと、頭を撫でながらスマホでタクシーを手配する。

 家に到着するまでの間、ウサギのぬいぐるみで遊ぶ様子を天人あまとは微笑ましく見守り。そのじつサディスティックな妄想を巡らせていた。




 走行の揺れでウトウトと心地よくなりかけたところで、車は春来はるきの自宅前に到着。

 荷物と共に降ろされ、食材を買いに出掛ける天人あまとを見送る。


「えっと。少しは片付けとかしといた方がいいのかな…」


 自分ではあまり物を買わないため、どの部屋もさほど散らかっているわけでは無いが、今日持ち帰ったものくらいは片付けておこうと取り掛かった。

 菓子はリビングのテーブルに置き、袋の大半を占めるぬいぐるみは纏めて二階の自室へと運ぶ。

 一つ一つ出しながら見ていると、どれも可愛くて。作業はまったく捗らず、ベッドの上がぬいぐるみたちによって占拠される結果となった。


「…置く場所ちゃんと決めないと、これじゃ寝れないよな。」


 とはいえずっと眺めていると、現状も悪くはない。

 ベッドに上半身を伏せぬいぐるみに埋れてみれば、なんとも言えぬ安心感に包まれる。

 寝返りをうつには邪魔になりそうだが、わざわざ置き場所を作って整理するのも面倒。雑然とした状態のまま片付けは終了し、リビングへと戻った。


 手持ち無沙汰で、また甘い菓子を口に入れながら天人あまとを待つ。

 日常的に待つことには慣れているつもりだったが、心做しか時間の経過が遅いように感じた。


「……おっそ。」


 時計を見上げるも、帰宅してからまだそれほど経ってはいない。焦れったく進まない長針を見てはクッションを叩く。


「シャワー浴びよ。汗かいたし…時間もつぶせるし。」


 自分が不機嫌になっていることも、その理由にも気付かずに、唇を尖らせ独り言を吐いた。

 もし入浴の最中に天人あまとが戻ったとしても、脱衣所にも設置してあるインターホンで玄関ロックを解除すれば良いだけのこと。

 再び自室へ行き着替えを準備すると、浴室へと向かう。

 脱衣所で服を脱げば軟弱な自分の身体が鏡に映り、項垂れて嘆息たんそくした。

 軽い筋トレなどで鍛えてはみるものの、成果を感じられることは無く。それでも、せめてもう少し腹筋が目立つようになればと日々同じ思考を繰り返す。


 ふと兄の姿が浮かび、恋しさと劣等感が込み上げた。

 兄はいつだって優しく接してくれていたし、両親も兄弟を比較することはしなかったから、春来はるき自身が勝手に意識していただけ。身近に在る理想がただただ妬ましく、そんな思いを隠すため身に付けた作り笑いも、殆ど一人きりで生活する今となってはもう無意味。

 桶に貯めた水を頭から被り、要らぬ感情を振り払った。



 ちょうどシャワーを終えたところでインターホンが鳴る。

 タオルを肩に掛け、まだ濡れた指でボタンを押し応答すれば、画面に映るのは不似合いなエコバッグを手にした天人あまとの姿。すぐにロックを解除し招き入れる。

 浴室のドアを挟み廊下の向こうから玄関扉の開く音がして、簡単に身体の水気を拭き取ると、パンツ姿のまま出迎えた。


「ごめん、今シャワー浴びてたから。」


「それは…、どういうつもりかな?」


 お邪魔しますの挨拶も許さない刺激的な出迎えにゴクリと喉が鳴る。

 動揺で思わず口走ってしまった問いは直ぐに訂正して、春来はるきが肩に掛けていたタオルで頭を拭いてやった。


「ドライヤーは?濡れたままだと風邪をひいてしまうし、髪にもよくないよ。」


 キッチンの場所を聞き買ってきた食材を置く。

 薄手の部屋着を纏いながら春来はるきが持ってきたドライヤーを受け取り、椅子に座らせた。

 ドライヤーの暖かい風を当てられ目を細める。


「至れり尽くせりだな。執事って、いつもこんな感じ?」


 項のあたりを梳く指が何とも心地よく、うっとりと息を漏らす。


「まぁ、あまり変わりはないけど…。仕事とプライベートじゃ、やっぱり違うからね。」


 親の仕事の繋がりで仕方なく仕えるようになった主人相手と春来はるき相手とでは、何事にも意欲に差が出て当然である。

 何より、今現在天人あまとが仕えている相手はまだ中学生で、生意気かつ我儘なマセガキという認識が一層意欲を欠いていた。

 丁寧に乾かし終えるなり頭を撫で、腕を回して頬を擦り寄せる。


春来はるきくんが僕のご主人様ならよかったのに。」


「あんたが俺の執事になったら、毎日こんな風に世話してくれるんだろ?…うわ、俺めちゃくちゃ堕落しそう。」


 春来はるきの想像はもはや執事の仕事というよりは全面介護のレベル。


「それをさせないのも、僕の仕事なんだよ?」


 考えていることがわかって苦笑しながら、首筋に軽く噛みつく。

 それには流石に抵抗して、半乾きの髪をくしゃくしゃと手櫛で乱すと、いつものように長めの前髪で目元を覆い隠した。


「もういいよ。だいたい乾いたし…。ありがと。」


 天人あまとの過剰なスキンシップに嫌悪感は無い。ただ密着される度に、自分のあらゆるコンプレックスを晒しているようで。そんな思い込みによるストレスで、恐らく一層ひどい顔をしているだろう自分を少しでも隠そうと俯いた。


「なに…作るんだっけ。俺も手伝う。」


 春来はるきのあからさまな動揺にも気付かぬふりをし、手際よくドライヤーのコードを巻き束ねる。


「野菜たっぷりのスープと、オムライスにしようか。僕の分には、ケチャップで愛のメッセージを書いてくれると嬉しいな♪」


 頭を撫でてやると幾分落ち着くのを知って、そうしながら冗談っぽく答えれば、春来はるきは大きな溜め息を一つ。


「変態執事って書いてやるよ。」


 少し笑って背を向け、段取りも関係無くキッチンテーブルに食材を広げた。

 食材の切り方や調味料の計り方、火加減などを丁寧に説明しながら、天人あまとは手際よく調理を進める。

 春来はるきも指示されるがまま不器用な手付きで手伝い、野菜スープは見た目も味も上々の仕上がり。

 続いて素早く美しくオムライスを生み出せば、春来はるきは瞳を輝かせ感嘆の声を漏らした。


「あんた、マジで変態執事だな。」


「んー、もう少しマシな褒め言葉はいただけないものかな?」


 苦笑しつつ、ケチャップを手に悪戯気分でハートを描く。


「え?あぁ、うん…。すげぇ、美味そう。魔法でも使ってんのかと思った。」


 まったく期待はしていなかった春来はるきの言葉。恥ずかしげに褒め直す表情がゾクリと刺さりケチャップも暴走する。

 理性を奮わせ己をどうにか抑え込み、ニッコリ笑んで返した。


「こんなので良ければ、いつでも作ってあげるよ。さぁ、冷めないうちに食べよう。」


「こっちは俺運ぶから、コップとお茶よろしく。」


「了解。熱いから気を付けてね。」


 ―――なに、さっきの顔。うっかり理性吹き飛ぶかと思った…


  パンツ一枚での出迎えにも難無く耐えた天人あまとだから、無防備な表情一つに煽られようとは思わなかった。

 けっして傷付けず、ゆっくりじっくり落とそうと長い目で見ているのに、二人きりという状況下で周囲の視線を意識しなくなった春来はるきの振る舞いの一つ一つが、容赦なく天人あまとの欲を掻き立てる。


「まともな飯食うの久々かも。いただきま~す。」


「三食の内せめて一食はちゃんとしたものを食べた方がいい。甘いものばかりじゃ、そのうち糖尿病になってしまうよ?」


「なったらなった時だし。甘くないと食う気しない…」


 オムライスもスープも甘くは無いのに?

 その言葉は飲み込んだ。美味しそうに食べる姿を見つめ、天人あまとはようやく春来はるきの心に入り込めたことを実感し愉悦する。


 春来はるきが甘味ばかり口にするのは甘党だからでは無く、恐らくは依存。吐き気がする程の甘さで満たして、抱えきれない不安を無理やりに押込める。

 天人あまとはすっかりそのことに気付いていたから、自分が作った甘くないオムライスを抵抗無く食べる様子には、少なからず手応てごたえを感じたのだった。


「そうだ。買うのも作るのも面倒なら、毎朝お弁当を届けようか?昼でも夜でも好きな時に食べればいいし。僕の手料理、けっこう気に入ったでしょ?」


「……いい。あんたも忙しいだろ。」


 予想に反し、春来はるきは素っ気なく返す。


 ―――おっと。ミスったな……


 少しばかり心を許したかと思うや否やの曇り顔に、何がいけなかったのか思案する天人あまと。ふと思い立ち鎌をかける。


「もしかして、僕が一緒じゃないと食べる気がしない?」


「っ……別に。」


 チラリ覗く春来はるきの耳が赤くなる。動揺でスプーンを握る手が震え、皿に当たりカタタと音を立てた。


「それならそうと言ってくれればいいのに。執事だからって、四六時中主人に仕えてるわけじゃないんだよ?僕の場合、夜は必ず自宅に戻って自炊してる。それをここへ来て済ませばいいだけのことでしょ?まぁ、春来はるきくんが迷惑じゃ無ければの話だけど。」


「あんたに…、何もメリット無いだろ。そんなの…」


「んー。初めに言った理由をずっと鵜呑うのみにしてくれてる純粋さも春来はるきくんの魅力だよ?でも、そろそろいいかな。」


「?……何が…」


 目が合うのを避けて彷徨う春来はるきの視線の先に潜り込む。テーブルに低く寄り掛かる姿勢で見上げれば、慌てて顔をそむけた。


「信じる信じないは春来はるきくんの自由だけど、一目惚れしたのは嘘じゃないし、キミが欲しいって言ったのも僕の本心。それを踏まえた上で、これまで通り受け入れて欲しいなぁと思ってね。」


 どうせまた、からかっているだけ。そう思い込んで片付けるのは今となってはもう難しくて、春来はるきは困惑の表情で服の胸元を掴む。


「別に今すぐどうこうって気は無いから安心して。ただ少しだけ、キミに尽くす時間を増やしたい。春来はるきくんに好きになってもらうための努力、させてもらえる?」


「もし…す、すきに、なれなかったら……、どうすんだよ。」


「あー、それは考えてなかったなぁ。どうしようか。万が一失恋した時は、責任を取って春来はるきくんが僕を慰めるってことで。」


「意味わかんね。なんで俺が……」


 不満げに、けれどどこか嬉しそうな空気を纏い、残りのオムライスを口へと詰め込んだ。


 ―――刺激的な恋愛ができそうだと思って近付いたけど、完全にハマったなぁ。


 沸き上がる欲を鎮めるべく、深く深く息を吐く。


「めちゃくちゃに抱きたくなるから、そういう顔やめて。」


「はぁ?!わかんねぇよ!あんたが勝手に…っ」


「まぁ、そうなんだけど。はぁ…。無理やり襲って嫌われないよう、せいぜい頑張るよ。」


 以降、ほんの少しだけリミッターを解除した天人あまとの熱烈な求愛に、春来はるきは翻弄されることとなるのだった。

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