第187話 特別試合7



 うわー! やられるー!

 痛いの……?


 と思った瞬間、猛が叫んだ。

「のっとる!」


 何が起こったんだ?

 ワレスさんが伸ばしかけてた拳をさげた。ふうっと大きくため息をつく。


「もうひと息だったんだがなぁ。そんな技も持ってたのか。怖い。怖い」

「おれの弟をなぐろうとしたろ?」

「いやいや。おまえの弟は、おれをフルボッコしたよな?」

「それとこれとは別なんだよ。それが兄貴ってもんだ」


 あっ、そうか。猛の技か。動く死体でおぼえる『のっとる』だね。相手の行動順を阻止して、自分のターンにしてしまうっていう規格外の技。


 ワレスさんと猛の会話。セリフだけ聞くと険悪に思えるかもだけど、じっさいにはそうじゃない。今にも肩を組みそう。強い者同士で、なんかわかりあったのかもしれない。


「さあ、そろそろ、やれよ。ギガファイアーブレスか? そのために、おれの順番をのっとったんだろ?」

「ああ。じゃあ、やるか」

「あんた、まだまだ強くなる。次に戦うときは、おれも一人じゃ危ないな」

「ははは。できれば敵として会いたくないよ」


 握手なんかかわしたあと、猛はクルリとふりかえって言った。


「よっし。じゃあ、たまりん、弾いてくれ」


 ははは……合理主義者。

 戦いと男の友情は別物なんだ。


「はあッ。カッけぇー!」

「キュ……キュイ……」


 まだ痺れたり、金縛りにあってる二人はいるけど……。


 そういえば、海鳴りのラプソディーの効果で状態異常回復するはずなのに、なんで二人はこのまま? ワレスさんの特技でなった異常はふつうの方法では治癒しないのか? いわゆる無効効果無効ってやつ?


 たまりんはハープを三回ひいた。

 そのあと、前のターンで起こったことが、そのまま再生された。ただ、僕は小切手を切るで、百億円、使ったけどね。


 さすがにワレスさんでも、これは……あっ、あれ?


「光ってる……」

「光ってるなぁ」

「あれ、戦闘不能だよね?」

「だと思うけど」


 話してるうちにも、倒れたワレスさんのまわりが、ピカーッと強く光る。この感じ、僕は知ってるぞ。よく蘭さんがなるやつだ。



 チャラララッチャッチャ〜!

 ワレスの特技『古の血』がランクアップした。戦闘中、一度だけ、戦闘不能になっても自動蘇生する。



「兄ちゃん……いいね。イベントで特技、おぼえたいね」

「あっ、さっき、兄ちゃんもソレ、なったみたいだぞ。ステータス見たら、推理って特技がランク5になっててさ。『戦闘中、敵の行動を推測することにより、一度だけ、3ターンのあいだ無敵になれる。パーティー全体に効果あり』だってさ。おれたち、雷神の怒りをくらったとき、全滅しなかったのは、たぶん、そのせいだな」

「ズルイッ!」


 もう、なんで兄ちゃんばっかり。僕の特技はいつになったら、ランクアップするんだ?

 気になったんで、のぞいてみた。

 ん? 僕のも何個かランクアップしてる。あれ? いつのまに? 泣きマネが使えるようになってる。それに、つまみ食いがランク5に。小説を書くがランク3になって……。


「や、ヤッター! 小説を書くがランクアップだ! いっきに2ランクアップ!」


 なになに? 書けるものが増えたって書いてある。ランク2ではアイテムの説明を書きかえられる。ランク3で、魔王軍との戦争に重要ではない人物の蘇生、だって。


「やった。たぶん、これで、ナッツのお母さんを元に戻せる。イケノくんはどうかな? 僕らといっしょに戦うようになるのなら、重要人物になっちゃうかな」


 あっ、そんな場合じゃなかった。まだワレスさんと対戦中だ。でも、復活したワレスさんは、パンパンと手を打った。


「ここらで引き分けにしないか? おまえたちが強いことは充分わかった。ゴドバの腕はおまえたちのものだ」


 僕は猛を見た。猛はうなずいた。


「ありがとうございます! 僕ら一対一だったら、誰もあなたにかないません。今は大勢だったから、なんとか、ここまで持ちこめたけど」

「はあ……カッけぇよ……しびれるゥー!」


 アジ、まだ痺れてる!


 観客たちも全員、立ちあがり、拍手をおくってくる。見ごたえたっぷりの試合だったからね。大満足みたいだ。

 救護班がかけつけてきて、失神してる人たちを治療していく。

 アナウンサーも興奮した口調だ。


「素晴らしい戦いでした。これほどの試合は、おそらく二度と見ることはないでしょう。今、この場にいる人々は歴史の証人となったのです。わたくし、ひじょうに感動しております。さすがは殿堂入りの実力者、ワレス近衛隊長、感動をありがとう。そしてワレス近衛隊長を相手によくぞ互角に持ちこみました。かーくんパーティー。その強さに嘘偽りはなかった。みなさん、この素晴らしい戦士たちに惜しみない拍手を!」


 お祭りは終了した。

 この清々しい高揚感。


 僕は忘れかけてたんだよね。

 でも、まだ、これで終わりじゃないって。

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