第186話 特別試合6



 ああっ、再びのワレスさんになってしまった。行動順。さっきまで、ゆとりで手かげんしてくれてたけど、今回は——?


 ワレスさんはうつむいてる。

 HP1だもんな。やっぱり、ワレスさんほどの人でも意識失う寸前だよね。ツライのかな?


 いや、違ってた!


「…………はは……アハハ! ははははは」


 笑ってる!


「いいね。それじゃ、おれも本気を出すよ」


 キャー。そうだよね。そうなるよね。


 ワレスさんの目がピカンと光る。美形だからさ。もとい。超絶美形だからさ。そういう『おまえを狙った』的な顔されると、凄いのなんの。怖いよー。


 ところで、ワレスさんの素早さは二万八千。猛は一万。僕もがんばってパタパタしたから、一万超えた。


 つまり、ワレスさんの数値だからって、そうそう何十回も動けるわけじゃない。たとえ、ワレスさんも流星の腕輪をしてたとしても、五、六回ってとこだ。


 いや、五、六回で充分かな……?


 ワレスさんの最初の行動は、まずHP回復だろうな。ゴライの反射カウンターもあるし、『元気いっぱい〜』か、さきにクマりんやケロちゃんを蘇生させてからの、『みんな、元気いっぱい〜』だ。これで二、三回は行動を使う。


 僕はそう読んだ。でも、またまた違ってた。


「虹のオーロラー!」

「あッ」

「あッ」


 虹のオーロラ。

 それは、勇者がおぼえる特技だ。味方パーティー全員のあらゆる状態異常をなおし、弱化魔法は消す。逆に敵の強化魔法やバリアなどのよい効果は打ち消す。つまり、というも治癒する。


「ワレスさんも勇者、マスターしたんだ!」

「まあね。おれらもマスターしてるくらいだから」


 そして、全員が起きたところで「全回復!」と、ワレスさんは叫ぶ。これ、たぶん、『みんな、元気いっぱい〜』のことだと思う。あの人、自己流詠唱できるから。


 ということは、この瞬間に僕らの攻撃のすべては徒労となった。ダメージは全回復。クマりんやケロちゃんも蘇る。


 あッ! それだけじゃないぞ。敵のいい効果やも全部、消えるんだ。あの反射カウンターも!

 僕らの神獣の気はじつのところ、前のターンで解けてた。物理攻撃さえすれば、ふつうに効いてたけどね。


「あれっ? てことは、さっきの決勝戦、兄ちゃんが虹のオーロラやってたら、あっけなく勝ててたんじゃない?」

「…………だな」

「なんでやらなかったの?」

「いやー。攻撃技じゃないからさ。あんまり説明よく見てなかった」

「ふうん」

「かーくんだって使えたよな?」

「そうだっけ?」

「そうだよ」

「そうかなぁ」


 そうなんだけどね。僕なんか、その技あること知ってたのに、完全に忘れてた。より罪深い。忘れてたことは、兄ちゃんにはナイショにしとこう。うん。そうしよう。


 ワレスさんの反撃が始まった。


 一撃でゴライは沈んだ。

 すごい。剣じゃない。素手だ。直前まで迫ると手元で、グンと拳が伸びたように見えた。次の瞬間には、ゴライは壁までとばされてた。


 つ、次は誰?

 僕ら? えっと……蘭さんだ。

 まるで瞬間移動だね。一瞬で蘭さんの前まで跳躍。

 僕は見たよ。蘭さんのふところへ入りこむと、彼はニッコリ微笑んだ。


 わあっ。綺麗だなぁ。

 直後、グーで(´Д´(○︎=(≧︎□︎≦︎*)o

 あっ、失礼。じっさいには、みぞおちを一発。蘭さんの美しい顔を狙ったりはしませんでした。


 はい。蘭さん、ダウン。

 アンドーくんはそのままの勢いで、うしろまわしげり。はい。ダウン。


 バランは?

 あれ? バランは降伏した。

 黒ぽよのくぽちゃんの背中から降りると、ワレスさんの前にひざまずく。


「御身こそ、われらが王です」


 ああッ、バラン! それは蘭さんが悲しむよ。てか、もしかして魅了? そうか。魅了か!


 あれ? それにしても、これでもう、ワレスさん、五回行動してるよね? あと多くても一回かな?


 じゃあ、僕らのパーティーはまだ全員いるから、少なくとも四人は残る。アジにしろ、ぽよちゃんにしろ、みんなが蘇生魔法を知ってるんだ。次のターンには復活できる!


 と思ったら、ワレスさん。

 僕の心を読んだね。


 サッととびこむように手前まで迫り、ささやいた。


「残念。あと二十回は動ける」

「ええーっ?」


 なんでだ? もう素早さの限界のはずだ。


「……かーくん。戦闘中、行動回数を五倍にする、って特技がある」

「ええーッ!」


 ワレスさんが甘い声で耳打ちする。

「悪いな」


 キラン。目が光ったー!

 やられるー!

 僕もたおされるー!


 その瞬間だ。


「のっとる!」

 猛が叫んだ。

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