第178話 決勝戦4



 まあ、しょうがないよね。

 一発でキマるとは限らない。確率の問題だ。

 でも!


「ぽよちゃん!」

「キュイ?」

「まだ動ける?」

「キュウ……キュイ」


 えーと……ムリ——と言ったっぽい。

 しょうがないね。ゴライは素早さ500だし、二回行動するためには数値千以上ないといけない。


 とりあえず、今のターンは猛とアジで、ぽよちゃんの素早さをあげてあげて、あげまくる。

 これで次のターンには二回行動できる。二回もかめば、66%の確率で反射カウンターだ。まあ、大丈夫でしょ。


 僕はやることないんで、素早さだけあげといて、身を守る。


 次のゴライのターンは千手観音を封じられてる。通常攻撃をしてきた。バリアが一定量のダメージで消えるかも、と思案したんだろう。僕らも白虎と戦ったとき、最初はそう思ったもんね。


 よしっ。こっちの番だ!


「ぽよちゃん。頼んだよ。封じ噛み!」

「キュイ、キュイ!」


 走る。走る。ぽよちゃん、速い。

 これ、観客席からだと、どう見えてるんだろうな?

 ぽよぽよに頼るしかない僕ら?

 そんなことないぞ。ぽよちゃんは最強のぽよぽよだ。


 ガブリ! ガブリ!

 行った。二回かんだ。

 どうだ? 何が封じられた?


「かーくん」

「うん」

「ふんばると、千手観音だな」

「だね」


 よりによって、反射カウンターだけが残ったか。

 まあ……しょうがない。確率だ。


「ぽよちゃん。もう一回動ける?」

「キュウ……」

「あっ、いいんだよ。次こそ、がんばろ〜」

「キュイ!」


 ゴライ、運のいい男。

 時の勝負には運も必要か。

 二年連続で勝ち残った意味が、なんとなくわかる。


 ただ、ゴライは今回も千手観音を封じられてる。できることは、通常攻撃と身を守るだ。ポテンと一発攻撃してくるんだけど、やっぱり神獣の気にはばまれる。


 観客席からブーイングが……。


 いや、わかるよ? たしかに地味な戦いだよね。お金払って見物してるんだから、もっと華麗な技を次々くりだしてほしいよね。

 お願いだから、もうちょっと待って。


 観客に失望させながら、またまた僕らの番。

 今度こそ、今度こそ……。


「ぽよちゃん。封じ噛み」

「キュイ」


 タタタタタ——

 ガブリ! ガブリ!


「おーい、いいかげんにしろ!」

「ちゃんと戦え!」

「金返せー!」

「弱虫! ヘナチョコ!」

「チョコバナナー!」


 いや、チョコバナナは美味いでしょ?

 僕らはブーイングに耐えながら、恐る恐る、ゴライのステータスをながめる。


「……に、兄ちゃん!」

「うん。かーくん……」

「キュ、キュイ……」


 思わず、僕らは声をふるわせて、たがいの肩をくんだ。


「や——やったぞ!」

「反射カウンター、封じた!」

「よかったね。かーくん。タケル!」

「ピュイ〜!」

「ゆらり〜」


 ついにこのときが来た。

 待ちに待った奇跡が。

 三度めにして、ようやく、ゴライの反射カウンターが封じられた!


「おい、こら、てめえら、戦え!」

「何、肩くんでんだー?」

「ふざけんな!」

「金返せ!」

「チョコバナナー!」


 誰かお金とチョコバナナに異常に執着してる人がいる。


「猛。観客が怒ってるから、なんか派手な技でやっちゃってよ。思いっきり、ド派手なやつ」

「やっぱ、ギガファイアーブレスじゃないか?」

「そうだね」


 ブーイングの嵐を一瞬で黙らせるほどの咆哮を、猛はあげた。雄叫びだ。何回見ても、人間やめたみたいで、兄の身が心配に……。


「ギガファイアーブレス!」


 会場全体を真紅に染めあげるほどの、巨大な炎が渦を巻く。やがてそれは空まで届かんばかりの竜と化す。


 静まりかえる観客たちの前で、竜は舞った——

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