第154話 子ども(市松)か、竜か



 建物の構造はずっと変わらない。まっすぐ続く廊下と縁側。片側にふすま。そのなかは座敷。


 そして、ふすまをあけると、二、三室に一回、床の間に人形が飾られている。人形の種類は市松人形、張子のトラ、木彫りのクマ、まれに木彫りの竜だ。


 トラ、クマ、市松人形は大したことないんだけど、竜だけいやに強い。



 チャララララ……。

 野生の木竜が現れた!

 木竜は巨大化した!



 出会い頭に必ず大きくなる。

 そして固くて、物理攻撃がききにくい。


「ああ、また竜か」

「かーくん。いちいち部屋のなか調べる必要あるか? このダンジョン、歩いてるだけでエンカウントするモンスターいないだろ。床の間の人形だけだ」

「そうだけど、お姫様がつかまってるかもしれないし」


 木竜のHPは三万もある。ザコの強さじゃない。攻撃力はさほどじゃないからいいんだけど。


 地道にHPをけずっていく作業だ。ファイヤーブレスに弱いのが助かる。というか、それ以外ではほぼ効果ない。魔法のダメージを80%カットできるらしくて、炎系の魔法も大きなダメージにはならないし。猛とぽよちゃんのブレスが頼りだ。



 木竜を倒した。経験値2000を手に入れた。650円を手に入れた。木竜は宝箱を落とした。木のウロコを手に入れた。木竜の魂を手に入れた。



「この木のウロコってなんだろうね?」

「さあ」

「市松人形が落とすお札は、戦闘中、敵の特技を封じるアイテムみたいだよ。けっこう便利だから、いっぱいためとこ」

「かーくん、ためるの好きだよな?」

「貯金は僕の生きがいだよ!」


 そして使わずに死ぬタイプ……。


 そういえば、ここって徒歩でエンカウントしないから、小銭拾いには最適なんだよなぁ。ひろう。ひろう。なんなら、同じ場所、行ったり来たりしちゃうもんねぇ。


 ついに一回で百億円ひろうようになったからね。ちょっと廊下を往復したら、あっというまに千億だ。


「ああ、早く『小切手を切る』が使いたい。金額を自由自在にコントロール。やってみたい」

「かーくん。またいっぱい、ひろってるなぁ。兄ちゃんにもくれよ」

「この前、あげたじゃん。百億」

「兄ちゃん、買いたいものがあるんだよ」

「何?」

「ナイショだ」

「ナイショかぁ〜」

「ナイショなんだよぉ」


 ハッ! ダンジョンでほのぼの会話を。


「もう、大事に使ってよ? 僕の可愛い小銭ちゃんなんだから」


 またまた百億金貨を一枚、渡してやる。


 廊下の端まで来た。

 そこからとなりの建物まで、屋根つきの外廊下が橋のようにつながっている。

 外廊下を渡っていくと、二棟めだ。折り返して今度は右に向かう廊下がある。


 その前のところに、変な像があった。像というより何かの台座だろうか。少しクネっとした形の丸太みたいなもの。


「なんだろ。これ?」

「グリーンドラゴンの像って書いてあるぞ」

「あはは。ヘタクソにもほどがあるねぇ。丸太だよ。丸太」

「丸太だなぁ」


 思わず笑いあってたけど、ミャーコポシェットがプッと何かを吐きだした。カタンと音がして、丸太にひっつく。


「あれ?」

「さっきの木のウロコだぞ。かーくん」


 まさに、木のウロコだ。

 木彫りの竜を倒して手に入れたウロコが、丸太にくっついてる。はがそうとしても、もうとれない。



 チャララッチャ。

 魔法でいつでも、ここまで帰ってこれるようになった。



 あっ? 転移の像?

 ラッキー。


 これで街と屋敷を自由に往復できる。なんて親切なダンジョンだ。これまでで初めてなんじゃないの?


 でも、それって、長丁場になるってことなのかも?

 もしかして、攻略が難しいのかな……?

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