第155話 九十九折り……?



「わあっ、兄ちゃんたち。もしかして、街に帰れるの? おれ、学者マスターしたよ。一回、街に帰ろうよ」と、アジ。


「そうだねぇ。できれば、アジには弓使いになってもらいたいんだよね。後衛援護ができるから」

「おれ、次はニートになる!」

「あっ、うん。そうだね」


 たしかにニート、大ニートの効果は高い。僕も賢者おぼえてしまった。これ、職業習熟度プラス50%の効果だ。


「じゃあ、いったん帰ろうか」

「かーくん。兄ちゃん、大魔法使いの魔法でダンジョンから出られるぞ」

「わ〜い。アイテムいらず〜」


 というわけで、僕らは別荘とヤマトの街を魔法で行ったり来たり。職業をマスターすると帰り、また来て次の角まで進む。


 造りはずっと同じだ。よこ長の棟が橋で葛折りのようにジグザグに続いている。木竜を倒すとウロコを落とすので、それを橋渡ったとこで丸太の像にくっつけると、その棟まで魔法で来ることができるようになる。


「……それにしても、今、何棟くらい制覇した?」

「十くらいかな?」

「違うよ。十二だよ」と、アジが言う。アジは数字に強いね。


「まだ十二かぁ。これ、どこまで続くのかなぁ?」

「かーくん。葛折りってさ。九十九折りとも書くんだよ。もしかして、ほんとに九十九棟だったりしてな」

「ええーっ?」


 九十九なら、まだまだだ。あと八十七棟もある。


「どうしよう。今、四時半か。あと二棟は行けるかなぁ」

「なあ、かーくん」

「何? 兄ちゃん」


 猛は必ず角に置かれてる丸太の像を指さす。


「この丸太。ウロコが重なって、だんだん形ができてきてないか?」

「たしかに」


 まだ十二枚だけど、ちょっと像らしくなってきた。


「このウロコが全体についたら、たぶん、なんかの形になるんだ。それで考えると、まだ全体の一割ていどしかウロコがないだろ? これ全部集めるのに、あと七、八十枚は必要だ」

「だよね……」


 その夜、僕らはけっこう、がんばった。夕食をはさんで夜中十二時前まで通いつめて、なんとかウロコ五十五枚まで集めた。


「残り四十四棟か……」

「かーくん。今日はそろそろ帰ろうぜ。兄ちゃん、眠くなってきたぞ」

「そうだね。ぽよちゃんも寝ちゃってるし、今日はここまでね」

「試合は午後からだし、明日の朝にまた来よう」

「うん」


 明日は準決勝、その次が決勝だ。決勝が終わるまでにはセイラ姫を救いださないといけないから、明日の午前中と試合後にがんばれば、なんとか行けるはず。


 単調な造りとモンスターだから、こっちもだんだんなれて、後半はペースがあがってきた。明日はもっと早く進める。


 おかげで特訓は順調で、僕は賢者、騎士、暗殺者をマスターした。猛は武人、騎士、暗殺者を。たまりんは大学者と大魔法使いを。アジはニート、遊び人、大ニート、僧侶を。


「今日もいっぱいマスターしたねぇ。僕、次は何になろうかなぁ」


 持たざる者は何からなれるんだろうか? わかんないなぁ。


「そう言えば、前にたまりんがなってたパリピにもなってみたいんだった」

「ギルドに寄ってから宿に帰ろう。明日の朝、すぐに別荘に行けるように、転職しといたほうがいい」

「そうだね」


 アジもやる気満々だ。

「おれ、次は賢者になる。学者と賢者で大学者になれるんだ」

「そうだね。アジにはむいてる」


 ギルドのマーダー神殿。

 僕たち、白虎の竹林で鍛えてたときから、ここでどんだけお世話になったことか。


「じゃあ、兄ちゃんからな」と言って、神官の前に立った猛が、急に「あッ」と大きな声を出した。


「どうしたの?」

「……兄ちゃん、勇者になれる」

「えッ?」


 勇者? そんなバカな。

 あれって、選ばれし人しかなれない特別職なんじゃないの?

 兄ちゃんばっか、ズルイ。

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