第153話 別荘侵入



「おじゃましまーす」


 通用口をひらいて、なかへ入る。立派な前庭だ。完全に武家屋敷だなぁ。枯山水の石庭に、ところどころ松の木が島のように植えられている。


 お屋敷は外から見た感じ、無人。


「あッ。小銭発見! やっぱり、ダンジョンなんだ」

「小銭じゃないよな? 大金だよな?」

「僕の特技的には小銭なの!」


 あいかわらず、猫車のまま屋敷のなかへ侵入できる。

 玄関は広い。門からまっすぐ進むと右端にあった。玄関の戸口はあけっぱなしだ。


「怪しいけど、行こうか」

「怪しいけどな。行こう」


 洋館のダンジョンはさ。クツのまま歩きまわっても悪い気がしないんだけど、和風建築に土足であがりこむのって、なんか良心が痛む。とは言っても、風神のブーツぬいでくわけにもいかないんで、当然、土足なんだけどさ。猫車つれてる時点でアウトか。


 玄関をあがると、長い廊下。片側が縁側になってて、反対にはふすまがならんでる。


「誰かいるのかなぁ?」


 お姫様はいずこ?

 ああ、美しいお姫様を救出しに行くなんて、RPGの基本じゃないか。こういうシチュエーションを待ってたんだよ。言っても、すでに恋人のいるお姫様だけどね。


 ふすまをあけると、豪華な座敷。六畳くらいの部屋だ。ふすま絵は金泥に極彩色の花鳥画。違い棚には高そうな香炉こうろや茶碗なんかが置いてある。


「誰もいない」


 宝箱もないしな。

 次だ。次。


 次の間も無人。

 その次も。


 だけど、そのとなりのふすまをひらいたときだ。床の間に人形が飾られていた。いかにも日本人形って感じの市松人形だ。


「…………」

「…………」


 なんか人形と目があった気がしたけど、錯覚か。


 僕がふすまを閉めようとしたときだ。

 ん? あの人形……笑った?


「た……猛」

「どうした? かーくん」

「あの人形なんだけど」

「うん?」

「笑ってない……よね?」

「人形なんだから、笑ってるもんだろ?」

「いや、そうじゃなくてさ。最初は笑ってなかったんだよ」

「そんなバカなことあるかって。かーくんは怖がりだなぁ」


 はははと笑いながら、猛が手を伸ばして人形を持ちあげようとした。


「ああッ、猛!」

「ん? なんだ?」


 やっぱり勘違いじゃなかった。人形の口がパックリあいて、ギザギザの歯を見せながら襲いかかってきた。



 チャララララ……。

 野生の市松人形が現れた!

 野生の市松人形はとつぜん襲いかかってきた!



 やっぱり!


 市松人形はサメみたいなするどい歯で、猛の耳にかみついた。


「うわッ!」

「猛! 大丈夫?」

「イテテ。大したことないよ」と言ったあと、でも、猛は変な顔をした。


「猛?」

「聞き耳が使えない」

「えっ?」



 タケルは聞き耳を封印された。この戦闘中、聞き耳を使えない。



 わッ。やな敵だなぁ。

 先制攻撃で相手の特技を封じてくるのか。


「でもまあ、聞き耳なら、ぽよちゃんも使えるから。ぽよちゃん、聞き耳!」

「キュイ!」


 お耳をピクピクする、いやしのぽよちゃん。

 あれ? ぽよちゃんも困った顔してるぞ。


「キュイ……」

「かーくん。ぽよちゃんが聞き耳できないって言ってるぞ」

「えっ? でも、耳かまれたの、猛だよね?」


 すると、テロップが告げた。



 市松人形の特技『封じ噛み』の効果で、同じ特技を持つパーティーメンバーは全員、その特技を封じられる。



「そうなんだ。つまり、今は猛とぽよちゃんが使える技だったから、二人が封じられたんだ」


 聞き耳ならまだしも相手の情報を知るだけだ。勝利に必須ってわけじゃない。

 でも、封じられたのが必殺技だったりすると、すごく困る。たとえば、僕の傭兵呼びとか。


「とにかく倒そうよ」

「よし。お仕置きしてやらないとな」


 ペン、と猛が剣でたたくと、市松人形は床の間に落ちた。



 チャララララ〜

 戦闘に勝利した。経験値350、200円手に入れた。

 市松人形は宝箱を落とした。

 お札を手に入れた。


「なんだ。わりとあっけなく勝てたね」

「今はな。一体だったから」

「うん」


 たしかにほかのモンスターと出てきたら、やっかいかも。次は気をつけよう。

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