第150話 準々決勝、第四試合は僕ら



 さ、休憩をはさんで、ついに僕らだ〜!

 ゲンチョウ相手か。強いってウワサだよねぇ。ドキドキ。


 試合前、猛は心配そうに僕を見た。


「かーくん。ゲンチョウパーティーはなんか変だ。ほかはさほどじゃないけど、とくにリーダーのゲンチョウはおかしい」

「そうなんだ?」

「数値が見れないように魔法でバリア使ってるし、あいつと戦ったあと、対戦相手がみんな、そのときの記憶をなくしてるんだ」

「えっ? それは?」

「たぶん、何かの術にかけられたんじゃないかと思う」

「ええーッ?」


 なんでそんな怖いこと、今、言うんだよ?


「まあ、ゲンチョウは今までも大将だった。急な変更をしてこなければ、あたるのは兄ちゃんだ。かーくんは心配ない」

「そう?」


 まあ、猛が相手なら問題はないだろう。相手が多少強くたってね。だって、うちの兄ちゃんは世界一だから。(←ブラコン)


 ところがだ。


「本日の準々決勝、最終試合です。両チームの先鋒は位置についてください」


 言われて、前に出ていこうとする僕を、猛が呼びとめる。


「かーくん。大変だ。ゲンチョウが出てきた」

「えっ?」


 しずしずと会場のまんなかに現れた相手チームの先鋒は、ゲンチョウ自身だった。


「えっ? なんで?」

「さきに三勝したほうが勝ちだ。大将戦までに三勝するつもりなら、うちのチームのなかでやっかいなのは、ぽよちゃんやたまりんより、おまえなんだよ」

「ああ……」


 僕を負かせば、あとのメンバーには勝てる算段か。


「兄ちゃんが変わってやろうか?」と、猛が言うんだけど、こうして見た感じ、ゲンチョウはほっそりした女の人だ。なんか変なかぶりもので顔隠してるけど。


「まあ、いいよ。僕、行ってみる」

「ああ、兄ちゃん、心配だなぁ。かーくんにもしものことがあったら、どうしよう」

「えーと……」


 小説を書くのスキルがあるのは、たぶん世界中を探しても、僕だけなんだと思う。あとから、じっさいに起きたことに改変をくわえられる僕が残ったほうが保険になるだろうか?


 そのとき、アナウンサーが告げた。

「かーくんパーティー。早く入場してください。五分以内に位置につかなければ、棄権とみなします」


 五分なんて走っていってギリギリじゃないか。


「ごめん。行ってくる」


 僕は広い会場のまんなかに描かれたラインのところまで走った。


 近くで見ると、ゲンチョウはむしろ小柄だ。身長は百六十センチまでない。

 ただ、全身に黒いローブのような衣をまとい、フードをかぶり、さらには梵字ぼんじのような文字を描いた白い布を顔の前にたらしていた。

 あれで前、見えてるのかな?


 なんか、イヤな感じのする人だなぁ。街で見かけたら、まちがいなく、さけて通る。街じゃないんで、しかたなく対峙するんだけど。


「では、先鋒戦、始めッ!」


 ああ、試合が始まっちゃったか。

 むっ。動けない。むこうのほうが素早いんだ。流星の腕輪外したから、素早さ半減してるもんな。いきなり攻撃くらうの、ヤダな……。


 なんて考えてるうちにも、ゲンチョウは両手をあげて、何やらゴニョゴニョ呪文をつぶやいた。顔見えないから、顔文字どおりの表情になってるのかわかんないな。


 そのときの感覚を言えば、巨大なくちなわが大きく口をあけて迫ってくる感じ。

 くちなわってわかりますか? 蛇のことですよぉ。最近の子どもには伝わらないかもしれないから、子ども向けに解説入れてみた!


 とにかく、黒い大蛇が牙をむいて、パックリ、僕を飲みこもうとしている。


 それもなんかこう、モヤモヤと黒い渦巻きが付属してる。邪気ってやつだね。これ、絶対、悪い魔法だ。


 なんか変な魔法かけられるゥー!

 やっぱり、猛に代わってもらうんだった!

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