第147話 昼食会



 お昼の休憩時だ。

 僕らはまたもや屋台へゴー。

 ——と思ったら、軍服を着た王宮兵士が歩みよってきた。


「かーくんさまご一行ですね。こちらへおいでくださいませ。とあるかたから、ご昼食のお誘いでございます」


 えーと、とあるかたって誰だろう?


 トコトコとついてく僕。

 えっ? 無用心? 昨日だって、だまされかけたのに?

 いいんだ。あれはトーマスだったから。それに今なら用心棒たけるがついてる!


 兵士はあきらかに王宮へむかっている。

 王宮、近くで見ると豪華だなぁ。ちなみに日本のお城だ。姫路城がもっとも近いイメージ。白壁のキレイなお城だ。


 僕らはそのお城のなかへ通される。


 日本のお城ってさ。内部はあんまり広くないんだよね。とくにホールね。僕は二条城、彦根城、姫路城、松江城に行ったことがあるけど、海外建築みたいなエントランスホールはなかった。攻め入られないための建物だから、しょうがないのかな。


 けど、ここはエントランスも広い。外観は日本のお城なのに、妙にモダンなホテルっぽい。


 僕らが案内されたのはお座敷だ。高級料亭風の十二畳に……ああ、タツロウか。もう一人はアンドロマリウスだね——って、ヒノクニの国王様だ!


「ああ、えーと、あの、は、初めまして。お、お招きいただきまして……」

「まあよい。すわりなさい」


 はあ、緊張するぅ。

 さすがにアンドロマリウスは貫禄がある。ホムラ先生とは大違いだ。


 僕らは黒檀こくたんの座卓をはさんで向かい側にすわった。

 兄ちゃん、こんなときによくあぐらかいてられるなぁ。僕は正座ね。気の小ささが表れてる。


「私を知っているかね?」と、王様が言う。

「はい。国王陛下ですよね」

「うむ。私はすぐに行かねばならん。単刀直入に言おう。そなたはすでに承知のことらしいからな」


 ん? なんだろう?

 タツロウがいなかったら、僕、逃げだしてるからね。


「じつは、大切なわが姫がさらわれたのだ」


 やっぱり!


「ついては、そなたたちに姫を救出してほしい。頼まれてはくれないか?」


 それにしても、アンドロマリウスの声、イメージそのものだなぁ。すごく悪魔っぽいしわがれ声。英語話してたらカッコイイだろうなぁ。


「……えっ? 姫を救出? 僕らがですか?」

「誰がさらったのか、またどこに監禁されているのかも見当はついている。だが、我らの動けぬ事情がある。くわしくはここにいるタツロウが話す。では、よき返事を期待している。むろん、褒美はとらせよう。ではな。私はもう行かねば」


 アンドロマリウスは去っていった。国王だから忙しいんだろうな。


「タツロウさん。僕らが救出って、どういうことですか?」


 タツロウはうなずいたあと、パンパンと手をたたいて人を呼んだ。豪華な山海の珍味が運ばれてくる。それが終わって、ふたたび部外者がいなくなってから、タツロウは説明した。


「食べながら聞いてほしい。じつはセイラ姫をさらったのは、おれの兄だ」

「ああ……トライアングル」


 セイラ姫とお兄さんは婚約してる。けど、愛しあってるのはタツロウなんだよね。


「知っているのか?」

「ええ、まあ。街のウワサで」


「そうか。ウワサになっているのか。だから、兄の耳にも届いてしまったのかもしれない。兄は怒って姫をつれさってしまった。ここから北のヒグラシ村に、兄の別荘がある。おそらく、姫はそこに隠されているのだ」


「なんで、タツロウさんか、お城の兵隊が行かないんですか?」

許嫁いいなずけとは言え、王女をさらったのだ。そんなことが公になれば、兄は反逆者だ。国王陛下は将軍家との争いを望んでおられない。内密に姫をとりもどしたいのだ。そのためには国軍が動くわけにはいかない」

「なるほど」

「おれが行けば、ますます仲が険悪になる。兄が姫に危害をおよぼすかもしれない……」


 たしかに。それはしかたないね。僕らが助けに行かないと。なにしろ、小説のなかではあるけど、青蘭は僕の子どもでもある。


「わかりました。だけど、僕ら、午後から試合があるんですが」

「あさっての決勝戦のあと、大会の優勝者にメダルを授ける女神の役を、毎年、姫がされている。それまでに帰ってこられなければ、事が皆の知るところとなる。それまでに助けだしてほしい」


 期限つきか。厳しいな。

 だけど、やらなくちゃ。

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