第146話 ゴライ対ドムド



 ゴライ対ドムド。

 向かいあって立つと、あきらかにゴライのほうが大きい。ヤマノクニの巨人の血をひくってだけはある。


 ゴライはパンフレットによれば武闘王。武器は持ってない。素手だ。マジですか。たとえ最弱の木刀ですら、いちおう素手よりは持ってるほうがマシなんだけどね。


 ドムドのほうは——


「あッ!」

「どうした? かーくん」

「ドムド。バーサーカーだ」

「ああ。バーサーカーだな」

「うわぁ。なりたくない職業ナンバーワンのバーサーカー」

「だなぁ」


 バーサーカーはたしかに就労中、力と幸運にプラス20%の補正がつく。通常攻撃が1.5倍になるっていう利点もある。もともと力が強い戦士系にはかなり美味しいプラスだ。


 でも、そのかわり知性とMPは20%さがるし、何より、敵味方をランダムに攻撃するっていう、とってもやっかいな職業特性があるのだ。味方のせいで全滅しかねない恐ろしい職業である。


「うわっ。バーサーカーか。どんなふうに戦うんだろう?」


 話してるうちにアナウンスが告げた。

「これより第二試合、大将戦です。始めッ!」


 どっちがさきに動くんだろう? 武闘家だから、ゴライかな?

 いや、バーサーカーだった! いきなりかけだして、跳躍。破壊力の高そうなオノをふりあげる。


 ゴライは素手だ。盾も持ってない。かわせるのか? あたったら、ただじゃすまないぞ。


「ドムドの力3000超えだ。バーサーカーはオノ装備で攻撃力1.5倍特性があるからな。通常攻撃1.5倍とあわせて6750攻撃力」

「ゴライの防御力は?」

「540」

「うわっ。死んじゃう」


 なんでこういうのばっかりなんだろうなぁ。

 武闘大会、怖いとこだ。強すぎる人が世の中にはこんなにいるのか。


 誰もがドムドの勝利を確信していたわけなんだけど、次の瞬間、なぜか、ふっとばされていたのは、ドムドだった。


 何が起こったのかすらわからない。ほんの一瞬、まばたきするほどの時間に、サッサッとゴライの手元がちょっと動いたと思ったら、ドムドはとんでいた。それも場外だ。観客席とのあいだの壁に激突してる。


「な、何?」

「やっぱ、強いな。ゴライ」


 ふーむと、デギルさんがうなる。


「たぶん、ゴライは格闘王の職業をマスターしてるんじゃないだろうか?」

「格闘王? そんな職業あるんですか?」

「ふつうのツリーにはない。ただ、武闘王をきわめると、まれに格闘王っていう個人の職業に開眼することがあるって聞いたことがある。格闘王でおぼえる特技のなかに、百パーセント相手の攻撃を反射するカウンターがあるって話だ」


 武人や武闘王もカウンターは使う。でもそれはせいぜい、相手の攻撃に対して2、30%の割合だ。百パーセントで防御をかためられたら、攻撃のしようがないじゃないか。


 しかも気になってるのは、それだけじゃないんだよね。


「相手の攻撃を反射ってことは、もしかして、受けた攻撃をそのまま相手に返してるってこと?」

「そうだ」


 それは大変だぞ。

 武闘家や武人のカウンターは、攻撃をしかけてきた相手に自分の攻撃力で反撃するだけ。本人が弱ければ、大したダメージは与えられない。


 でも、相手の攻撃をそのまま反射するなら、強い相手にこそ、より強い反撃をくわえられる。

 さっきのドムドは6000超えの強烈な攻撃力を誇ってたからこそ、自分自身の攻撃をそのまま返されてノックダウンした。


 うーん。さすが二年も優勝を続けてきただけはある。あたったらイヤだなぁ。

 ゴライ。強敵だ。

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