第92話 あれ? まだ拠点がない



 素朴な小さな街。

 ひなびた漁港って感じ。

 こんな大きな船が入ってきて、港で釣りをするおじさんたちがビックリしてる。


 僕は猛を手伝って、いかりをおろす。

 埠頭ふとうもそれほど設備がしっかりしてない。

 これは本来、外国船を迎えるような港じゃないんだろうな。


 僕はさっそく旅人の帽子を出して、転移魔法が使えるかたしかめた。だけど、まだこの街が魔法の拠点になってない。それどころか、ほかの拠点も選べない。色が薄くなってて、魔法が封じられてるみたいだ。


「うっ。どうしよう。転移魔法が使えないよ。ボイクドに帰れない」

「かーくん。ボイクドに帰るだけなら、二日前に魔法で帰っててもよくないか?」

「だって、船の上から転移魔法使えなかったんだもん」


 あっ、そうか。船をおりたら、魔法使えるようになるかも。転移魔法は乗り物もついてくるから、この船が僕らの所有物になったと神さまに認識されたのなら、今後は自動でついてくる。


 今、ボイクドに帰ったらヒノクニ側の拠点がないから片道切符だ。でも、しょうがないか。ヒノクニにはまた来ることができるさ。


「船をおりて街の外まで行かないと、拠点にならないのかもね」

「それか、まだ船の上でイベントが起こるんだよ」


 そう言えば、ドラゴンのクエっとしたゲームでも、必須のイベント前やイベント中は転移魔法の使用が制限されてたっけ。


「とりあえず、僕、街の外まで行って、魔法が使えるか確認してくる」

「かーくん、一人で行くのか? 兄ちゃん、心配だなぁ」


 出たな。猛の超絶ブラコン。


「言っとくけどね。こっちの世界の僕はけっこう強いからね。子どもたちだけ残すわけにいかないから、兄ちゃんは船にいて」

「わかったよ。ムリせずにすぐに帰るんだぞ?」

「はいよ」


 ぽよちゃんとミニコだけつれて、船をおりる。たまりんはふえ子といっしょに残ってもらった。


「ぽよちゃん、田舎の漁港もいいよねぇ。天ぷらとツボ焼きは飽きたから、なんか別の料理売ってないかなぁ。あと、情報だ」


 RPGの基本は情報収集。

 僕は港を歩きながら、出会う人たちに話を聞く。


「いらっしゃい。ここはゲンカン村だよ」


 玄関……まんまだ。


「ここから半日、南東に行けば都があるよ」

「都じゃもうすぐ武闘大会だねぇ」


 らしいね。僕らも出る予定なんだけどなぁ。


「知ってるかい?」


 あっ、出た。知ってるかいは健在だ。


「都にはそれは美しいお姫様がいてね。将軍家の長兄さまと婚約していらっしゃるんだ」


 美しいお姫様、会いたい。でも、すでに人のものか。


「なんでも都には夢をあやつる巫女さまがいるらしいよ。だけど、そうとうに変人らしいね」


 なんですとっ?

 夢の巫女だ。

 女神さまを救うために必ず見つけないといけない三人の巫女のうちの一人。今のとこ、スズランしか探せてないんだよなぁ。

 ヒノクニの人なのか。これは重要な情報だ。帰ったら、すぐにワレスさんに知らせないと。


「坊やも強い男になりたいなら、武闘大会に出ることだねぇ。なんでも今年の大会にはものすごい戦士が出るって話だよ」


 坊やはよけいだけど、聞いてみる。


「誰が出るんですか?」

「去年とおととしの優勝者だよ。ゴライって言ってね。あまりの強さに悪魔に魂を売ったんだって言われてる」


 ふうん。そんなに強いのかぁ。どんな男かなぁ?


「知ってるかい?」


 あっ、また『知ってるかい』だ。これって、たいてい大事な情報の前に言われるよね。注意喚起の合図みたいなもんか?


「なんと、今年の武闘大会の優勝商品には、四天王の腕ってのがあるらしいぜ。そんなもん、誰が欲しがるってのかねぇ?」


 うッ。ゴドバが欲しがるよ!

 これは、もしかして、ゴドバをおびきだすための作戦かな?


 武闘大会、波乱含みィー。

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