第91話 難破……してるの?



 チャラララッチャチャー!

 経験値248200、63050円手に入れた。

 グレート大海賊キャプテンは宝箱を落とした。オークの紋章3を手に入れた。

 ミニゴーレムたちは宝箱を落とした。ふつうの歯車1201個を手に入れた。


 ふつうの歯車か。またミニコを強くできるな。そういえば、前にギガゴーレムが落とした巨大な歯車もかじってたから、数値あがってるだろうな。


 今回も経験値が膨大だったんで、また、みんなレベルがあがった。僕も2アップした。時間があるときに、じっくりそれも確認しないと。


 それより問題は、今、この船を動かしてるの、誰なんだろう?


「ねえ、兄ちゃん。まわりからモンスターの気配なくなったね?」

「ああ。船がダンジョンじゃなくなった」

「だよね」


 海産物祭りは終わりか。焼き豚祭りしたからいいんだけどさ。


「じゃあさ、この船、誰が操縦してるんだと思う?」

「船員は……モンスターだったよな」

「うん。もしかして、漂ってる?」

「漂ってるかもな」


 僕らは来たときと反対側にある階段をあがっていった。地下二階、地下一階、甲板に出ると、操舵室が目の前だ。


「ああーッ!」


 やっぱり、誰もいない。

 この船は潮流に流されてる。


「ヤバイ。船員が消えたから、船の舵とる人がいない! どうするのっ? 難破しちゃうよ!」

「…………」


 あれ? なんだろ? 猛のこのドヤ顔?


「かーくん。忘れてないか?」

「何を?」

「兄ちゃん、船舶免許持ってるぞ?」

「ああー! そうだった。兄ちゃーん!」


 やっぱり、兄ちゃんといると頼もしいなぁ。

 僕だけだったら、三百人の子どもかかえて路頭に迷ってた。いや、道端じゃないから、波間に漂ってたね。あげくに見知らぬ無人島に打ちあげられたりして……。


「じゃあ、兄ちゃん。船の操縦はたのんだよ?」

「いいけど、兄ちゃん、腹へったなぁ」

「さっき豚肉食ったよね?」

「いや、あれ、食えるのは数値だけだから。ほんとにモンスターの体食うわけじゃないからな?」

「サザエのツボ焼きやウツボの天ぷらでよければあるよ。お魚さんたちと戦闘したら、必ずドロップしたから」

「いいなぁ。兄ちゃん、宝箱もほとんど落ちてこないんだよな」


 ふふふ。やっぱり、僕の幸運数値のおかげか。宝箱は嬉しいよね。ミニコもそのおかげで、あっというまに強くなれたし。


「はい。じゃあ、ツボ焼きと天ぷら……天……」


 子どもたちが馬車のなかから、ものすっごく羨ましそうに見てる。全員ぶん……あるかな?


 それから丸二日、僕らは船で大海原をさまよった。グレート大海賊キャプテンがどこに向かってたのか知らないけど、かなり北東に流されていたのだ。


「ここからだと、近いのはヒノクニだな。ボイクドに帰るより早く街につけるよ」と、猛が言うので、このさい、しょうがない。転移魔法の拠点さえできれば、ボイクドにはいつでも帰れるからね。


 船旅のあいだは船倉に保管されていた水や食料をわけあった。


 それに、キヨミンさんのくれたスイーツがめちゃくちゃ優れものだった。割っても割っても、もとの一枚はなくならない魔法みたいなクッキーがあったからだ。しかも驚異的に美味い。


 あとはたまに甲板で遭遇する海産物モンスターと戦って、ツボ焼きや天ぷらを手に入れた。このためのツボ焼きだったんだろうか。空腹を満たす以外に、とくに効果はないんだよね。


 そして、ようやく今日、陸地が見えてきた。

 あれがヒノクニか。まだ街の風景までは見えないけど、新しい国。ワクワクする。


「猛! あれ、街じゃない?」

「ああ。そうだな。港がある」

「よかったー。これでやっと、子どもたちも家に帰せるね」

「そうだな」


 異国の地の港へ入っていく船。湾になった自然な感じの港だ。


「あれ、この国」

「そうだな」


 僕ら兄弟なんで、ときどき考えがシンクロする。


 ヒノクニの風景はどことなく、なつかしい。和風って言うのかな。現代の日本っていうより、明治か大正くらいの感じがする。


「子どもたちィー、港についたよ。もう、おうちに帰れるからね」


 わいわいとさわぐ子どもたち。

 バンザイするミニゴーレム軍団。

 よかった。なんとか無事に港に碇泊できたよ。

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