第85話 船を止めろ!



「アツツっ。熱かった。まさか熱湯ふきだしてくるとは」


 一種のカウンターか。

 ピンチになると熱湯鉄砲、放ってくるんだね。次からは頭、切りはなさないことにしよう。


 それでも、まあ、戦闘には勝利した。いつものように戦闘報酬があって、僕らは甲板を進んでいく。

 だけど、ほとんど行かないうちに、離れていく港から何かがこっちに向かってきた。

 鳥? デカイな。それに派手。あっ、ふえ子だった。


「ピー。ピー!」


 口に何かくわえてる。

 岸から蘭さんやホムラ先生が何やら大きく手をふっていた。決して僕の出航を祝して見送ってくれてるわけじゃないと思う。


「僕は大丈夫〜。なんとか船を止めてみるよ〜!」


 ふふふ。〜ってつけると、すごく楽しい船旅っぽい。豪華客船に乗って、僕は旅立つのだぁーって、そんな気分になれたらいいな。せめて気持ちだけでもね。


「船長室に行ってみようか。この船のキャプテンがいるはずだ」


 まあ、たいていはデッキに近い上階層にあるはずだよね。


「ふえ子はトラっちに入っててね」

「ピー」

「ん? コレを見ろって?」


 くわえてたものを僕にさしだす。封筒だ。ひらくと、手紙と赤いリボンが入ってる。

 僕はリボンをミャーコポシェットに入れながら、手紙を読んだ。ホムラ先生からだ。


「きっ……きたない字」


 まあ、急いで走り書きしたんだろうから、しかたないかな。でも、古文書みたいに読みとくのに苦労する。解読不能だ。ミニゴーレムがなんとかかんとか書いてあるような? あとでゆっくり謎解きすることにしよう。


 僕らは船の上を歩きまわる。

 甲板にはこれと言ったものはない。

 ただ、久々に宝箱はふんだんだ。どれも回復アイテムなんだけどね。たぶん、パーティーとわかれて少人数になったから、僕らを支援するためなんだろうな。


 出てくるモンスターはみんな海産物。ウツボ兵士やヒトデ船員だ。たまに海スライムや、ホタッテとサザエ戦士のペアなんかもいる。


「あれが操舵そうだ室だね。キャプテンはボスかもしれないから気をつけないと」


 かもって言うより、そうに決まってるよね。たぶん、ゴドバの配下だ。あんまり強いと僕らだけで勝てるかどうか心配なところだ。HPの低いたまりんが前衛で戦わないといけないし。


 だけど、操舵室の近くまで行くと、ドアが反対側にあった。まわりこんで行こうとすると、積荷が通せんぼしてる。

 そうか。ここはボス戦かイベントがあるから、最後にならないと行けないんだな。


 操舵室のとなりに階段があった。ここから船室キャビンへ行けるようだ。船内は薄暗い。ときどき小銭(百億円)ひろいながら、照明もない暗い船内へ進んでいった。細い階段なのに、なぜか猫車もついてくる。


 ドキドキ。地下一階にはふつうのキャビンが続いていた。船員のための部屋かもしれない。ほとんどは無人だけど、ときどき、ドアをあけたとたんにウツボンが襲ってくる。自室で寝てたウツボ兵士なのかも。


「なんか、サザエ戦士はサザエのツボ焼き落とすし、ウツボ兵士はウツボの天ぷらだし、お腹へったよね。食べちゃおうか?」


 ドロップアイテムがただの料理にしか見えないのはなぜだろうか。


 地下一階にはとくにおかしなものはない。ひとまわりすると、さらに下へおりていく階段があった。

 子どもたちはどこにいるのかな? 船室には入れられてないのか。


 地下二階にも異常はない。エンカウントのザコ戦があるていど。

 それにしても、お腹へった。もう限界だ。


「朝からずっと戦ってるから、疲れたね」

「キュイ……」

「ぽよちゃんには猫車のなかに干し草があるよ」

「キュイ〜」


 ぽよぽよ草の干したやつは、ぽよちゃんの好物だ。

 僕らは船室のなかでちょっと休むことにした。


「そう言えば、キヨミンさんのくれたお菓子があったっけ。たまりんも食べる?」

「ゆらり〜」


 ミャーコポシェットからスイーツを出して食べる。

 美味い。幸せだなぁ。みるみる元気が復活してくる。


「あれ? もしかして、HP MPが全快した?」

「ゆら〜り」

「だよね」


 特別なスイーツだって言ってたから、そのせいかな。

 器に入ったストロベリームースを食べたんだけど、不思議とお腹もいっぱいだ。残りはとっとこ。いつ街に帰れるかわからない。


 さあ、行くぞと立ちあがったときだ。カタリと室内で音がした。

 な、何? まさか……幽霊船? お、オバケじゃないよね?

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