第六章 決戦はエレキテル港

第82話 エレキテル港へ



 水神さまにお別れ言うまもなく、僕らは魔法でダンジョンを脱出する。スラム街の人たちが井戸のまわりに集まっていたから、なかのボスモンスターを倒したことなどを告げて、すみやかに旅人の帽子をふる。一瞬でエレキテルの街だ。あっ、その前に水神さまの柄杓は返したけどね。


「港は東側ですよね」

「うむ。一般地区と貴族区のちょうどまんなかあたりに位置している。外国船の出入りも多い大きな港だ。エレキテルはこの国の東端の街だからな」と、ホムラ先生が教えてくれた。


 僕らは馬車のまま走っていく。とにかく急がないと。外国につれさられてしまったら、行きさきもわからなくなるし、それだけ助けだすのが遅くなる。


 ほんとは港でボス戦があると困るから、職業はニートじゃないほうがいいんだけど、転職してるヒマもない。


「やっぱり、こういうとき、スズランがパーティーにいてくれたらいいのにね。とりあえず、ボス戦になる前に転職できるから」

「そうですね。いつでも転職できるのは助かりました。でも、父上のそばに誰か一人はついていてほしいんです。母上も容体がすぐれないし」

「そうだよね」


 あっ、そういえば、まだトーマスに会ってなかった。僕らの仲間になってくれるって言ってたのに。


 街の風景はとくに変わったところはない。いつもどおりのエレキテル。ギガゴーレムが暴走してたときみたいに、街路がダンジョン化もしてなかった。


「街の人は誰も異変に気づいてないみたいだね」

「ということは、魔物たちはふつうの船員に化けているんでしょうね。子どもたちも荷箱のなかに隠されているのかもしれない」

「そうだね。注意して見ないと」


 一般地区から貴族区へつながる道の前を、そのまま東へ走っていくと、ようやく、海が見えてきた。港だ。


 視界いっぱいに広がる大海原。カモメが飛ぶのどかな景色。

 波止場には帆船がいくつも浮かんでる。

 そうか。まだこの世界の船は帆船かぁ。あっ、でも蒸気船が出てるんだっけ。


 ところがだ。港のゲートをくぐる直前、蘭さんが言った。


「このさき、ダンジョンになってます」

「えっ? また?」

「またです。でも、港にボスはいないみたい」

「よし。じゃあ、急ごう!」


 ザコ戦だけならニートのままでも問題ない。

 それより急がないと子どもたちが——


 波止場を走る僕らの前に、ああ……たしかに出るね。



 チャララララ……。

 ミニゴーレム(遠隔操作中)が現れた!

 さらわれた子どもが現れた!



 ちょっ……待ってよ。

 さらわれた子どもがなんで敵側になってんの?


 目の前に、小さな子を両手で持ちあげたミニゴーレムがいる。走って移動中だ。


「船につれこもうとしてるんだ!」

「助けましょう!」


 それにしてもお腹へったなぁ。朝から何も食べてないし。

 いや、そんなこと言ってる場合じゃない。


 外のメンバーは僕、蘭さん、バラン、シルバン。つまり、グレートマッドドクター戦のままだ。


「先制攻撃!」


 と言ったあと、蘭さんはブラシを出して髪をとき始めた。


「ああッ! ニートの特性からぬけられません! ごめんなさい」

「……いいよ。次のターンから、蘭さん、後衛になってね」

「はい。すいません」


 もう、早くニート祭り終わりたい。


 僕はここでも孤軍奮闘だ。

 パタパタ素早さあげて、待機行動のせいで動けなくなってるミニゴーレムから、子どもをとりあげる。

 そして、ミニゴーレムの背後にまわると、起動用のスイッチを押した。こういうボタンはオンオフ切りかえできるはず。



 チャララ〜

 ミニゴーレムを倒した。

 さらわれた子どもをとりもどした。



「とりあえず、一人、保護したよ」


 僕は言ったけど……。


「あっ、いっぱい、ミニゴーレム走ってる」

「まだまだいますね」

「あの船にむかってるね」


 波止場の一番遠いところに、ひときわ大きな帆船がいる。トカゲみたいな顔した船員が子どもをかかえたミニゴーレムを次々、船に入れている。

 しかも、甲板はなんだかせわしなく、今しも出港の準備をしているようだ。


 ま、マズイぃー。

 急がないと!

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