第17話 鉄人軍団



 野生の鉄クズ……。

 さらにはミニゴーレム失敗作……。

 ブリキ人形はこわれてる。

 なんだろなぁ。切ないネーミングのモンスターたちだ。


 見ためもこれまた切ない。


 ミニゴーレムって言うけど、あきらかにミニコにくらべて、ちゃちい。関節がバネでできてて、ボディーの素材はスティールかな? アルミ? いや、ヘタするとダンボールにアルミホイル貼ってる? 見るからにコスト抑えめだ。


 ブリキ人形なんか片手片足がもげてて、目玉片方とびだしてるからね?


 鉄クズは……鉄クズだ。ゴチャゴチャした鉄のかたまり。クギとか、ボルトとか、歯車っぽいものが見える。


「これ、あきらかにミニコを作ろうとして失敗したヤツだよね?」

「そうでしょうね。たぶん。プロトタイプっていうか」


 プロトタイプも何も、実験初期のできそこないだ。

 かわいそうだけど、出てきてしまったからには戦わないといけない。


「じゃあ、やろうか」


 僕はぽよちゃんに聞き耳をお願いしようとした。が、その前に、急にケロちゃんが叫ぶ。


「ケロー!」


 あっ、忘れてた。

 ケロちゃんは戦闘開始時に自動発動する技を持ってるんだった。味方のターンの初めに毎回、必ずだ。


 技は石化。敵単体をペロリと舌でなめる。石化は仲間が魔法かアイテムで治さないかぎり回復しないので、実質、戦闘不能といっしょ。便利な技なんだけど、石化する確率は残念ながら半々。50%だ。


 ペロ〜ンと伸びたケロちゃんの舌が、ブリキ人形を襲う。ブリキ人形、とびだした目玉をこぼしながら石になった。


「あっ、石化成功だね。ケロちゃん」

「ケロケロ〜」


 ケロちゃん、ご満悦なり。

 あいかわらず、わかりやすい子だ。


「さ、じゃ次は、ぽよちゃん。聞き耳お願い」

「キュイ〜」


 えーと、まず、ミニゴーレム失敗作。

 数値はシルバンと同じタイプで、HPと力、体力が高く、魔法は使えない。行動は通常攻撃と、ロケットパンチだ。

 ロケットパンチか。たしか、ミニコもするんだよね?


 こわれたブリキ人形は、失敗ゴーレムほどHPも力も高くない。申しわけないほど、ステが低い。

 そして、特技は、ビヨンとプスプス……なんだそりゃ?

 すでに石だけど。


 鉄クズはHP1だ。

 1? さすがにそれは貧弱にもほどがある。やっぱりモンスターっていうより、ただの廃材だよね。ちらばるっていう技がある。


「なんかさ。この子たちがどんな技使うのか、ちょっと見てみたいね」


 僕が言うと、蘭さんは白い歯を見せて笑った。


「たしかに。今後のためにも見ておきましょうか。そんなに強そうじゃないし」

「だよね。僕、つまみ食いしちゃおっかなぁ」

「いいですよ」


 ふふふ。つまみ食い。

 僕の特技の一つだ。


 ここらでそろそろ説明しとかうかな。

 この世界には魔法のほかに特技っていうのがある。職業につくとおぼえる技と、その人が生まれつき持ってる固有の技だ。


 生まれつきの特技を持ってるのは選ばれし人たちだけだ。僕みたいに異世界から召喚された人間が、自分の世界でのクセや趣味、得意としてることなどが、こっちに来ると戦闘用の特技になる。いわゆるスキルだね。


 僕の特技は、小説を書く、小銭拾い、つまみ食い、泣きマネ、逃げ足の速さ。まだ泣きマネと逃げ足の速さは使えない。一定のレベルに達すると使えるようになるらしい。


 小銭拾いは所持金の百分の一の金額をモンスター出現場所で見つける特技。

 なんだけど、今はランクが2にあがって、銀行預金をふくめた総額の百分の一の金額をひろう。それも二、三十歩ごとに。十五メートルに一回ていどだ。スゴイでしょ?


 つまみ食いだって、ネーミングでバカにしちゃいけない。これは敵のステータスを奪って自分のものにしてしまう恐ろしい技なんだよ。しかも一回とったら、戦闘が終わっても、もとに戻らない。奪ったままだ。


 つまみ食いは今ランク4になってるから、戦闘中、何度でも使える。ボスにも有効で、ランダムなステータスを相手の最大値の十分の一盗む。十分の一の数値が30以下なら30、または全部。スゴイでしょ?


 そのせいで僕の数値は爆あがりなんだけど、戦闘にゆとりのあるときしか使えないからね。


 そんなわけで、僕はありがたくミニゴーレム失敗作から、つまみ食いさせてもらった。


 うーん? なぜかミカンの味?

 もしかして、あのボディー、ミカンが入ってたダンボールなんだろうか?

 HPと力と体力が30ずつあがる。三回でやめておいてあげよう。


 僕らはすっかり余裕かましてたんだけど、それが悪かった。

 みんなが身を守る行動をして、こっちのターンを終わりにさせたときだ。

 とつぜん、鉄クズが爆発した!

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