第18話 鉄は熱いうちにとびちる



 鉄クズはちらばった。

 ちらばるって言うより、とびちるのほうが正しいよね?

 言葉は正しく使ってほしいもんだ。


 HP1しかなかったくせに、四方八方にクギやらなんやら飛散させた鉄クズは、まさにお手製爆弾だ。テロリストの無差別攻撃に街なかで遭遇してしまったに等しい。


「ギャアアー! 刺さる。刺さるよ」

「よろいから出てる部分に傷が……」

「キュイー!」


 自爆だ。これは僕の好きなアレコレのゲームでも、たまにモンスターがやってきた攻撃。自分の命とひきかえに大ダメージをあたえてくる。


 そりゃね。そのモンスターは死んじゃうよ? でも、こっちだって大きな痛手だ。街から出てまもないのに、こんなとこでMP大量に使うはめになるとは。


 とは言え、戦闘は勝利した。

 以下、テロップ。



 戦闘に勝利した。

 900の経験値を得た。

 30円手に入れた。


 チャラララッチャッチャ〜

 チャラララッチャッチャ〜

 チャラララッチャッチャ〜


 ミニコはレベルが2になった。HP6、力3、体力3、幸運2あがった。

 ミニコはレベルが3になった。HP6、力2、体力3、器用さ1、幸運1あがった。

 ミニコはレベルが4になった。HP7、力3、体力2、素早さ1、幸運2あがった。


 ミニゴーレム失敗作は宝箱を落とした。宝箱にはプログラムFが入っていた。

 ブリキ人形は宝箱を落とした。宝箱にはブリキのオモチャが入っていた。

 鉄クズは宝箱を落とした。宝箱には繊細な歯車が入っていた。



 あれ? ミニコ、レベルあがった。

 やっぱり、ちゃんと数値があるんだな。どこから見れるんだろ?


 それより、早くみんなのHPを回復しとかないと。僕は200ちょっとしか減ってないからいいんだけど、ほかのメンバーも同じだけダメージ受けてれば、瀕死ひんしだ。


 そう。それに、蘭さんは? 蘭さんの美しい顔は大丈夫なのかっ?

 いや、もちろん回復魔法かければ傷なんて、あとかたもなく治るよ? 治るけどね。なんとなく傷ついてほしくない。


「ロラン!」


 あわててふりかえると……。


 大丈夫だった。

 蘭さんは両手でガッチリ顔を覆ってる。いないいないばぁの“いないいない”状態だ。


「ロラン……」


 やっぱり、顔、大事なんだ。

 そうだよね。絶世の美男だもんね。顔は美男の命!


「ロラン。もう大丈夫だよ?」

「ハッ! 息するの忘れてました!」


 ようやく“ばぁ”だ。


 それにしても、蘭さんの今のHPっていくつだろう?

 ちょっと、のぞいてみる。


 レベル28(職業 魔道戦士)

 HP266(292)、MP135(148)、力103(113)、体力81、知力131(144)、素早さ191、器用さ134、幸運144。


 カッコ内の数値は職業効果によって補正された数値だ。

 つまり、魔道戦士の効果で一割り増しになって、292。

 よろいの性能がめっちゃいいので、ダメージじたいは僕より少なく175。よって、残りHPは117。


 うーん。それでも最大値の半分以下か。勇者の蘭さんがザコ戦でイチイチこのくらいダメージ受けてると、ちょっと厳しいな。鉄クズが三、四体まとまって出てきたら、もうアウトだ。


 僕はこっそりスマホをとりだした。なぜかって?


 僕にはとっておきの特技がある。『小説を書く』だ。じつは一番のチートスキルはこの技なんだよね。

 僕が小説のなかで書いた内容は、この世界でも真実になる。


 トレインジャック戦のあとまでは、汽車で移動中に書いておいた。なので、急いでそのあとのことをバーッと書くと、僕は蘭さんの数値をのぞいたとこから書きなおす。



 ***


 それにしても、蘭さんの今のHPっていくつだろう?

 ちょっと、のぞいてみる。


 レベル28(職業 魔道戦士)

 HP288(317)、MP135(148)、力103(113)、体力91、知力131(144)、素早さ191、器用さ134、幸運144。



 ***


 これでいいかな?

 HPを22、体力を10あげてみた。ほんとはいっきに100くらい伸ばしたいとこだけど、さすがにそれだと蘭さん自身に気づかれる可能性がある。これまでにもナイショで少しずつ上方修正してるんだけど、そこは気をつかって、バレないていどにしてるわけだ。


 僕の幸運数値が99998っていうバカみたいに高いのも、じつはこのせい。


 ほんとの僕のステータスには、バグで幸運の数値じたいがなかった。だから、ズルして『小説を書く』で、マックス数値まで入れたわけだ。1少なかったのは、ただの凡ミス。


 さ、とにかく、これで少しは安心だ。

 研究所めざして出発〜


 なんて、気軽に考えてたんだけどね。このために僕らは窮地におちいることになる。窮地と書いてピンチ。窮地ピンチだ。

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