第15話 研究所へ行こう



 とりあえず、聞くことは聞いた。僕らが立ち去ろうとすると、リベッカさんが呼びとめる。


「ちょっと待って。たくさん聞いてくれたから、オマケの情報をあげます。これはサービスです」

「えっ? なんですか?」

「街の東に港があります。蒸気船に乗れば、隣国のヒノクニへ行けますよ。ヒノクニはわが国の友好国です。年に一度の武闘大会が、もうすぐひらかれますからね。見物に行くのもいいでしょう」

「へぇ。武闘大会か」


 そう言えば、前にどっかで武闘大会の話、聞いたなぁ。

 たしか、ワレスさんはその大会で三年連続優勝して殿堂入りしたんじゃなかったかな?


 それにしても、われすと打って、ロゴーンって第一変換候補に出てくる僕のスマホってなんなんだ? 一文字たりとも正しくないんだけど?


「ありがとうございます。友好国なら気軽に行き来できるから、行ってみてもいいかな。どうせなら、ここまで来たんだし」


 帰りは転移魔法で王都まで戻れるしね。ちょっとくらい足を伸ばしても問題ないだろう。


 僕らはリベッカさんと別れて、ギルドをあとにした。


 研究所は南東、盗賊団のアジトは西、キャラバンの目撃情報は北。


 どこから行くべきか? 行きたいとこだらけじゃないか。でも、やっぱりここは最初の目的どおり、研究所かな。わりとすぐに問題解決しそうだし、早めにすまして、パパッと次の事件に進もう。


 建物を出ると、街なかなら、どこからでも移動魔法が使える。僕らは旅人の帽子を持ってるから、一回でも到達したことのある街なら、帽子を使って何度でも移動できる。そして転移魔法って、ありがたいことに置いてきた乗り物や、それに乗った仲間もいっしょに呼びよせてくれるのだ。


「かーくん。わはまだ転移魔法使ったことないけん、やってみてもいい?」と、アンドーくんが言うので、

「いいよ」


 言うと、アンドーくんは自分のバッグから帽子をとりだした。ちなみにアンドーくんのバッグは黒革のデイパック。いいなぁ。ふつうにカッコイイ。


「旅人の帽子ー!」


 アンドーくんが叫びながら帽子を高くかかげると、体がシュッとかるくなる。エレベーターに乗ってるときの感覚っていうか。


 次の瞬間、街の外に立っていた。ちゃんと目の前には馬車もいる。二台だ。僕らは人間用と小さなモンスター用の二つの馬車を持ってる。

 片方はふつうのほろ馬車。もう一台のモンスター用はトラジマの猫がひいた猫車だ。大きさは馬車の半分。


 大きい馬車は僕らが出かけてたんで無人。小さい馬車から、そっと顔を出して、ピンクのテディーベアがのぞいてる。


「クマりん。お待たせ。みんなもお留守番させて、ごめんなさいね」


 蘭さんが両手をひろげると、モンスターたちはワラワラとやってくる。可愛いなぁ。うちの子たち。


 ただ、クマりんは僕らの顔を見まわしてから、ちょっとガッカリした。たぶん、三村くんが帰ってないか確認したんだと思う。


 クマりんは以前、こわれかけたボディー(僕らと戦ったからなんだけどさ。あのときは、ごめんね)を三村くんに直してもらった。だから、三村くんになついてたんだ。

 きっと、三村くんの帰りを待ってるんだろうなぁ。


 さびしそうなクマりんを僕が見ていたときだ。


「バーン!」


 急に轟音ごうおんが聞こえた。

 な、何? 爆発? カミナリ? それとも飛行機でも通ったの?

 いや、違うぞ。シルバンだ。馬車からおりてきた銀晶石のゴーレムが、両手をふりあげた変なポーズのまま硬直こうちょくしてる。何かにひじょうにビックリしたようだ。


「シルバン? どうしかした?」

「バーン!」


 み、耳が痛い。

 こんなにさわぐシルバンを始めて見た。


 視線をたどれば……むっ? 僕の足元を見てるな。

 あっ、そうか! ミニコだ。僕の足にひっついてるミニコを見てるんだ。

 石でできてるのに、心なしかシルバンの顔が赤い?

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