第4話 お菓子争奪戦



 可愛い子どもたちと楽しいティータイム。あっ、コーヒーだからコーヒーブレイクか。

 可愛い子どもたちと……可愛い……。


「き、君たち。そんなに急いで食べなくても、ちゃんと人数ぶんあるからさ」

「かーくん。自分のわけまえ、持っとかないと奪われますよ?」

「ぎゃー。一人一個。一人一個。僕のぶんまで食べないでー!」

「ははは。かーくんやつは子どもだねぇ。たかがお菓子だないか」

「そう言いながら、アンドーくん。片手にポイズンナイフにぎってるのはなんで?」

「あっ、ごめん、ごめん。無意識だったわぁ」


 にぎやかに汽車は進んでいく。可愛い子どもたちは野獣だった。たまりんは自分のお菓子を持ったまま、しばらく壁のなかから出てこなかった。火の玉、こんなときは便利だなぁ。


「はあっ、美味しかった! なんか高級なお菓子の味がした。必死だったから、味わってられなかったけど」

「かーくん。これ、つい先日、王都に開店した人気スイーツ店『ロイヤルキヨミン』のお菓子ですよ。毎日、ものすごい行列で売り切れ続出。なかなか買えない幻のスイーツと言われてます」

「へぇ。そうなんだぁ」


 ワレスさんがならんだとは思えないから、きっと部下に買ってこさせたんだな。


 コーヒーを紙コップですすって、やっと戦場ではなくなったころに、優しげなおばあちゃんが僕らのほうにやってきた。


「孫たちがたいへん失礼しました。このお店のお菓子が美味しいと評判で、わざわざ食べにきたんですけどね。いつも売り切れで買えなかったものですから」


 なるほど。箱についてる王冠かぶったおさげの女の子のマークを見て、狙いの店のお菓子だって気づいたのか。


 おばあさまは子どもたちの顔についたチョコレートを白いハンカチでぬぐいつつ、自己紹介した。


「わたくし、レイデリンデ侯爵家のカロリーネと申します。この子たちはアーベルとアガーテですわ」


 侯爵。やっぱり貴族か。

 ふふふ。でもね。こっちには、なんと王子様がいるんだよ? 僕は生まれも育ちも、まごうかたなき庶民だけどさ。なんと、この麗しい勇者のロランはミルキー国の王子! それも世継ぎの王子様だ。次期国王陛下であらせられる。ははーっ。


 でも、蘭さんが勇者だってことがバレると魔王軍から命を狙われるから、今はお忍びなんだよね。


「かーくんです」

「僕はロラン」

「アンドー言います」

「それで、こっちのぽよぽよが、ぽよちゃんで、火の玉がたまりん」

「キュイキュイ」

 ゆら〜り。


 自己紹介も終わって、さあ世間話——というころになって、とつぜん、僕らの歓談はさまたげられた。


 あれ? 後部座席の男たちが走っていく。どこ行く気だ? このさきは機関車しかないぞ?


 全部で八人だ。そのうち四人が機関車へ走り、残りの四人が僕たちの前に武器をぬいた。


「今からこの列車はおれたちがジャックする。おい、おまえら、武器をすてろ」


 ええーッ?

 ジャック? ジャックと豆の木? 僕は豆なんか盗んでないよ?


 いや、違うぞ。これは、あれだ。ほら、ハイジャック……は飛行機だから、トレイン! トレインジャックだー!

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