第3話 怪しい人たちを乗せて、汽車は出発しま〜す



 おじさんの足がモゾモゾ動く。そっちをながめるワレスさんのミラーアイズがキラリと光る。


 ワレスさんはボイクドの国王陛下に仕える近衛騎士の総大将にして、ギルドを創建した立役者でもある。

 その実力にはまだまだ僕らも追いつけない。現状、人間のなかでは世界で一番強い人だ。

 ミラーアイズでひとにらみすると、透視ができちゃう。たぶん、他人の心のなかなんかも見えてる。


 ワレスさんはおじさんをにらんだあと、なぜか苦笑した。


「いいか? おまえたちはよくムチャをするが、今回はそういうのはなしだぞ? 何かあれば必ず、おれに相談するように」

「もちろんです!」


 それにしても、ワレスさんは忙しい。騎士長の仕事もあるし、魔王のほかの四天王の情報を集めたり、ヤドリギに乗っ取られていた隣国の再建の援助をしたり……休むヒマもないはず。

 そんな多忙な人が僕たちを見送りのためだけに来てくれたんだろうか?


 いや、違うみたいだ。


「何かあったんですか?」

「いや、まだない。だが、おまえたち、エレキテルに行くつもりだろ?」

「はい」

「つい最近なんだが、あのあたりで例のキャラバンを見たという情報がある。きなくさいウワサが集まっているんだ。気をつけろ」


 わあっ、心配して忠告しに来てくれたんだ〜! 感激。

 さらに、ワレスさんはかがんで口元に手をあて、僕に耳打ちしてくれた。ああっ、鼻血、出そう!


「とくに貴族区には近よるな?」

「は、はい」


 貴族区かぁ。

 なんか、よくないことがあるのかなぁ?


 そのとき、出発を告げる汽笛が鳴った。あっ、出るんだ。嬉しいような悲しいような。旅はワクワクだけど、ワレスさんとお別れだぁ。


「ではな」


 ワレスさんは一歩しりぞく。

 機関車がシューシューと蒸気を吐き、列車はゆっくりと動きだす。


 ところが、今になって改札をくぐってくる男たちがいる。このへんじゃ、どこででも見かける黒金のよろいや軽鎧装備の平凡な冒険者だ。走りだす列車にかけこみ乗車してくる。マナーの悪い人たちだなぁ。


 男たちは座席の最後尾にすわった。なんか、汽車に乗れるほど上位ランク者に見えないんだけどな。汽車はCランク以上じゃないと乗れない。


 それはともかく、汽車はどんどんスピードをあげて、みるみるうちにプラットホームを出ていった。


 さよなら、ワレスさん。しばしの別れ。


「かーくん。その袋、何が入ってるんですか?」

「うーん。なんだろ」


 ごそごそと袋のなかをのぞいてみる。ワレスさんから渡された袋。


 何かなぁ? あっ、やっぱり駅弁だ。と言っても、幕の内じゃないよ? もっとオサレなやつだ。スイーツセットと言ったほうがいいかも。マドレーヌとチョコレートとマカロンのつめあわせ。


 さすが、ワレスさん。汽車のなかで手を汚さずに食べられるセレクトだね。マドレーヌもマカロンも薄紙で一個ずつ包んである。


 水筒にはコーヒーが入ってた。あっ、よかった。ちゃんとミルクと砂糖も別にある。ブラックじゃ飲めないんだよねぇ。僕って舌がお子ちゃまだからさっ。


 とか思ってたら、正真正銘のお子ちゃまと目があった。ななめ前の席にすわってる、あの貴族っぽい金髪と銀髪の男の子と女の子だ。二人とも、じっとこっちを見てる。欲しそう……めっちゃ欲しそう。


 えーと、お菓子の数は各種八つずつだ。一人一個ずつ食べても三個あまる。ていうか、ぽよちゃんは草や花が好物なので、人間の食べ物はほとんど食べないんだよね。お菓子はものによって食べる感じ。チョコレートは食べちゃいけない。刺激物。


 僕はこっちを凝視してる子どもたちに、そっと声をかけた。


「いっ、いっしょに食べる?」


 ギンギンギラギラ光っていた子どもたちの目が、今度はパァーッと喜びに輝いた。

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