第28話 家族公認の仲

「え、息子って……ええ!?」

「エドワード、話してなかったのかい?」

「まあ……いつか話そうと思っていたら、機会を見失っていたというか……」


 衝撃的すぎる事実を伝えられた私とマリーが、驚きの声を謁見の間に響かせる中、アレックス様はにこやかに微笑みながら、ユースさんに声をかける。


 え、ええ……この感じ、嘘っぽくは見えないし……ユースさんも否定する感じがしないし……本当に本当の話だったりするの!? ユースさんは王子様!?


「ユースさん、本当の話なの?」

「ああ。隠していてすまない。俺の本当の名はエドワード・サイアーズ。王家の第二王子だ」


 ……本人の口から聞いても信じられないわ。いつかは理想の王子様と結ばれたいって思いながら育って、その王子様像がユースさんに変わって、そのユースさんが実は王子様で……頭が混乱してきたわ!


「そうだ、丁度良いし、この機会にちゃんと話しておいたらどうだい? 彼らが来るのにまだ時間があるし……構いませんよね?」

「うむ。エドワード、ここで包み隠さずに、そなたの想い人に真実を伝えい」

「かしこまりました」


 そう言うと、ユースさんはゆっくりと私達の方を向きながら、口を開いた。


「さて、なにから話すか」

「えっと、なんで王子様のユースさん……いえ、ユース様がイズダーイで働いているんですか?」

「今まで通りの呼び方と話し方で頼む。そうだな……それを話すには、イズダーイに入る前の事から話す必要があるな」



 ****



 王家に第二王子として生まれた俺は、妾の子というせいで、あまり周りからよく思われていなかった。そのせいか、幼い頃から社交的とはお世辞にも言えない性格で、自室で本を読んで過ごすような子供だった。


 特に誰かから嫌がらせをされていたわけではない。家族から酷い仕打ちをされていたわけでもない。それでも居心地の悪かった俺は、なるべく家族に迷惑をかけないようにするために――ある程度大きくなっても、自室で過ごす生活を送っていた。


 そんな俺は、本を読んでいるうちに、自分でこんな物語を作りたいと思うようになった。


 ——だが現実は甘くなかった。試しに自分で書いてみたんだが、全くと言っていいほど、俺には書く才能は無かった。その代わりに、物語を読んで、ここを直した方がより良くなるのを見つける才能はあった。


 それに気がついた、当時十五歳だった俺は、陛下に頼んで城を出て、イズダーイのようなところで働きたいと願い出た。


 普通の国家なら、王子がそんなワガママな申し出をしても、軽くあしらわれて終わりになる。だが、陛下は違った。ずっと部屋に閉じこもって本ばかり読んでいた子が、自らの意思で目標を立て、それに進んでくれるのが嬉しいと仰ってくれたんだ。


 そして、それは陛下だけじゃなかった。俺より五つ年上の兄上も、俺の願いを了承し、まつりごとは王家を継ぐ自分に任せろと仰ってくれた。


 その代わりに、中途半端に投げ出して帰ってくるなという事と、もし何か国の一大事な事件が起こった際には戻ってくる事を条件に、俺は使用人を連れて、城を飛び出した。


 その後、幼い頃からためていた貯金を切り崩して生活をし、イズダーイの試験に合格。この才能を活かして編集者として活躍し、最年少の編集長の役職を勝ち取った。


 こうして無事にイズダーイで働いていたある日、昼休憩としてパークスの街の外の草原を散歩してリフレッシュをしている時に……ティアと出会い、今に至るというわけだ。



 ****



「そんな事があったのね……」

「隠していてすまない」


 一通り話し終えたユースさんは、私達に向かって深く頭を下げた。


「いいの。王子様なのはビックリしたけど……それでも私の愛してるユースさんには変わりないわ!」

「私も同意見ですわ」

「ティア……マリー……ありがとう」


 ユースさんの過去を知ったところで、嫌いになるはずもない私とマリーは、深く頷いてみせると、ユースさんはホッと胸を撫で下ろした。


 ユースさんは変なところで心配性ね。そんな事を隠されてたくらいで、私が嫌いになるはずがないでしょ!


「あ、もしかして! 前にボーマント様の屋敷で貴族デートが出来たのって、ユースさんが王子様だからお願いできたの?」

「そうだ。王家は日頃からボーマント家と良好な関係を築いている。だから、俺の突然の申し出を快く引き受けてくれた」


 なるほど、そう言う事だったのね。どうしてボーマント家の方々が協力してくれたのかとか、どうしてユースさんと凄い親しげだったのかって疑問に思ってたんだけど、これで謎が解けたわ。


「ふふっ、ユースは良き恋人と友を持ったね。兄も嬉しいよ」

「はい。俺には勿体ない彼女と友です」

「私のような侍女を友だなんて……恐悦至極でございます」


 えへへ……彼女って言われちゃった……あれ? 冷静に考えてみると……どうして国王陛下とアレックス様は、私がユースさんの恋人だって知ってるのかしら?


「えっと、国王陛下とアレックス様は、私と彼の関係をご存じで……?」

「もちろん。弟とは定期的に手紙のやり取りをしていてね。私も陛下も、あなたの事は沢山聞いていますよ。最近は手紙の中身が惚気話ばかりで苦笑してしまうほどで――」

「あ、兄上!!」

「はっはっはっ。本当の事なんだからいいじゃないか。それに、仲が良いのは良い事ではないか」


 手紙の内容を暴露されてよっぽど恥ずかしかったのか、ユースさんにしては珍しく声を荒げながら、頬を真っ赤に染めていた。


 い、一体どんな内容だったのかしら……気になるけど、もし恥ずかしい事が書かれてたら……しかも、それを国王陛下とアレックス様が読んでるって……か、考えただけで恥ずかしさで爆発しそうなんだけどぉ!!


「あ、えっと……ご挨拶が遅れて大変申し訳ありませんでした! その、ユースさ……エドワード様と、僭越ながらお付き合いをさせていただいておりましゅ!」


 ——盛大に噛んだ。恥ずかしいからって慌て過ぎよ私! しっかりしなさい私!


「ふふっ。そんなに緊張せんでもよい。今日呼んだ目的の一つとして、余から未来の娘になる者に挨拶をしておきたくてな。愛想のない息子だが……末永くよろしく頼むぞ」


 あ、あれ? てっきり付き合うなんて許さん! みたいな事を言われると思ってたのに、反対どころか……もしかして、結婚しても良いって許可をもらっちゃった!? うわぁ! どうしようどうしよう! 嬉しすぎて小躍りしちゃいそう!


「よ、よろしいのですか!? 私なんて、今は一般庶民でございますよ!?」

「過去にはエクエス家の令嬢だったのだろう? それに余としては、息子が良いと思い、そして息子を愛してくれる女性なら、身分など些細な事だと思っておる」

「あ、ありがとうございます。あれ……国王陛下は、私が追放されたと仰りましたよね? それも日頃のお手紙で?」

「否。追放の件は、エドワードの調査依頼の手紙で知った」


 調査依頼って……何の事だろう。ユースさんからは特に何も聞いていないけど……私に内緒で何かをお願いしていたって事かしら。


 そんな事を思っていると、謁見の間の扉が勢いよく開いた。折角和やかだった雰囲気だったのに、その大きな音のせいで台無しだわ。


「ふむ……お出ましだな」

「え……どうしてここに……」


 私は謁見の間に入ってきた人達を見て、思わず言葉を詰まらせてしまった。


 何故なら、そこにいたのは、お父様にお母様。そして、ニーナとアベル様だったのだから――

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