第27話 国王陛下が私に会いたい!?

「ゆ、ユースさん……?」

「久しぶりだな、ティア、マリー。元気そうでなによりだ」

「ユースさんっ!!」


 まさか急に家に来るなんて、サプライズにも程があるわよ! しかもそんなカッコいい服を着て……我慢できなくて、勢いよく抱き着いちゃったわ!


「っと……ティアは今日も元気そうでなによりだ」

「来るなら来るって言ってよ! 手紙もあれ以来送ってきてくれないし……ずっとずっと寂しかったのよ!?」

「すまない。ほとんど休まず動いててな」


 今までの寂しさをぶつけるように、ユースさんの胸をポカポカと叩く私の事を、ユースさんは一切怒らないどころか、謝罪をしながら優しく抱きしめてくれた。


 もう、どうしてそんな優しいのよ……叩いた時くらい、出会った時みたいに酷い事を言ってもいいじゃない……あぁもう、好きぃ……。


「マリーも元気そうでなによりだ」

「ええ、おかげさまで。そういうユース様は、かなりお疲れの様子ですね」

「まあな」

「さっき休まずって言ってたわよね? なんでそんな無茶してるのよ!」

「なんで? そんなの、ティアのために決まってるだろ」


 私のため? えーっと、そのー……あ、ダメ……そんな事を言われたら顔がにやけちゃう!


「で、でも! いくら私のためとはいえ、無理はしちゃダメよ!」

「ああ、そうだな。ここまで無理をするのは今回限りにする」

「わかってくれればいいのよ。それで……今日はどうしたの? そんなカッコいい服を着て……」

「迎えに来たんだ」


 迎えにって……もしかして急にデートに誘ってくれるとか!? それは嬉しいけど、なんか雰囲気がそんな風には見えないのよね……感覚的なものだから、ただの勘違いかもしれないけど。


「出発前に、まず……おめでとう。二冊目の本も、完売続出……ベストセラーは間違いないだろう」

「え……本当に!?」

「ああ」

「やったー!!」

「おめでとうございます、ティア様!」

「ありがとう!」


 またベストセラーに選ばれるほど、たくさんの人に買って読んでもらえたなんて……しかも二回目よ二回目! こんなに幸せな事があっていいのかしら!?


「それで、二冊も連続でベストセラーを出し、多くの国民に感動や娯楽を与えた貢献を称えたいと、国王陛下からお声がかかった」

「……はい?」


 えっと、それってつまり……えと、どういう事?


「簡単に言うと、国王陛下がティアに会いたいから来てくれって事だ」

「え、えぇぇぇぇぇぇ!? こ、国王陛下が!? 」


 い、一応これでも元侯爵令嬢だから、大きなパーティーで国王陛下をお見かけした事自体はある。とても威厳があり、そして全てを包み込んでくれそうな、不思議な包容力のある男性だったと記憶している。


 そんな方が、私を呼んでるって……急に言われても困るわよ!


「そ、それって今すぐ?」

「そうだ。俺は外で待ってるから、準備してきてくれ。謁見の時間まで時間はまだあるから、急ぐ必要は無い」


 そう言うと、ユースさんは私から離れて外に出ていってしまった。一方、家の中に残された私とマリーは、いまだに現実を飲み込めていないせいで、その場で口をパクパクする事しか出来なかった。


「ま、マリー……ユースさんはああ言ってたけど、私……何か怒られるのかしら……あ、もしかしてアベル様とニーナが、国王陛下に何か吹き込んでいて、それに怒って罰を与えるとか!?」

「さ、流石にそれはないと思いますが。万が一そうなった場合は、私が命に代えてもティア様をお守りいたします」

「ダメ。私のために命を捨てるような事は許さない。これは命令よ」

「……ティア様……申し訳ございません。軽率な発言でした」


 マリーは自分の発言を悔いるように表情を曇らせながら、深く頭を下げた。


 ごめんねマリー。あなたが私を大切にしてくれてるのも、守りたいって思ってくれてる気持ち、とっても嬉しいの。でも、だからこそ……あなたには無事でいて欲しいから、強い口調で言ってしまったの……こんなバカな私を許して。


「とにかく準備をしましょう」

「ええ。お願いね」

「お任せください」


 私とマリーは一度寝室に移動をすると、身支度を始める。私は前に貴族デートをした時に着た綺麗なドレス、マリーはつい最近購入したドレスに身を包んだ。それ以外にも、マリーに髪のセットやお化粧もしてもらった。


 よし……変なところはないわね。これで完璧!


「行きましょう!」

「はい。どこまでもお供しますわ」


 何を言われるのかはわからないけど、ここで考えてても仕方がない。そう自分を鼓舞した私は、マリーと一緒にユースさんの元へ行くと、そこには大きな馬車が準備されていた。


「思ったより早かったな。ティアもマリーもよく似合っている。とても綺麗だ」

「ありがとう、ユースさん」

「ありがとうございます」

「では出発しよう」


 ユースさんの手を借りて馬車に乗り込んだ私とマリーに続いて、ユースさんも乗ると、馬車は王家の方が住むお城へと向けて進みだした。


 ちなみに私の隣にはユースさんが、対面にはマリーが座る形になっている。


「緊張しているか?」

「え、ええ……あまりにも急だったから」

「それについてはすまないと思っている。だが、早いに越した事はないからな」

「……?」


 早い事にって……どういう事なのかしら? よくわからないけど……とにかくもう逃げられないし、腹をくくるしかないわよね。



 ****



 特に何事もなくお城についた私達は、お城を守る兵士の案内の元、謁見の間の前までやってきた。


 ふぅ……大丈夫……きっと大丈夫……私は怒られるような事は何もしていないんだもの。堂々としましょう……って、さっきから何度も自分を鼓舞してるけど、やっぱり緊張するわ!


「大丈夫だ、俺がついている」

「ユースさん……」


 ユースさんは私の緊張を和らげるために、私の手を優しく握ってくれた。それに続くように、マリーも反対の手を握ってくれた。


 二人共——ありがとう。二人がいれば、どんな事になったとしても何とかなるわよね!


「では、どうぞ」


 繋いだ手を離すのを合図にするように、連れて来てくれた兵士が扉を開けてくれた。中に入ると、そこには玉座に座る国王陛下と、その隣に一人の男性が笑顔で立っていた。


 あれ、この男性……見覚えがあるわ。確か何かのパーティーだったはず……。


「失礼いたします。ティア・ファルダー様をお連れいたしました」

「うむ、ご苦労。下がってよい」

「はっ!」


 兵士は敬礼をすると、素早くその場から去っていった。一方の私とマリーは、国王陛下に向けて深々と頭を下げた。


「国王陛下、お初にお目にかかります。ティア・ファルダーと申します。本日はお招きいただき、大変光栄でございます」

「堅苦しい挨拶は不要だ。そなたがティア・ファルダー……いや、ルイス・エクエスで、そちらの女性が侍女のマリーだな。話は聞いているぞ」


 え、話を聞いてるって誰から? それに、私が本を出してるのを知ってるのは理解できるけど、どうして私の本名や、侍女であるマリーの事まで知っているの?


「初めまして。私は王太子のアレックス・サイアーズ。急な謁見の申し出だったのに来てくれて、感謝しているよ」

「い、いえ……」


 そうだ、何処かで見た事がある方だと思ったら、王太子様のアレックス様だわ。社交界でお見かけしたけど、接点が無かったから顔がうろ覚えだった。


 それにしても、アレックス様って王太子様とは思えないくらい、柔らかい物腰なのね……ちょっとビックリしちゃったわ。


「よいよい。さて、本題に入ろう。ルイス・エクエス……此度こたびのそなたの活躍は目を見張るものがある。一冊目の本でベストセラーに選ばれ、二冊目も選ばれるのは間違いないと聞いている。余もアレックスも大変楽しく読ませてもらった」

「そ、そんな! 大変光栄でございますわ!」


 こ、国王陛下とアレックス様が読んでくださってたの!? しかもお褒めの言葉をいただいちゃったわ! 怒られるかもと思ってたから、動揺が隠せないんだけど!


「国王陛下。少々お伺いしたい事がございます。発言する事をお許しください」

「うむ。なにかね?」

「ティア様の一冊目の本がベストセラーになったのをご存じなのは理解できます。ですが、二冊目はまだベストセラーが確定したわけではございません。つまり、関係者以外はベストセラーになりそうな事を知る事はできません。なのに、どうしてご存じなのでしょう? それに、ティア様の本名をご存じなのも不可解です。それに、ただの侍女である私の事も、どうしてご存じなのですか?」


 言われてみればそうよね。私の本名は追放されてから教えたのはユースさんだけだ。


 それに、前々からユースさんの手紙で選ばれるかもとは聞いていたとはいえ、二冊目がベストセラーに選ばれたのが確定したと知ったのは、ついさっきだ。なのに、出版に関わっていないと思われる国王陛下がご存じなのはおかしな話ね。


「簡単な事だ。息子に教えてもらったのだよ」

「アレックス様にでしょうか?」

「否。そなたの隣に立っているであろう」


 私の隣……そこにはユースさんが、いつもの様に冷静な雰囲気で、国王陛下の事をじっと見つめていた。


 いや、ちょっと待って。息子って……まさか!?


「そこのユースは、余の息子……第二王子。エドワード・サイアーズなのだよ

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