第7話 原稿完成!

「ふっふふ~ん♪」

「ご機嫌ですね、ティア様」

「当然よ! マリーと一緒に買い物なんて久しぶりだもの!」


 今日は久しぶりに私の仕事がお休みで、ユースさんとの約束も無いうえ、マリーの仕事もお休みという事で、一緒にパークスの街に買い物にやって来た。


 お金はあまりないから沢山は買えないけど、食材を買ったりお洋服を見たり本を見たりと、行きたい所が盛り沢山過ぎて迷っちゃうわ!


「マリーはどこに行きたい?」

「ティア様のお望みの場所ならどこへでも」

「それじゃ、ただ私が行きたいところに行くだけじゃない! マリーの行きたい場所を聞いてるのっ!」

「では……調理器具を売っている店に行きたいですわ。フライパンがそろそろダメになりそうなので」

「じゃあ行きましょう!」


 私はマリーと一緒に調理器具を購入した後、スイーツを食べて服と本を見て、最後に今日の晩ごはんの食材を買った。


 もう日が落ちかけてるわね。結局一日中マリーと一緒に遊んじゃったわ! たまにはこういう休日も悪くないわね!


「楽しかったわね、マリー!」

「はい、とても」

「さあ、食材の買い物も済んだし帰りましょう。私も荷物を持つわ」

「いえ。主人に持たせるなど、もってのほかですわ」

「私はもうお嬢様じゃないないんだからいいの! ほら、さっさと渡す!」


 少し強引にマリーの持っていた紙袋のいくつかを取った私は、家に向かって歩き出す。


 今日の献立は何かしら……マリーの作るごはんは何でもおいしいから、つい食べ過ぎちゃうのよね……そのせいか、最近お腹とか二の腕に、ちょっとお肉がついてきちゃったし……もう少しこのお肉が、この貧相な胸にいけばいいのになって思うわ。


「ティア様、お待ちください! 私が持ちますから!」

「いーいーかーらー!」


 全くもう、相変わらずマリーは頑固者ね。私は子供じゃないんだから、荷物持ちくらい出来るというのに。


 それくらいマリーは私の事を心配してくれるし、大事にしてくれてるのはわかるんだけど、もう少しは頼りにしてほしいんだけどなぁ……。





「あれは……ティア? その後ろにいる女……ティア様と呼んでいたが……もしかして従者か? ティアの家は、従者がつく程の家なのか? だが、ファルダー家なんて聞いた事も無い……どういう事だ? 気になるな……少し調べてみるか」



 ****



「よし、良いだろう」

「……ほ、本当に?」

「ああ。これを次の会議で提出する」

「や……やったー!!」


 あれから更に直しを重ねに重ね、ついに一つの作品を書きあげた私は、嬉しさのあまり、いつもの小部屋に歓喜の声を響かせてしまった。


 ついにここまで来れたんだわ! 本気で書き始めて一年とちょっと……辛い時も苦しい時もあったけど、無事に作品を作れたんだわ!


「良いって事は、面白いって事よね!?」

「面白い。初めて出会った時と比べて雲泥の差だ。だが、まだ本になると決まった訳じゃない。俺以外の重役に読ませて、認められる必要がある」

「それでも! 嬉しいものは嬉しい! やった、やったー!」

「ったく……本当によく頑張ってついてきてくれた。俺も嬉しい」

「ユースさん……!」


 私の目標である、私の王子様の素晴らしさを世界中に広めたいという事や、マリーに楽をさせてあげたいという目標がもうすぐ達成できるかもしれない。


 それに、ユースさんをぎゃふんと……ううん、凄いものを書いて喜ばせたいという目標が達成できたせいか、私の目からは大粒の涙が流れた。


「おい、大丈夫か」

「だ、大丈夫です……ユースさんに喜んでもらえる作品が書けて……嬉しくて……」

「俺を見返したかったんじゃなかったのか?」


 ユースさんは私をからかうように、僅かに微笑みながら言う。


 確かにユースさんの言う通り、最初はユースさんを見返すために書いてたのもあったけど……今は全然思ってないわ。


「そうですけど……ぐすんっ。今は喜んでほしくて……褒めてほしくて……」

「……そうか」


 泣きじゃくる私の頭に、ユースさんの大きい手が乗ると、ワシャワシャと撫でてくれた。


 それは凄く暖かくて、嬉しくて……ずっと認められてこなかった私を、たくさん認めてくれてるようで……とにかく嬉しかった。


「ティアは凄い。一年担当した俺にはわかる。だから、胸を張れ」

「う……うぅぅぅぅ~~~~!!」


 優しく微笑むユースさんの言葉が嬉しくて、もう感情がぐちゃぐちゃになった私は、子供の様に泣きじゃくった。その間、ユースさんは何も言う事なく、私の頭を撫で続けてくれた。


 あぁ……やっぱり優しいなぁ……やっぱり私、この人の事が好きだなぁ……。


「落ち着いたか?」

「はい……ごめんなさい、迷惑をかけちゃいました」

「問題ない。泣きたい時は泣けばいい。それで、今後の話だが……会議にこの作品を出して、出版するかを話し合って決める。会議はまだ少し先になるから、それまではゆっくり休んでくれ」

「わかりました。って……そうなると、合否が出るまでユースさんと会えないって事ですか?」

「そうなるな」


 そうだよね……書いてないんじゃ見てもらう必要もないし、そうなれば必然的に会う必要もないもんね……ちょっと、ううん……凄く寂しいわ。


 私、こんなに寂しくなっちゃうくらい、この一年でユースさんの事が好きになっちゃったのね……。


「あー……その、あれだ。ティアは普段新聞配達の仕事をしてるんだったな」

「え、はい。そうですけど……」

「なら夜は開いてるだろ。三日後の仕事は早く終われそうでな。ティアが良ければ飯でもどうだ?」

「っ……! いきます!」


 なぜかそっぽを向き、頬を掻くユースさんの提案に、私はかなり食い気味に答えた。


 うふふっ……ユースさんとごはんなんて久しぶりだわ! これってごはんデートよね!? 楽しみ過ぎて死んじゃいそうだわ! あっ、帰ったらマリーにごはんはいらないって言っておかないと! あぁ楽しみだわ!



 ****



 無事に書き上げてユースさんに褒めてもらった日から少し経ったある日。会議の結果を聞くためにイズダーイへとやって来た私は、身体をガチガチにしながらも、いつもの小部屋へと入った。


 あぁぁぁぁぁ緊張するうぅぅぅぅぅ!! 結果はどうだったのかしら……ダメだったら、また作り直しかしら……もしかして、ダメだったから担当を降りるなんて言われないわよね!? もうユースさんと物語を作れないなんて嫌よ!?


「待たせたな」

「い、いえ! だだだ、大丈夫でしゅ!」


 盛大に噛んでしまったわ。しかも物理的に……舌がヒリヒリする……。


「とりあえず落ち着け」

「落ち着いてなんていられませんよ! それで、結果はどうだったんですか!?」

「ああ、結果は――」

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