探偵は注目を浴びる

Aris_Sherlock


「さっきの刑事さんたちの話し声聞こえましたよ。」

通報を受け駆けつけた現場にいた探偵は言う。

「今から少し前に怪しい帽子をかぶった中年太りの男が周辺で徘徊していたとの目撃証言があったみたいですね。」

探偵は刑事たちの注目を集めている。無理もない、事件を探偵が推理するなんて俺を含め普通の刑事は見たことない。格好は本物のシャーロックホームズのように茶色チェックの服とベレー帽をかぶっている。

「さぁ、材料はすべてそろいました。推理をはじめましょう。」

その場にいる全員が息をのむ。

「今回の事件は、この部屋の主人がごみを捨てに行く間を狙った空き巣です。だから犯人は開けっ放しの玄関からこのアパートの部屋に入った。」

部屋を調べた結果、窓はほとんど閉まっていて、ほかに大人一人が通れる場所はなかった。

「犯人は部屋を荒らし、目的のものを見つけ出した。そして、逃走しようとした。ここから、犯人は被害者と関係がない、そして場当たり的犯行であると考えられます。」

実際に部屋は荒らされていた。家主は金品が盗まれたと証言している。金品を狙った空き巣で間違いない。

「しかし私はおかしいと思ったんです。荒らされた量に対して犯人がいた時間は短すぎる。」

家主が家を空けていた時間は二、三分。しかし、しっかり荒らされていた。

「だが、犯人はしっかり目的のものを見つけ出し、盗もうとした。おかしいと思いませんか。」

「つまり何が言いたいんだ。」

1人の刑事が言う。

「つまり、犯人は被害者の部屋の中のどこに目的のものがあったかを知っていた。そして、場当たり的犯行であると誤解させようとした。」

「なぜそう言い切れる。」

ほかの刑事が言う。

「怪しい目撃証言があること自体です。場当たり的犯行なら、徘徊している姿は見ないはずです。」

家主が家を出るのをずっと見ていた。だから徘徊している様子が目撃された。的を得ていると思う。

「徘徊するには顔を隠せる帽子をかぶっているのは適当でしょう。おそらく、目撃されたその人物が犯人で間違いないいです。」

なかなかの推理力だ。正解なのだろう。

「今回よかったのは家主さんに犯人が襲いかからなかったことです。証言だと玄関のドアを開けたとき人が動く音が聞こえたみたいですね。その時犯人は玄関ではないところから逃げた。この部屋はアパートの端の部屋です。隣の建物との間にある隙間から逃げようとして、窓から逃げようとした。」

被害者に怪我がなかったのは不幸中の幸いだろう。最悪、家主を殺してでも逃げて行ってもおかしくない。

「いくつか質問してもいいか。」

俺が声を上げた。注目が一気に俺に集まる。

「君はいつここへ来たんだ?」

「刑事さんたちが来る少し前です。事件あるところに、探偵ありですから。」

「ここの家主の人と面識は?」

「あります。この部屋の家主さんはこのアパートの大家さんでしてね。お世話になってるんです。この前なんて部屋に上がらせてもらってお茶まで出していただいて、ほんと親切な大家さんですよ。」

「ということは君はこのアパートに住んでいるのか?」

「ええ、このアパートの二階に。でもそれが何か今回の事件と関係あるんですか?」

「あぁ、いやまぁ一応…」

探偵はべらべらしゃべるが警察はたとえ探偵でも一般人に事件のことを話すわけにはいかない。

「そのぉ…そろそろ落ろしていただけませんか」

注目を浴びる探偵は言う。

「犯人は誤算があったみたいですね。思ったより早く家主が帰ってきてしまった。だから、玄関ではなく開いていた窓から逃げようとした。だが、中年太りの犯人にはその窓は小さすぎた。」

注目を浴びる探偵は続けた。余裕そうに言っているが顔は辛そうだ。普通の成人男性でも抜けるのが大変そうな大きさの窓から上半身だけをのりだして、脂肪の溜まった腹が窓に引っ掛かった状態で推理を唱えてたら、注目しない人間こそいないだろう、それもシャーロックホームズの格好で。さっきからそれを見て、ずっと笑いを堪えている刑事もいる。

部屋の中に入る。窓の内側では中年男性の尻とあしがだらん、となっている。ポケットを見ると札束が入った封筒が無造作に入れられている。

一髪尻を軽く叩く。おふっ、とおっさんの声が聞こえる。

「なんで叩いたんですか!?」

「いや、ちょっとwww叩きたくなるような尻だったからwww」

気を取り直して外側に行く。

「さっきのは、推理というより、自供といったほうが適切なんじゃないか?」

「ずっと憧れてたんです。事件で自分の推理を聞かせるのを!」

「そ、そうか。」

犯人が楽しく自供してくれるならこれ以上楽なことはない。自分が起こした事件だが。

シャーロックホームズの格好をした中年のおっさんはそのあと無事に窓を抜け、連行された。その後、窓の修理代を請求されたとかされてないとか。

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